《エピソード23・空箱を抱えながら》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。
新しい出会い
S子と別れを告げた。6年間の思い出に未練がなかったのかと言われればあったのかもしれないけど、意外にもあっさりと別れることができたのは、もう”そうしなければいけない”という思いが溢れていたんだと思う。「あんたの優しさは人を傷つける」のならば、僕は「これは傷をつけない本当の優しさだ」と自分自身に言い聞かせていた。もう、僕の中にS子はいなくなった。
出発と引っかかり
僕は借金返済のためにパチンコ店で働いていた。アルバイトでスタートしたのち、能力を評価してもらえたのか23歳でホール責任者をすることになる。ギャンブルに溺れていたくせに
ギャンブル場で働いていた僕。借金の原因になったその場所は、いろんな人間模様があった。僕と同い年だったAちゃん。地方から出てきてお金を稼ぐためにアルバイトとして入ってきたけど、パチンコ店に入ったことすらなかったAちゃんにとってすべてが新しい出来事だった。
歌手を目指していたMは、才色兼備。知的で鋭くて。絵も上手で歌も上手い。どこか冷たさを秘めたその美貌はお客さんから一目置かれている。
逆にCちゃんは温和で優しい感じの子。学費を稼ぐために働く姿勢は、アルバイトの男性を虜にした。
パチンコ店は時給がよい。学生にとっては都合のよいアルバイトで、たくさんの人に出会うことになる。Kくんはロン毛に茶髪。ビジュアル系バンドに憧れてた僕より3つくらいしたのヤツで。
写真家を目指す。役者を目指す。いろんな夢を持った人間や、憂鬱の中に生きる子や、僕みたいに失恋後に借金返済のために働いていたり様々な世界があって、S子との世界に閉じこもっていた僕にとって、新鮮で、斬新で、なんだか楽しい場所だった。
そんな場所で出発した僕。S子と別れてからはどこか寂しさが残った。そんな時に毎晩飲み歩くようになったのは知的でクールなMだった。
僕にはない何かを持っていたし、僕のことを軽くあしらう感じが、今までのS子と違っていて。僕がMに惹かれていくのがわかった。そしてMも僕に近づく。その時Mには同棲している彼がいたのに。
なにもない
きっと僕はどこかで愛情を求めていたんだと思う。S子と別れたあと自宅に戻ったけど、親との距離は縮まるわけでもなく、S子と一緒にいた間に失ったものが多かったのか蓋を開けてみたら友達もお金も何もかもを失っているように感じていた。
その反動が強くて、出会う人に愛を求めた。空になった心が何かを欲していたんだ。
Kくんとは朝からパチンコ店に並んで馬鹿騒ぎしたし、同い年のAちゃんとはいろんな話をした。
Cちゃんには優しさを求めて食事に出かけ、Mには恋心を抱いた。
とにかく隙間だらけだった心の中を、自分勝手に目の前の人を使って埋めようとしていたんだ。そう自分勝手に・・。
Mとの距離は少しずつ近づいた。事あるごとに彼の相談をしてきたMに親身になったのはMのことが好きだったからだ。仕事が終わってから飲みに行く。日を跨いだあとは自転車に二人乗りして家まで送る。そんな日々だった。
一方でKくんやAちゃんとも遊び、時にはCちゃんと出かける。なんだか自由で、縛られることもなくて。
仕事ではそれなりの地位をもらいアルバイトの人をまとめる。でもみんなとは歳も近くて同僚でもあり友達でもありだった。
魅力的な女の子もいる中で僕は自由の空を舞った。S子との時間がいかに窮屈だったのかがわかった。それくらい押さえつけられていたんだと感じた。いや、僕がS子を傷つけ、僕が勝手に責任を感じて、僕が勝手に殻に閉じこもっていたんだけど。
囲いのとれた毎日が過ぎ去ってゆく。
でも、囲いが取れた人間は制御できる力がなければ自分でブレーキを踏めなくなるもの。ギャンブルだってそうだった。借金だって制御できないから膨れ上がったのに。
力もなにもない僕は、今度は愛情に溺れていくことになる・・。
続きはまた。