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上へ (2) - 男3人冬物語 -

今回の内定者連絡会は、池袋。サンシャイン60にある分室。そこに会場の会議室はある。新宿の本社に行くのに、不慣れでまだ中央線にも乗れなかったし、僕はいつものように山の手線で行くことにした。
上に面接に行って帰って来た同級生たちが口を揃えて言う「東京はひとが多い」…。


求人票にあった人事課に連絡した桜庭が「とても丁寧な受け答えで、石澤があんなふうになるとは、とても思えませんね(笑)」と、初めて向かった新宿西口のセンタービルに担当の千々松さんはいた。上野から探し当てるのに2時間はかかったと思う。

すぐに北口にあった、古そうな旅館に案内され「明日、本社に9時に来てくださいね」と、会社の封筒を渡された。

…もう夕方だった。アダルトチャンネルが有料だった。「東京はチャンネルが多い」
せまく小さな浴槽。お湯の出し方がわからない。シャワーがない。僕は水風呂を浴びた。

食事はしようと外に出る。古びてほこりっぽくて入りやすそうな「かつ丼 牛丼」の昇りがある「どんどん」に入った。当たり前なのだろうが値段が書いてある。…かつ丼を頼んでみた。

すぐ旅館に戻り、テレビを点ける。
何も感情が湧いてこない…。「無機質」、だ。そのまま敷かれた布団にもぐり、うたた寝のまま朝のアラームを待った。


学生服に着替え、テレビを点ける。

「……」

いくら待っても朝食が出てこない…。これはどういうことだ?と、思った、が、そういうものかと思い直した。
封筒の5000円は丁度の宿泊料、食事代も入っていない…。これはどういうことだ?と、思った、が、そういうものかと思い直した。


…高卒で内定したと思われる方々が、ほとんど皆、スーツを着ている。僕は今回も「新幹線で来た」ことにして、交通費を水増しして提出してやった。新宿のセンタービル近くの公園で、明石家さんまのロケを見て「東京はすぐ芸能人に会える」はただの偶然であろうことに気づきはじめていた。


「ゆうづる」

寝台が三段になっている。明朝は中間テストの初日。学年主任の倉光「必ず間に合うように帰って来い。できないなら行くな!」だろう?
僕も僕で、会社への水増し請求で上京するための資金を貯めたいのだ。

五能線、東能代行き藤崎駅7時9分発のボックス席に、初めて僕とかんちゃん、広栄の三人だけで座った。
二人は、いつもより少し微笑んでくれたように思う。

…もうすぐ、冬が終わる。

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