妻の記録:朝寝・昼寝・夕寝
妻が右手首付近を打ち身して、手の自由が利かない。夫が家事全般を引き受けているので、妻はテレビを見ることが多くなっている。妻がテレビを見れば、ごくうが膝の上で寝る。そのうち、妻も寝入る。朝も寝るし、昼食を食べるとテレビを見ながら寝て仕舞う。ごくうの散歩にはかなりの頻度で出かけるが、散歩から帰れば、夕食を食べると、寝たくなるらしい。
週2回のリハビリと週1回の歯医者に行くが、「今日は病院に行く日かねえ~」、何度も尋ねる。「いつも私ばかり連れ行ってもらえて悪いねぇ」、機会あるごとに何度も言う。
右手のリハビリはかなり改善しているが、初期判断がまずく、春までは掛かりそう。これでは治るまで6ヶ月になるかもしれない。しかし、好きなラーメンを食べるとき、右手でなんとか食べようとした。
右手が多少自由になると、片付けをする気になるのか、あちこち整理しようとする。しかし、途中でそのままにすることが多く、乱雑になる。洗濯物も使ったものと選択したものが混ざり、イライラさせる。いつも使うものの場所を変えたりする。あるものがあるところにないと苛ついてしまう。如何に苛ついても、もう耐性ができている。
病院から帰り、「あのナス、どこにやった」と聞くと、「どうしたんかね~」「どこいったんかね」自分でしょうとすることが、ちいさな波風を立ててしまう。
買い物に出ると、着いてこようとする。支払時、ポイントカードを出そうとすると、「ない」(どこにやった)。カードの置き場所が見事に財布の中で変わっている。カードはあるにはあった。胸をなで下ろしながら、帰宅し、カードを整理した。
いいこともある。急に身の回りを整理し始めた。1年前の健康診断のレポートが見つかった。市から「病院にいくことを促す」書類だった。なんと指標eGFRから計算すると、「G5 末期腎不全(ESKD)」とある。驚き、早速病院に「再検査」となる。こちらが驚いている程、医者は驚かない。(どうなんだ・・・)疑問が湧いてくるが、(検査がでるまで、ままよ)と開き直る。もう腎臓が経年劣化している。
思い当たることがある。妻が右手を打ち身する1ヶ月くらい前、ゴミ収集の確認にデッキからしょうとして、高さ50cm+のデッキから横倒しに落下した。今思えば、失神していたらしい。何の怪我もなくそのままにしていた。1週間前急に心臓がドクドクとし、右目が霞んだ。すぐに横になったが、まもなく症状が治まった。
腎不全の症状を見ると、血圧が高くなるとある。確かに午前中高いことがあるが、130台である。ごく僅かな吐き気がある。以前から頭がふらっ(めまい)とする。これも腎不全の症状とある。人間は生物の一種として、代謝機能が経年変化とともに衰える。とうとう顕著になるのかと思いながら、医者から「血圧を測れ」と進められているので、記録しながら血液検査の結果を待っている。
妻が病院から帰ったとき、すでに見つけているものを探し始めた。「ナスがない」と騒ぐので、「ここにあったじゃない」と説明すると、突然、「私、痴呆症なんだ」と言うとはなしに言う。
妻の痴呆症は多く見られるタイプのようだ。早く「薬」を飲めば、痴呆症の進行を抑える可能性がある。何時話そうかと気を揉んでいたが、妻から言われると、すぐ、「薬を飲めば進行を遅らせることができるかも」というと、「要らない」と即答。年齢と進行を秤に掛けると、評価は難しい。
書いていると、救急車が降りていく。この団地も救急車が何度か出入りしている。第1世代が高齢化している。第2世代の子供が公園で遊びだした。
もう自然に受け入れるような覚悟が次第に形成されようとしている。
「今日は何にする?」
「1月10日は結婚記念日、何するんだった?」
立て続けに聞いてくる。50年間、結婚記念日らしいことをしたことは1度しかないない。今年は行きつけ(といっても、年に5度程度)の店で「うな重でも食べようか」、と話すと、期待に膨らんでいる。「手が・・・」食べるのに時間が掛かるかも。「持ち帰りにしょうか」「うん、そうしょう」と応えているが。
妻がようやく着替えそうだ。昼ご飯の用意をしなくては。妻はご飯大好き人間である。