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星屑ダンプカー國男(第一回)

「チーッ!」
「チーッ!」
石澤國男(いしざわくにお)が転がす、星屑集積会社「スターダストロード」のダンプカーのエアークラッチが響く。ハシシを咥ながら、今日も「星の下北」「男の星道」「無限一番」の行燈を灯して、ミルキーウェイを光速100c、≒3000万キロメートル毎秒でぶっ飛ばし、アンドロメダダストステーションまで週一回、水曜日の休日以外は毎日星屑を納めに行く。

國男は、西暦1971年9月8日、太陽系第三惑星地球、ユーラシア大陸、東アジア州、日本国、東北地方、青森県北津軽郡板柳町大俵の私道で、青函トンネル建設に使用される石材をダンプカーにて運搬中、正面から車道に幅寄せしてきたリヤカーを躱しきれずに、歩道脇の灌漑用水にダンプカーごと横転。とっさにドアを開き脱出しようと試みるものの、ドアとキャブの間に頸部が挟まり、溺死。告別式にて、妻、石澤ひろの喪服の左袖を形見に三途の川を渡り、幽界、霊界を経て、仏となる。

スターダストロード入社後は、持ち前の人柄の良さが評価され、異例の早さで本社ミルキーウェイ星屑集積部、部長に昇格。プライベートは、著者、石澤健の実姉、石澤愛と、祖母の石澤ツセと共に、銀河系、諸星マンション206号室に三人住まい。趣味、飲酒。好きな食べ物、海鼠。嫌いな食べ物、南瓜。

「部長、今日はネズミ捕りレーダーが静かですね」
業務用無線で、課長の菅原文太が丁寧に言う。
「ピヨー」
國男が念を入れて気をつけろと真剣に応える。
「課長、牛乳七本ストロー一気飲み、チャレンジしていいっすか?」
係長の愛川欽也が、あんぱんを口いっぱいに頬張りながらもごもご言う。
「九本にしろ!」
文太が厳しく命令する。
「係長、ミルメーク入れないんすか?」
平社員の流れ星銀次が冷やかす。
「給食の時間にはまだはやいだろ!適当なこと抜かすんじゃねぇ!」
キンキンが怒鳴りつける。

男の旅は~一人旅~、女の道は~帰り道~
所詮~通わぬ~道ぃ~だけど~
惚れた腫れたが~交差~点~
あああ~、ああああ~
一番星そーらーからー
おれの心を~見てる~だろぅ~

「よっ、課長、シビレルねー」
キンキンが合いの手を入れる。

「よし、こっからはギア、トップに入れてぶっ飛ばすぞ!」
「おー!」
國男に続いて部下たちのエアクラッチが一斉に
「チーッ!!」
と、鳴り響く。

にわかにアンドロメダダストステーションが見えてきた、もうじきブレーキだ。
アンドロメダダストステーションの主任は高倉健である。
健は國男たちが到着すると、決まって玉露と干し柿を差し入れする。
國男はいつも干し柿を食べないで持って帰る。愛娘の愛へのお土産にするのだ。

健は、それを知っていて二つ出そうとするのだが、國男は甘い物が苦手だからと断っている。

「フー、福岡の八女(やめ)の玉露はいつ飲んでも美味いねぇ」
キンキン、銀次は笑顔を溢しながら御相伴にあずかるのだった。

「さー給食にしよう、いつものように歌うぞっ!」
「ごーはんだ、ごはん―だーさあーたべよー、ハイッ!」
國男が先頭を切って声を出す。

ごはんだーごはんだ、さあーたべよー
風も爽やーかー、心も軽くぅ~
みんな元気だ感謝してぇ~
楽しいごはんだー、さあーたべよー

「いただきますっ!」
「いただきまっす!」

「わーい」
アンドロメダダストステーションの中庭にレジャーシートを広げ皆で輪になる。

國男の今日の昼飯は、母親ツセの手抜き弁当の「のりたまご飯」だった。
隣に座った文太は部長のそんな弁当を見て、自分の弁当から「カニさん」のウインナーを差し出した。
「ピヨー」
國男は子供のように無邪気に喜んで見せた。

キンキンの弁当は朝飯と同じあんぱんと牛乳だった。但し、ミルメークを入れてコーヒー牛乳にした。

銀次の弁当は日の丸弁当。課長は彩を考慮して「オクラの生姜醤油和え」を分けてやった。

皆で仲良く、わいわい言いながら食べるランチである。

同席した健が急須を振って、あっつい玉露を皆に配った湯飲み茶碗に三回に分けて注いだ。

「あれ?おー、これは縁起がいい」
キンキンの茶柱が立っていた。

「牛乳の蓋をみてみろ」
國男が促す。

「あ、当たりだ」
蓋の裏に「レギュラー賞」と赤字で書いてあった。買った先の、藤井商店に持っていけばもう一本だ。

「よし、さー、そろそろ行くか」
「ごちそうさまでしたっ!」
「ごちそうさまでしたっ!」
と部下たち。

とうとう終わった~ひーるごはんー
腹は満腹~弁当も軽くぅ~
みんな元気だー感謝してー
食器洗いにーゆきましょうー

「じゃあ健さん、またっ!、へばピヨ~!」
「ごちそうさまー、へばピヨ~」
部下たちが揃って健さんにお礼とお辞儀をする。

帰り道は業務用無線を回して皆でアカペラ大会になる。

「かーえーるのうーたーがー、きーこーえーてーくーるーよー、グワッ、グワッ、グワッ、グワッ、ゲロゲロゲロゲロ、グワッグワッグワ~」
國男がトリをとって無事全員安全運転で帰社。
只今、15時28分。これから定時の17時まで、たっぷりデスクワークだ。

何、デスクワークといっても、ダンプの運転席でやられた腰を休めるのが主な仕事である。國男はいつもの様に体を横たえ今は流行らない「ツムツム」のコンボ稼ぎをしながら、凄腕の按摩師(あんまし)の小春おばちゃんと馴れ合いをするのだった。

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