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大学生が0から日本酒をプロデュースしてみたら。

はじめまして。
初noteになります。
ここまで読みに来てくださってありがとうございます。

現在学生をしながら、富山の桝田酒造店で蔵人として酒造りをしている者です。
宇野 旭(うの あさひ)と申します。
よろしくお願い致します。

突然ですが、この度私がプロデュースさせて頂いたお酒を発売することになりました。
今回のnoteでは、酒造りに携わるきっかけからお話しながら、
・プロデュースを行うにあたって感じたこと、考えたこと。
・何を目指して造ってみたか
・どういうお酒となって欲しいか
など買って頂いた方には、詳しいトリセツのような位置付けとしてここで丁寧にお伝えしたいと思います。また個人的な部分では、記録のようなものとして残しておきたいと考えています。
読んでいただければ幸いです。
(以下、乱文失礼致します。)

自己紹介

まず自分のことを知らない方がほとんどだと思いますので、自己紹介から。

・宇野 旭(ウノ アサヒ)
熊本出身の23歳です。
上記にもあるように、大学生をしながら酒造りをしています。
現在のような酒造りに携わるきっかけは、元々実家が酒屋を営んでおり、自分が生まれる以前から現在お世話になっている桝田酒造店さんとお付き合いがあったことです。そのご縁で声をかけて頂きました。
当初は酒造り体験ということで1か月半の期間だけの予定でしたが、その期間ですっかり酒造りの虜になってしまい、より深く酒造りに携わりたいと強く思うようになりました。そこで桝田さんにお願いをし、昨年の造り(2022BY)で初めて酒造りを1シーズン経験しました。
ですので正式に酒造りを行う蔵人になって、今年で2年目のまだまだひよっこです。
現在は杜氏さん(蔵人のリーダー)をはじめ、先輩の蔵人たちと世代を超えて、旨い酒を造りたいという思いを同じく、日々寝食をともにしながら酒造りを行っています。


お酒について

それでは早速ですが、本題の今回発売するお酒について詳しいことをお話したいと思います。

(右)つとめて
(左)Uno²
  • 『つとめて』

  • 『Uno²』

上記の2種類のお酒をプロデュース致しました。
どちらのお酒も昨年の酒造年度で仕込みを行ったもので火入れを行い、およそ10ヶ月間、瓶で熟成させているものになります。
桝田酒造店さんのブランドである「満寿泉」のお酒は主に金沢酵母を使用しておりますが、今回は私の生まれ育ったくまもとで誕生した熊本酵母を熊本酒造研究所様から分けて頂き、熊本酵母で仕込んだお酒です。
自分の中の満寿泉の味わいやブランドイメージを大切にしながら、おこがましいかもしれませんが、自分なりに些細な部分でもいいのでこれまでの満寿泉のラインナップにない新たなものを創り上げることができればと思い、醸しました。

Ⅰ. つとめて


つとめて ¥3000ー(税別価格)
※720mlのみの発売

◆味わいについて
『つとめて』は満寿泉の酒造りのスタイルをそのまま踏襲したもので、純粋な酵母違いのお酒です。
お酒を搾ってすぐの生酒のときは、これまで出会ってきた熊本酵母のお酒とは異なり、八朔のような柑橘系果実の香りがあり、スレンダーな印象のお酒でした。
今回の火入れVer.では一転して本来の満寿泉の芯のスッと通った瑞々しい味わいに円みを帯びたようなものとなりました。やさしく料理を支え、お出汁の繊細な味の邪魔をすることなく、和洋を問わず料理に合わせて頂けると思います。

◆銘柄の由来
『つとめて』は、鋭い方ならお察しのことかもしれませんが、平安時代に清少納言によって著された「枕草子」の一説から取ったものです。

【原文】
冬はつとめて。
雪のふりたるはいうべきにあらず。霜のいとしろきも、またさらでも、いと寒きに、火などいそぎおこして、炭もてわたるもいとつきづきし。

【現代語訳】
「冬」は、早朝。
ぴーんと張り詰めた寒さがいい。
雪が降った日は、いうまでもありません。霜が降りた日も、そうでなくても、とにかく厳しい寒さの中、朝早くから大急ぎで火をおこし、真っ赤に燃えた炭を、あちこちの部屋へ持っていくのは、いかにも冬らしくて、いいですね。

木村耕一著 『こころきらきら枕草子』より

現代語訳を見ると「ツトメテ」は早朝という意味で使われています。
では現代語ではどうでしょうか。
現代語で「つとめて」と聞くと「努めて」や「勤めて」を思い浮かべることができると思います。
何か1つのことに向かって努力を重ねる人、
毎日きちんと仕事に行き働いている人、
今を「つとめて」いるすべての方に届けたいお酒なのです。

古語の「ツトメテ」の時間というのは、早朝。日の出前の時間帯です。
いま何か自分の中の歯車が嚙み合わなかったり、例え上手くいかないことがあったとしても、「ツトメテ」の刻はやがて終わり必ず朝陽が昇ってくるように報われるときが必ずやってくる。
そんな想いを込めて醸したお酒です。

Ⅱ. Uno²


Uno² ¥3600ー(税別価格)
※720mlのみの発売

◆一段仕込みについて
まずこの『Uno²』はこれまで満寿泉では、行ってきたことのなかった仕込み方法である一段仕込みで醸したお酒です。
一段仕込みとは通常3回に分けて麹・水・掛米(蒸米)を投入して行う仕込みを1回ですべて投入する仕込みの方法です。一段仕込みと言っても調べてみると、酛をそのまま搾るものや私の採用した一段仕込みのように酛をいつものように立て仕込みを1回で済ませるものなどいくつかタイプがあるようです。(今回はこの説明は省略します、、)

ではなぜ一段仕込みを採用しようと思ったのかというと。シンプルに答えるとすれば、濃くて酸のあるお酒を造りたかったからです。
満寿泉のお酒は、瑞々しい味わいがかなり長く保たれます。10年ほどの熟成であれば、例え生酒でもフレッシュさを留めたような味わいが残ります。
火入れをしたものであれば、20~30年は味が崩れることなく、熟成させることができます。そのため、満寿泉は熟成にかなり向いているお酒と言えると思っています。
そこで私は満寿泉のお酒とは違うタイプのお酒で、熟成に向いたお酒にできないかということを考え始めました。様々な人に聞いた結果、どうやら多糖多酸なお酒は熟成に向くお酒になることがわかりました。

ただ満寿泉は、多糖多酸なお酒とは対極にあると言えるタイプのお酒です。基本的に各酒蔵の設備は、それぞれの御蔵さんの味わいを造り出すのに適した構造になっています。そのため、満寿泉の造りの中でどのようにしたら濃くて酸のあるお酒を造ることができるかを考えることになりました。
しかし、なかなかその方法を見つけることはできず、かなり悩みました。
どうすればいいのか悩んでいた時に、ある国税局の鑑定官の先生から仕込みの段数を減らせば、濃いお酒を造ることができるとお聞きし、一段仕込みでお酒を醸すことを決意しました。
ただ一段仕込みは、酛の酸性のバリアを効かせた状態でお酒の醪の成長に合わせて行う三段仕込みと異なり、1度に3回分の水・麹・蒸米を投入するため、酛のバリアが効きにくい状態をつくることになってしまいます。酛のバリアが効きにくいということは、最悪の場合、雑菌の汚染などで不造(お酒ができないこと)のリスクがあるということです。

そのようなリスクを抱えた一段仕込みだったのですが、満寿泉でやったことのない造り方であったため、勿論のことながら他の蔵人も一段仕込みに関しての見識はほとんどありませんでした。そのため知識も乏しい中でぶっつけ本番で仕込みをスタートすることは厳しいと考え、実際に一段仕込みを行っている千葉の木戸泉酒造さんに行きました。

木戸泉酒造さん(正面入口から)
一段仕込みの「AFS」シリーズ

木戸泉酒造さんは高温山廃酛という独自の手法を編み出し、40年以上前から長期熟成を念頭に置いた酒造りを行ってきた御蔵さんです。そんな木戸泉さんの人気の銘柄に「AFS(アフス)」というお酒があります。こちらは高温山廃酛と一段仕込みを用いたお酒でしっかりとしたお米の旨みとふくらみのある甘みと酸が特長のお酒です。
私は実際の一段仕込みのAFSの仕込みを見てみたいと思い、木戸泉酒造さんにお願いし、一段仕込みを行う日に勉強に行かせて頂きました。仕込みの様子から麹造り、酛立てに至るまですべての工程を見せて頂き、自分が不安に感じていた醪の経過の部分についても細かい部分まで教えて頂き、貴重な機会となりました。
突然の訪問にも関わらず、温かく受け入れて頂き、惜しみなく様々なことを教えて頂いた木戸泉酒造の荘司社長をはじめ、蔵人の皆さまにこの場を借りて厚く御礼申し上げます。
その後富山に戻り、木戸泉酒造さんで学んだことを活かして、『Uno²』の仕込みをどうするのか。をもう一度整理し、不安も抱えながらぶっつけ本番の仕込みに挑みました。

◆味わいについて
香りを集めやすいグラスがおすすめです。
よく冷やせばカカオ豆。温度を上げるとラムレーズンのような香りがあります。お酒の設計段階から考えていた満寿泉のやわらかい麹のふくよかな味わいを感じられます。そのふくよかさと一段仕込みの特徴である酸のバランスの良い味わいが何と言っても魅力です。
食中のお酒である満寿泉のお酒の中にあって、『Uno²』のように食後に楽しみたいお酒はこれまでにはない異端な存在と言えます。(個人的にはこれから中華料理との相性を探ってもみたいと考えています)
普段、日本酒と一緒に楽しむ機会の少ないチーズケーキ(バスクのチーズケーキだと尚相性良し。)やアイスクリームと合わせてみてください。

◆銘柄の由来について
皆さんと馴染みのあるカードゲームでカードが残り1枚になると「UNO!!」と言うようにスペイン語やイタリア語で数字の1のことをUNOと言います。
一段仕込みの1と私の苗字のウノをかけてUNO×UNO ➡ Uno² と名付けました。

ラベルについて

商品の顔であるラベルについても、長い時間をかけて決めました。紙質や厚さにもこだわりました。

今回のお酒は桝田酒造店さんのブランドである「満寿泉」を名乗っていません。そのため、満寿泉のことをよく知っている方には分かって頂きたく、桝田酒造店さんが様々な場面で1つの紋章のように使われている龍をあしらったラベルにしました。

ラベルは九州を拠点に活動する現代書道アーティスト・劔朧さんに描いて頂きました。劔朧さんは世界遺産や重要文化財の寺社に書などの奉納活動をされている日本の現代書道をリードする1人と言える方です。
私のような若輩者にも真摯に対応して頂き、度重なる変更にも対応いただき、ありがとうございました。
またご縁を繋いで頂いた「飛鸞」醸造元である森酒造場の森雄太郎さんにも厚く御礼申し上げます。


おわりに

ここまで長々と『つとめて』と『Uno²』について、商品化に至る歩みを書いてきました。拙い文章だったと思いますが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
予定より遅くはなっていますが、近日中に発売できればと考えております。
また先行発売といたしまして、桝田酒造店のテイスティングルームである沙石にて試飲と販売を行っておりますので、富山に来る機会がありましたらお立ち寄りください。

今季(2023BY)の造りでも『つとめて』『Uno²』ともに造らせて頂けることになりましたので、今回の火入に限らず、皆さんに楽しんで頂ければと思います。

最後に今回、お酒のプロデュースという貴重な経験をさせて頂く機会をくださった桝田酒造店の桝田隆一郎社長をはじめ、蔵人チーム、瓶詰めチーム、営業の皆さんなど、これまで商品化に尽力をして頂いたすべての方に感謝申し上げます。

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