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ソーシャルセクターで6年間活動してきた、ミレニアル世代の著者が感じた、非営利組織の『無形資産』の可能性。無形資産を最大限に活かすためのNPO・企業の協働の在り方を模索する

企業価値の評価の軸足が有形資産から無形資産に移る中、非営利組織で多様な企業との社会課題解決のための協働の在り方を6年間模索してきた著者は、非営利組織における『無形資産』が、企業のサステナビリティ活動や、イノベーション創出のために重要な資産となる可能性があると考えています。

NPOの職員として、様々なステークホルダーとの対話を6年間続け、その成果を論文としてまとめた著者が感じた、無形資産の可能性と課題についてまとめました。
  
・企業のサステナビリティ関係者や経営者の方々
・企業とのパートナーシップを模索するソーシャルセクターの関係者・実践者の皆さん
・ノンプロフィットやサステナビリティを研究しているアカデミアの皆さん
 
 
などなどに、ぜひ読んでいただきたい内容です。

著者の自己紹介

1995年東京生まれ・千葉県育ち。早稲田大学国際教養学部卒。スウェーデンへの交換留学がきっかけで難民問題に関心をも持つ。その後、同年代の難民の人々と共に暮らす中で、日本社会の中で埋もれてしまっている彼らの可能性を伝えることをミッションに、2018年1月にWELgeeに入職。WELgeeでは広報・マーケティング・ファンドレイジングの業務を主に担当。NPOと企業の連携に関する論文をNPO研究における日本で唯一の専門学術誌であるノンプロフィットレビューに提出、24/6に学会発表予定。

1,600名のビジネスパーソンたちとの協働を推進してきた中で見えた可能性

私が所属をするNPO法人WELgeeは、紛争や迫害により日本に逃れてきた難民の方々の人生を再建するために「就労・キャリア」に特化したプログラムを運営しています。特に経済界、企業様とのパートナーシップを通じて、難民の方々のキャリア形成から、在留資格変更を行っています。

政府による難民認定のハードルが高く、結果が出るまでに長い期間を要する当事者たちに対して、難民認定のみに頼らずに、企業の雇用スポンサーを通じて、当事者の方々が法的・経済的に安定する道筋を作っています。
   
私たちの事業の特性上、幅広い規模や業界の企業様との関係性を築く中で事業を行っています。1,600名以上のビジネスパーソンの皆さまとやりとりをする中で、企業様側の課題、そしてNPO側の課題と可能性が見えてきました。

社会的インパクトを生み出す、『本質的な』NPO x 企業の協働の在り方とは?


ハーバードビジネススクールのAustinら(2014)は、過去20年間で、NPO-企業間の協働関係に関する知識が目覚ましく発展したものの、協働によって生じた価値とは何か、また協働の様々な要因がどのような過程をたどり、価値を創造するのかについての共通言語が存在しないことを課題として、関連する先行研究200本を調査し、検討した上で、CVCフレームワーク(the Collaborative Value Creation Framework、以下、CVCフレームワーク)を提唱しました。

CVCモデルを発表した論文。非営利組織と企業の協働の先行研究資料として今も数多くの学術論文で引用されている

CVCフレームワークの中の協働ステージ(Collaboration Stages)は、NPO-企業間の協働関係を4つのステージに分類しました。以下に、各ステージを簡単に説明します。

Stage1:フィランソロピー型協働(Philanthropic collaboration)
・一方的なリソースの供与 ex:企業→ NPOへの一方通行の寄付。
 
Stage2:取引型協働(Transactional collaboration)
・双方向的なリソースの供与 ex:企業による障がい者スポーツへのスポンサーシップなど。NPO側はスポーツ大会の協賛金を受け取り、企業側は大会のバナー等への自社のロゴ掲載や、メディア露出時のロゴ掲載等を通じて、企業の社会貢献の姿勢を伝え、企業のポジティブなブランド形成を行うことができる。
 
Stage3:統合型協働(Integrative collaboration)
・両組織間の深い関係性や信頼の発展により、パートナーのミッションや価値観、戦略が一致することで、NPO・企業間の経営資源が統合する こと。
 
Stage4:変革型協働(Transformational collaboration)
・大規模かつ革新的なイノベーションを意図し双方が変革のプロセスに積極的にコミットしている状態。
 
※ 注意すべきは、それぞれのステージは「段階的」なものではなく、「連続的」(continuum)であり、1つのステージをクリアすると段階的に次のステージに進む類のものではない。
 
ここで注目すべきは、Stage 3の『統合型協働』です。
 
Austinらは、Stage3以降の協働は、協働の関係性を本質的に変えます。協働のプロセスで培われた深い関係性と信頼をベースに、双方のパートナーのミッションや価値観、戦略はより深い部分で調和します
  
統合型協働では、双方のパートナーの経営資源は統合し、1団体の利益を超えた、より大きな社会の改善に大きな優先順位がおかれているのです
 
資源の統合度と、それらの使われ方の観点で、価値創造の方程式が変わります。パートナーがより他方の組織の重要な資産(アセット)やコアコンピタンスを活かせるようになります

片方のパートナーがもう片方のパートナーのリソースを個々に使って価値創造をすると言うよりも、双方が重要な資産を組み合わせるようになると言います。

 組織の重要なアセットである『無形資産』

『無形資産』とは、知的財産やブランド、ステークホルダーとの関係性などの目に見えない資産のことです。財務資本(現金・株式等)や製造資本(建物など)などの有形資産と比較されることが多いですが、企業価値の観点から、近年ますます注目が集まっています。

2020 年発表の OCEAN TOMO のデータによると、米国市場( S&P500 の時価総額に占める無形資産の割合は 1975 年の 17% から 2020 年の 90% 、日 本市場(日経 225)では 2005 年の 15% から 2020 年の 32% に増加しています(デロイト, 2023)。

NPO側は、自団体の寄付をいかに調達するかばかりに注目をし、企業との連携を「寄付」のみに設定している団体も多く見受けられます。しかし、企業側の無形資産は社会課題の解決を掲げるNPOにとって非常に重要な資産です。
  
例えば人材。企業での様々な専門性を蓄積をした人材がプロボノとして非営利団体に参画することで、人材の知的資本や関係性資本が非営利団体へと蓄積されます。また企業側にとっては、会社では経験できない社会課題解決の現場で挑戦をすることで企業人個人のキャリアビジョンを考えるきっかけになったり、自己認識力を高める機会を得ることができます。
 
その一方で、NPO側の『無形資産』も企業側にとっては価値のある資産です。企業における人権・サステナビリティ対応支援を行うオウルズコンサルティングは、企業がNGO・NPOと連携するメリットとして、専門性(社会課題解決の論点の網羅 / 方法論の熟知)・接続性(広範な消費者との関係性構築)・正当性(社会課題の当事者としての説得力・求心力など)を挙げています。(オウルズコンサルティング)
 
NPO・NGOの「正当性」を活かすことで、昨今の「グリーンウォッシング」や「SDGsウォッシング」などの批判のリスクを避けつつ、企業のブランディング強化等にも繋げることが可能だと伝えています。

無形資産を引き出す可能性を秘めているのは、協働を推進する個人

これまで6年間、NPOの担当者として企業との連携を推進しきた当事者として、企業の無形資産を社会課題解決のために活かすためには、協働を推進する『個人』の役割がますます重要になると感じています。
   
企業間の戦略的アライアンスなどを研究する組織間学において、『境界連結単位』という概念があります。
  
境界連結単位とは、組織と環境の接点に位置し,外部からの情報,価値,文化を組織内意思決定中枢に転送しながら,組織を代表してさまざまなかたちで環境に働きかけるような個人ないしグループのことを指します。

齊藤(2017)は、佐々木(1990)らの境界連結単位の学説を用いて、社会的協働が個人レベルの非公式な情報交換から始まり、組織の代表がパートナーの代表と接触するレベル、そして公式の組織間で公的な連結が行われる制度的レベルでの結合の3種類があることを論じました。

営利であれ非営利であれ、多くの組織間のアライアンスは、個人から始まります

個人間での繋がりが組織を代表する個人単位での連結に発展し、そして組織全体の制度レベルの連結に成長します。
 
営利と非営利組織。 それぞれ異なる力学を持つ組織が、 互いの経営資源を生かし合いながら本質的な課題解決のための協働(collaboration)をするには?
 
その仮説が、協働を推進する個人(≒ 境界連結者)にあると、考えます。
 
しかしながら、先行研究を調べる中で、協働を推進する個人がどのような役割を持ち、どのようなプロセスで統合型の協働が生み出されるか?を質的に研究した論文が非常に限られていました。
  
その中で、私自身がNPOと企業間の複雑な連携を現場で推進してきた一員であり、協働相手との信頼関係を構築しているため、具体的かつ質的なデータにアクセスをすることが可能です。現役のNPO職員だからこそ得られるデータを活かしながら、日本におけるNPO-企業間の複雑性・難易度の高い協働の成功事例における、NPO-企業間の境界連結者のミクロなコミュニケーションプロセスを分析しました。

NPO研究における日本で唯一の専門学術誌である『ノンプロフィット・レビュー』に提出し、現在査読中です。ありがたいことに、今年6/15〜6/16に高崎大学で開催される、日本NPO学会の研究大会に採択されたため、研究の報告を行って来ます。

https://janpora.org/meeting/ 
 
論文の執筆をきっかけに、企業の無形資産の社会課題解決や、NPOと企業との協働に関する情報交換や、コミュニティを作ってゆきたいと考えています。

具体的には、
・NPOと企業の協働、無形資産を通じた社会課題解決に関連する情報共有
・海外や日本の先行事例を学びあう会
・NPOや企業、アカデミアのゲストを呼んで、勉強し合う会

などなどができたらなと思っています!

もし、この記事を読んでご興味を持っていただいた方がいたら、ぜひ以下のSNSからDMや記事へのリアクションをいただけると大変嬉しいです。不定期ではありますが、今後も発信を続けて行ければと思います。

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参考文献

オウルズコンサルティング「NPO・NGO連携支援」(最終閲覧日:2024/2/26) https://www.owls-cg.com/sustainability/npo/

齊藤 紀子(2017)「社会的課題解決のためのセクター間協働―境界連結者個人からはじまる組織間関係の発展プロセス」『千葉商大論叢』54巻, pp. 229 - 245

佐々木 利廣(2000)「社会的事業の再編成と協働の形態」『経済学論叢』, 第 51 巻, 2000, pp.1-15

デロイトトーマツ(2023)インパクト雇用で実現する人的資本経営(最終閲覧日:2024/2/26)
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/about-deloitte/articles/dtc/impact-hiring-sourcing.html



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