もぐらと魔法の穴 第8話 試練と再会
注意:この物語はフィクションです。実際のお店や場所、登場人物は存在しません。
突然の呼び出し
美沙はデスクで仕事に没頭していたところ、上司の藤井から電話がかかってきた。
「篠崎君、ちょっと来てくれ。」
「はい、すぐに伺います。」
電話を切ると、胸の奥に重い感覚が広がった。何か嫌な予感がする。上層部の会議室に入ると、藤井と支店長が険しい表情で待っていた。
「篠崎君、融資先の産直レストランが不渡りを出した件、知っているか?」
「えっ、不渡りですか?そんな…。」
「詳細はこれだ。」
支店長が資料を差し出した。美沙はそれを受け取り、目を通した。資金繰りの悪化、事業拡大による過剰な支出が原因と記されている。
「私が勧めた融資が…原因かもしれません。」
美沙の声は震えていた。
「君の責任を追及するわけではないが、まずは現場で社長から事情を聞いてこい。それから報告だ。」
「はい、分かりました。」
現場への急行
美沙は資料を手に、慌ただしく店に向かった。車内で頭の中を整理しようとするが、不安と自責の念でいっぱいだった。
「私が無理に事業拡大を勧めたせいなのかも…。どうしよう。」
店に到着すると、店内は静まり返っていた。厨房の音もなく、スタッフの姿も見えない。
「失礼します。産直レストランの篠原社長はいらっしゃいますか?」
奥から出てきたのは、疲れ切った顔の篠原社長だった。
「篠崎さん…来てくれたんですね。」
「社長、今回の件についてお話を伺いたくて。」
「わかりました。少しこちらで話しましょう。」
社長との対話
二人はテーブルに向かい合って座った。篠原社長は深いため息をつきながら話し始めた。
「正直に言います。融資を受けた時点で、私は不安でした。でも、これを逃したら次はないと思って事業を拡大したんです。」
「不安…だったんですね。」
「そうです。篠崎さんが熱心に提案してくれたのはありがたかった。でも、本当にこれでいいのかという気持ちは拭えなかった。」
美沙はショックを受けた。自分の提案が相手の気持ちに寄り添えていなかったことに気づいたのだ。
「私の提案が押し付けがましかったんですね。もっと社長の気持ちを考えるべきでした。」
「いや、篠崎さんを責めているわけじゃない。ただ、今の状況をどう乗り越えるか、それを考えたい。」
再起のための行動
「分かりました。私にできることを全力でやらせてください。」
美沙は立ち上がり、決意を込めて言った。
「関係企業を回って、この事業を支える方法を探してみます。社長、少しだけ時間をください。」
「ありがとうございます、篠崎さん。」
関係企業を巡る
美沙は翌日から関係企業を訪問し始めた。
「どうか、産直レストランとの業務提携を検討していただけませんか?」
何度も頭を下げながら提案を続けたが、どの会社も慎重な姿勢を崩さない。
「不渡りを出した会社と提携するのはリスクが高いですね。」
「そうですよね…ありがとうございます。」
心が折れそうになる中、美沙は諦めずに足を運び続けた。
希望の光
ある日、美沙は最後の望みをかけて、ある会社を訪れた。その社名を見て、一瞬立ち止まった。
「この会社…どこかで聞いたことがある。」
受付を済ませ、案内された会議室で待っていると、現れたのは驚きの人物だった。
「美沙さん?」
「陸さん!?」
再会に驚く二人。陸は穏やかな笑みを浮かべながら席に着いた。
「どうしてここに?」
「今は学校を辞めて、この会社で働いてるんだ。料理と消費者をつなぐ事業をやっていてね。」
「そうだったんですね。」
美沙は事情を説明し、提携を持ちかけた。
「このレストランを救うために、どうしても力を貸してほしいんです。」
陸は少し考え込んだあと、真剣な表情で答えた。
「分かった。提携の可能性を検討してみよう。」
新たなスタート
提携が決まり、レストランの再建が始まった。美沙は再びやりがいを感じながらも、相手の立場に立って考えることの大切さを胸に刻んだ。
「料理で人を笑顔にする。そのためには、もっと深く相手を知る努力が必要なんだ。」
美沙の新たな旅が、ここから始まろうとしていた。
次回で最終回です。是非ご覧ください!