
もぐらと魔法の穴~第6話 魔法の穴の世界が教えてくれたもの~
現実への帰還
もぐらが再び現れたとき、美沙はどこか寂しさを感じた。
「美沙、そろそろ現実に戻る時が来たよ。」
「もうそんな時期なの?」
もぐらは優しく頷いた。
「君はこの街で、自分にとって本当に大切なものを見つけた。それが料理だよね?」
美沙は静かに頷きながら答えた。
「うん。でも、それをどうやって現実の生活に取り込めばいいのか、まだ分からない。」
もぐらは小さく笑い、美沙に近づいた。
「それを見つけるのが、これからの君の旅だよ。僕たちは君をここまで導いたけれど、答えを見つけるのは君自身なんだ。」
「分かった。現実で、自分の幸せを見つけてみる。」
もぐらは満足そうに頷き、光の中へと消えていった。

祖母のお墓参り
現実世界に戻った美沙は、まず祖母のお墓参りをすることに決めた。料理の原点が祖母との思い出にあると気づいたからだ。久しぶりに訪れた祖母の墓地は、どこか懐かしい空気を纏っていた。
「おばあちゃん、私だよ、美沙。」
静かな風が吹き、美沙の髪をそっと撫でた。
「私、料理を通じて何かをしたいって思ってる。でも、どうやって形にすればいいのか分からないの。」
彼女はお墓に手を合わせながら、心の中で問いかけ続けた。
「おばあちゃんだったら、どうする?」
その瞬間、ふと目に留まったのは、墓地の端にある古びた小さな石碑だった。彼女は自然とその場所に引き寄せられていった。
不思議な感覚
「この石碑、見たことあるような気がする。」
美沙が石碑に手を触れると、不思議な感覚が体を包み込んだ。まるで、幼い頃に祖母と過ごした台所の情景が目の前に広がるようだった。
「美沙、お味噌汁の味見してくれる?」
祖母の優しい声が蘇る。小さな美沙が真剣な表情でお玉を受け取り、一口すすっている。
「うん、美味しい!」
「そう?じゃあ、もうちょっとお味噌を足してみようか。」
その記憶の中で、祖母の顔がとても楽しそうだったことを思い出し、美沙の胸が温かくなった。
「料理って、こういうものだったんだ。」
新たなヒント
石碑のそばに腰を下ろし、美沙は祖母との思い出を振り返りながら自問自答を始めた。
「料理で幸せを届けるって、どういう形があるんだろう。」
その時、ふと現れたのは、小さな花を抱えた老人だった。美沙に気づくと、にこやかに話しかけてきた。
「若いのに感心だね。ご先祖さまに手を合わせてるなんて。」
「いえ、久しぶりに来ただけなんです。」
「それでもいいことだよ。昔の人たちは、家族や仲間のために一生懸命生きてきた。その心を受け継ぐのも大切なことだ。」
美沙はその言葉に何かヒントを得た気がした。
「ありがとうございます。」
老人は静かに去っていったが、その後ろ姿を見送りながら、美沙は料理を通じて誰かを喜ばせたいという気持ちが強くなっていった。
決意の芽生え
帰り道、美沙は自分に問いかけた。
「料理をどうやって形にする?副業?それとも、もっと本格的に?」
彼女の頭には、いくつかの選択肢が浮かんだ。
副業として始める: 銀行員を続けながら、休日に料理教室を開く。
転職する: 飲食業界に転職し、プロとして料理の道を究める。
修行に出る: 老舗の和食店や地元の料理教室で一から学ぶ。
「どれが自分にとって一番合っているのか、もう少し考えよう。」
祖母のお墓参りで得た穏やかな心を胸に、美沙は新たな一歩を踏み出す決意を固めた。
「料理を通して、誰かを笑顔にする。それが私の幸せなんだ。」
夕焼けに染まる街を歩きながら、美沙の目には力強い輝きが戻っていた。