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児相26日目。「不必要だけど必要な場所」

 「今日も仕事があるのか……。」

 この心の呟きは、一般的なそれとは意味が違う。仕事がダルいから行きたくないとか、めんどくさいから休みたいとかそういったものではなくて、仕事がないほうがここでは「よし」とされる。なぜなら、児童相談所の一時預かり所に保護される子どもは、病院に患者がいないほうがよいのと同じでいないほうがよいわけだから。ここに来るようになってもう少しで五ヶ月になるけど、今のところ「入所者0」の日は一度もない。

 ただ、子どもたち目線で考えてみると、逆にここにいることで安心することもあって、暴力から逃げることができたり、新しい大人の価値観を知ることができたり、狂った生活のリズムをリセットできたりと、入所することで得るものもある。だから、仕事がないほうがいいけど、あることも重要という極めて複雑で不思議な感覚の仕事なんだなと改めて感じる。

 「しばらくいると思う」

 ここにいることに慣れてきている彼女。今日は珍しくここに留まる言葉を発した。いつもは早く出たい気持ちが言葉に表れるけど、今日は違った。その意図はわからない。けど、出たくて仕方ないことでもなさそうだった。これが、この一時預かり所の複雑で不思議な仕事の一つ。入所中は適度な安心をつくりだし、それでもここが必要なくなるような仕向け方も必要になってくる。

 「いたいけど出たい」

 その気持ちが子どもたちの中に芽生えた時、それが一歩目となってここを卒業していくんだろう。実際、ここに来てから、何人もの子どもたちが退所し、自分の人生を歩み出した。

 きっと、天地がひっくり返らないと児童相談所や一時預かり所という場所はなくならないと思う。なぜなら、人間は決して完璧ではないし、欠陥だらけだからだ。その本来無い方がよいけど決してなくならないこの場所が、子どもたちにとってのスターティングブロックになるように、仕事がないことを願いながらもまた子どもたちに会いにここにくる。

 

 

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ちばつかさ
いつも読んでくださりありがとうございます。いろんなフィードバックがあって初めて自分と向き合える。自分を確認できる。 サポートしていただくことでさらに向き合えることができることに感謝です。