《エピソード26・後ろの景色》弱冠20歳で1000万超えの借金、鬱、自殺未遂、親との確執。からの逆転人生を実現させたリアル話。
振り返ったその先に
週6日で仕事をして、空いた時間でトレーニングと限界を超えた食事をする。今までの習慣には決してなかった挑戦の中を生き始めた。もうそうするしか道はなくて「やらなきゃ脱落してしまう」という固定された思いで動いている中、1週間たつと体の中に歪みのようなものを感じた。「なんだろう」という感覚は後ろのほうから揺さぶってくる。
禁断症状
決めてから動くまでは早かった。計画を立てて歩きだした僕は、新しい世界を望み希望を持つことでその苦しみを忘れようとしていた。なぜ
早く動けたのかはわからないけど、新しいことは予想を超えて苦しみの影で楽しさを作った。
苦しいけど楽しい・・・
おそらく、苦しみを越えようとする自分や頑張っている自分に酔うのと同じ感覚なのだろう。一瞬の快楽さえも感じた。限界を超えた食事は喉を通らないし水で流し込むような食べ方なのに、公園にできた新しい遊具で遊ぶように時間が過ぎた。
食事をするだけのために朝5:00に起きることもどこか滑稽で笑えた。食事さえできなかったのに、わざわざ起きてまで食事をするのだから。
それでも、たった1週間で体と心の中に歪みを感じる。どんなに楽しくても慣れすぎない程度にそれが分かると急に苦しくなった。1週間では結果なんかでないし、お試しのようで楽しんでいた期間がすぎた瞬間にそれが永遠に続くという怖さのようなものが現れる。
おそらく慣れ親しんだ後ろのほうにあるゆるい習慣が「いかないでくれ」と囁いてるに違いない。辛いことはやめなよ、前に戻ろうよ。そうやって楽な道に引っ張ろうとしてるんだ。
そう思っていても歪みは大きくなった。急激に「やめたい」という気持ちと「戻りたい」という気持ちで身体中が溢れかえった。
そんな中で仕事にいくと、あの時感じた大きな幸福感のようなものが蘇る。大当たりをしたお客さんを見るたびに脳内にホルモンが放出されるような気がして。都合よく“あの頃“のよかった思い出ばかりがフラッシュバックして後押しする。背中を押すのではなく、僕の後ろ髪を引っ張ってくるんだ。
そして僕は誘惑に負けた。後ろに見えた綺麗な景色に手を出してしまった。あっけなく。簡単に。
禁断の扉
パチンコ店で働いていると従業員はもちろんパチンコやパチスロをする人間が多い。そして、僕も例外ではなくて誘われて“あの場所“に戻るようになる。押さえつけられた日々の中に、あの時の快楽を求めにいったのだ。
「今日だけね」から始まった付き合いは頻度を増やし、1人でも行くようになった。トレーニングは続けていたものの合間をみては通うようになる。
今まで一人で行っていた場所にも、仲間といくことがそれに拍車をかけた。仲間と共有できる喜びや悔しさは中毒性に火をつける。
月給28万のうちの残った8万円を使っていたお金も足らなくなるのも時間の問題で・・・。僕はまた禁断の扉を開けてしまったのだ。
信用金庫で借り替えられた借金は、全てが返済されて綺麗になった。融資可能額は最大値に戻っている。「カードは切断」そう言われた中で、切断したカードもあったけどなぜかそのまま持っていたカードもあった。そこが僕の弱さなんだろう。
借り替えたといえど、融資可能額が満額になった状態ならばいつでもまたお金を借りることができる。この状態が僕をまた狂わせた。そして開けた扉。開けてからは早い。そして人は楽で、苦しみを感じることが少ない習慣へといとも簡単に戻っていく。
18万の返済と2万の貯金。その継続の裏で新たに増えた借金は、働くことの意義を奪うけれどそれにも気づかない。
でも、気づいたことがあった。
あの頃の習慣と一つだけ違っていたこと。その違っていたたった一つが戻ろうとした僕を引き止めていた。そして僕はこの一つに救われることになったんだ。
続きはまた。