《エピソード31・想いと願いの狭間で》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。
想い
Mと抱き合った。その不思議な感覚はMを想う気持ちと同じようなもので、曖昧で不完全で形のないもの。“彼女“という位置づけでもなくて、僕は彼氏という男でもなくて。お酒を飲んだあとの延長で時間を共有しただけのものだったのかもしれない。
曖昧な関係
Mとの物理的な距離は抱き合うことで近づいた。というより、状況を考えれば
もう付き合いたてのカップルよりも距離は近くて、関係性を考えればもっと深いものだったかもしれない。それでも2人の距離は近づいた感覚はあまりしなかった。
抱き合った日の朝。Mと2人で歩いたけど、抱き合った割に手を繋ぐこともなく、たまたますれ違ったMの友達に「彼氏?」と聞かれてもMは違うと首を振った。僕もその答えに妙に納得する。
とにかく不思議な感覚だった。
おそらくMの中には僕なんかよりも同棲していた元カレのほうが近くて、Mの中にまだその残像があったと思うし、僕の中にもCちゃんやS子の残像が微かに残っていて、その欠片がMとの関係を曖昧にさせていた気がする。
抱き合ったからと言って「好きだよ」と言われたことはなかった。僕もまた本気で「好きだ」といったこともなかった。冗談じみて言う「好きだよ」は2人の関係を本当に冗談のようにしてしまったのかもしれない。
今まで仕事先ですれ違っても、Mの中身までは見えなかった。2人乗りの自転車で触れ合ってもそれ以上の感覚はわからなかったけど、Mの温もりを肌で感じたあとはやっぱり見る目が変わってしまう。それはよくも悪くもだ。
見えないものや触れることができないものに対して「見たい」とか「触れたい」と思うのは人間誰しも思うことだろう。でも、その想い願う時が1番輝いていて、それを目にしたり触れた瞬間にその輝きが弾く。そしてそこをピークとしてその輝きは失われてしまう。
触れられない時は長く、初めて触れるのは一生に一回だけで触れてしまえばもう“触れたくても触れられない“想いは二度とやってこない。
Mともそんな感覚だったんだ。
二回目
Mとの関係はあの日を境になにかが変わったわけでもなく、今まで通りだった。仕事場では仲良く話をするし、回数は減ったけど飲みにも出かけた。仲間の部屋に置いてあったターンテーブルをMが回すのを聴いたり、カラオケで歌ったり。
ほとんど彼女と彼氏の関係だったけど、いまだに告白という契約みたいなのは交わさなかった。きっと、その関係でいることが安心だったし、“ものにできない“くらいがちょうどよかったのかもしれないし。
夜な夜なドライブにも出かけた。目的地もなくただ景色が変わる中で会話するだけのドライブだった。でもあの日は目的地がホテルだった。
「眠いから」というもっともな理由で行った。
触れようとしない僕に痺れを切らしたのか、あの日はMからキスをしてきた。なにか嫌なことがあったのかもしれないけど僕は素直にそれを受け止めた。
その日は「今日は最後までできたね」と嬉しそうにMは言った。
2回目のSEXは1度目のそれとは色も温度も違かったけど、どこかCちゃんの時に似ていて。別れ際にMが離れていきそうな感覚になった。
抱き合うことは毎回、終わりを告げる合図なのだろうか。触れ合うことが始まりだと思っていたものは勘違いだったのだろうか。
そんな音がした気がした。
Mと1番近づいた気がしたその時に、離れていくMを感じるのはなんだか切なかったし不気味だったし。
でも僕の感覚はのちに間違いじゃなかったことになる。あれから何日経ったくらいだろう。
S子から連絡があったんだ・・
続きはまた。