鳥獣戯画展へ行ってきた。美術についてちょっと考えた。

緊急事態宣言がでて、友人と行くはずであったのに一度諦めた鳥獣戯画展。しかし、なんと6月に復活したため、開催を延期してくれたトーハクに感謝の気持ちをもちつつ、チケットを購入しわくわくとしながら上野へ向かった。

鳥獣戯画展

月曜の朝10時という大学生の特権を生かした時間帯であったはずなのに、館内はなかなかに混んでいた。

鳥獣戯画の絵巻は全4巻に分かれていて、甲乙丙丁の名前がそれぞれつけられている。甲が一番よく見るあのカエルやウサギが擬人化されているやつ。乙は幻獣から身近な動物までを写実っぽく描いたやつ。丙は人と動物。丁は人である。

甲がやはり一番人気で、その混雑を見越してなのか動く歩道で観覧するという、珍しい方式であった。平べったいエスカレーターのようなものに載るために並ぶこと10分。館内は暗く、人々のざわめきもあり、ところどころに照明がマッピングされて動くカエルやウサギが見える。雰囲気だけで言ったら某ズニーランドである。

私は美術館の、特別展の、そういう特別な趣向を凝らした空間がとても好きであるので大変楽しく待つことができた。

動く歩道は思ったよりも早く、巻物を見ていると首がもってかれそうになるときもあったが、本物の鳥獣戯画はさながら現代の動物漫画のような絶妙なゆるさとかわいさと愛くるしさとユーモアが入り混じっている楽しいものであった。

1000年以上前に動物を擬人化しようとする発想はどこからやってきたのか。ウサギはわかるがなぜカエルなのか。ネズミは小さいままなのに、カエルはウサギと全く同じ背丈なのはなぜなのか。私はとてつもなくでかいカエルがその時代に生息していたという仮説を打ち出したが、同行人は「作者はめちゃくちゃカエルが好きだったから人間と同じくらいの大きさで描いたのではなかったか」と言っていた。要検討である。

乙巻も非常におもしろく、「犬が7匹」と書いてあるものはキャプションも絵も本当に最高であった。犬の顔が本当にたまらない。

どうでもいいが、動物の描かれている甲乙よりも人間を描いた丙丁のが並んでいる人が少なかったので、人は皆人間よりも動物が好きなのだと謎の感動を覚えた。

丙丁巻もその時代の人々の暮らし方をそのまま描いていておもしろかった。首引っ張りはやばいと思うが。

特に興味深かったのが、模本と呼ばれる原作の模写である。絵柄やタッチは原作を真似してるらしくそのままなのだが、やっぱり原作の絵とは違う。ち〇かわの絵を他の人が創作しても絵柄がなんとなく違うのと同じようなものだろうか。だがそれもまた味がある。

私は常々、美術館とはどのように楽しんだらいいものかと悩んでいる。別に絵の知識もないし、歴史もなにも知らない。価値もわからないので、美術館に行くと私は絵そのものと真っ向から対立しなければならなくなる。そこで何かしらの意味や、作者の背景を読み取ろうとしてしまうし、キャプションだよりになってしまうこともある。この「何か意味をもたせよう」に私は疑問を持ってきた。

しかし、鳥獣戯画を見て、美術品はもっと気軽に楽しんでいいのかもしれないと思った。擬人化されたウサギと、カエルと、あといろんな動物が踊ったり走ったりして遊んでいる。想像上の動物がいっぱい書かれている。この絵巻物がどのような意図で描かれているか私は知らないが、少なくともおもしろい。

シュールで、ユーモラスで、まん丸の黒い動物たちの瞳に沸き上がるような可愛さを覚える。それでいいのではないか。

昔の人たちは、鳥獣戯画を見てどう思ったのだろう。後世に風俗を伝えようなんて考えていたのだろうか。いや、多分「ウサギかわいい~。おもしろ~」と考えていたのではないだろうか。現代の私たちがTwitterでやけにいいねを押したくてしょうがない動物のイラストに出会ったときのように。

鳥獣戯画展を見終わったあとに、同行人と「鴨?アヒル?がでてくるシーンがよくてさ……」だの、「ウサギがおぼれてるシーンの顔が本当によくてさ……」と話した。私たちはもはや好きなイラストたちとして鳥獣戯画を見ていた。そこに意味付けや勉強なんてなくて、ただ「可愛くて好きだから」という主観のみが存在している。

「美術展に興味が湧かない。どう見たらいいかわからない」と昔言われたことがある。絵を見るのがそれなりに好きだったくせに、私はなんて返したらいいか全くわからなかった。だが、「どう」見たらいいかなんてないと今だったら答えるだろう。例えば曲のアニメMVしかり、漫画しかり、お菓子のパッケージしかり、好きな絵というのは誰にでもあると思う。それと同じように美術展も見ればいい。なんとなく、自分の中で答えが見つかった。

グッズ売り場もめちゃめちゃ混んでいた。私はマグネットとポストカードを購入した。台所に貼られた、なんともいえないカエルの絵が描かれたマグネットが目に入るたびに、「いい表情をしているカエルだな」とおかしくなってしまう。

1000年前の、鳥獣戯画を厳重に保存して置こうと思った偉い人たちも動物を見る度に少し笑っていたのではないかと思う。多分。


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