これから『自伐型林業』を志す皆さんへ

津和野町に移住して自伐型林業に取り組んで3ヵ年が経過したぐっさんです。津和野町での自伐型林業の地域おこし協力隊第一期生として着任し、関係頂いた皆様のお陰様で大きな事故や怪我もなく、本日で任期満了となります。任期満了を迎えるにあたり、この数週間、『3ヵ年で何をしてきたか』を振り返っていました。

着任直後、今のスタイルを実現するために必要な機材・資格・費用などを調べ、その予算を有効に迅速に活用できる会社を設立し、資格取得、機械導入、そしてようやく自身の現場に入ったのは着任から9ヶ月後のことでした。それからは、技術習得のために日々現場に入り、路面の状況を観察しながら少しづつでも作業道を延長していきました。これまでの私自身の開設総延長は約2000m、他メンバーも入れると約8000mとなります。全体の間伐面積は約13ha、搬出材積は400㎥程。この間に大きな怪我を伴う事故はありませんでした。

『3ヵ年で何をしてきたか』と言う自身の問に、なんと答えるかと言えば、『安全管理』に尽きるのだなーと言うことに着地しました。

津和野町では毎年3名の地域おこし協力隊を募集して、4期目の現在では13名が着任、現在(2017年12月末)は10名が在籍となっています。全業種中ダントツ1位の事故率の林業において、常駐の指導者がいない中、素人ばかりでの作業をする事は大変なハイリスクです。師匠はキャリア30年以上吉野の篤林家ですが、毎朝『今日も生きて帰ろう』と気を引き締めて出勤するそうです。

林業は木材生産に限らず、日本人にとって多面的な恩恵を受けられる素晴らしい仕事です。しかし、それがどんなに素晴らしい仕事でも、自伐型林業が新規参入し易い業態でも、それに従事する皆さんが生きて帰らなければ意味が無いのです。

『安全とは?』と問われても、まだ明確な回答は出来ません。林業の現場における安全は(もしくはリスクは)、その瞬間の木の直径・枝振り・傾きなどの重心や、樹木の種類・樹齢・時期による木の硬さ、傾斜角、作業する機械、予算、一緒に作業するメンバー、天候、仕事の期日、時間、日の長さ、自身の体調や精神状態etc...数え切れないほど多くの要素が複雑に絡み合っています。

少しネガティブな話になりますが、個人の利益やプライドの維持のために動く人は世の中に多からず存在します。しかし、それは人間として、もしくは生物として当然の感情なのかもしれません。団塊ジュニア世代で『競争の中で』、『不景気と言われる中で』、『年功序列ではなく実力主義で』と言う環境に長く身を置いた人間としては、そんな暮らしに嫌気が差し、『人と関わらずに山で木を伐って暮らす』と言う選択を私はしました。

しかしながら、実際には声をかけられればアチラコチラで自伐型林業の素晴らしさを語り、この3年で広告代理店時代の前職と変わらないほどの方々と名刺の交換をし、交流させて頂きました。

その矛盾した行動にずっと違和感を感じ、疑問を持ち続けて来ましたが、それは『安全管理・危険予知に起因した行動』であったと答えが出たのです。

『安全』とは?

『安全』とは前述の通り、一言で言い表せるものではありません。そして、それは『お金・時間』と大変密接な関係があります。

例えば、『機械が壊れる』としましょう。そうすると、修理費用がかかります。修理費用がかかると利益が少なくなります。あまり修理が多いと赤字に成ります。機械が壊れた後に赤字にならない様にする為には、①その後の作業スピードを上げる、②出荷材積を増やすなどが考えられます。実際には機械損傷による作業時間・人件費コスト、機械修繕費のコストを材積で賄う事は、さらに追加での伐倒・造材・搬出コストが掛る為、実質的にコスト解消することは難しい計算になります。となると、①の『作業スピードを上げる』と言うことになりますが、その為には『③段取りを良くする』、『④必要な作業を端折る』しかありません。常日頃からコスト意識が高ければ、③の段取りを更に改善することは容易ではなく、結果的に④の『作業を端折る』と言う事になります。その際に何を端折るかと言えば、必要な確認や一度に大量の移動を行うなど、安全を担保する為に必要な時間が削られることになるのです。

4つのコンセプト

津和野ヤモリーズでは4つのコンセプトを掲げています。

①安全第一・②美しい森づくり・③カッコイイ林業・④考える力

安全第一はそのままですが、美しさと言うのは安全性の向上にも繋がります。また、自身の山を所有せず、山を借りて施行する場合、その木や山は持ち主の財産です。地域で信頼を得るためには、丁寧で安全な作業、そしてその対価をちゃんと山主に返還することが必要です。そのためには、安全で丁寧な作業が必要になり、丁寧な作業をできる時間を創る為には、段取りを良く、その結果、利益率が向上して山主へ還元→信頼とつながってきます。

事実、地域の方が知らない間に我々が作業した後の現場を訪れ、『うちの山もやってくれ』と声をかけて頂くこともしばしばです。

”人と関わらずに山で木を伐って暮らしたいオトコ”は、每日生きて帰るために、前述の内容が理解できる人間と一緒に山に入るために、一見矛盾しているとも見える『人と関わる、広報活動』と『メンバーへの啓蒙活動』を日常の現場作業と並行してし続けてきました。そして、全業種中圧倒的事故率の業界で怪我なく過ごすことが出来たのです。

林業における怪我や死亡は、新人ばかりではありません。確かに新人の事故率も高いのですが、10年位のキャリアの方も、30年以上のベテランの方も近い数値で事故に遭われています。たった3年怪我をしなかったからと言って、気を抜くことはできません。

自伐型林業は素晴らしい仕事です。しかし、それを継続するためには多方面を見渡した危険予知・リスクマネジメントが必要になります。あなたが死んで悲しむ人、困る人がいます。あなたが死なせて悲しむ人、困る人がいます。生きて帰り、普通の食卓を囲むことが何よりも大切です。

自伐型林業は林業経営の一つのスタイルです。それを実践するためには、何よりも安全、そしてそれに伴ってのお金と時間の配分が『ナリワイ』として持続できるかを左右します。

これから、自伐型林業を志す皆さんが、どうか怪我することなく、素晴らしい山から日々、無事に帰ることが出来ますように。


written by ぐっさん


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