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UK ROCK「フィル・コリンズ」を語る

親愛なるフィル・コリンズ


英国のロック・バンド「ジェネシス」(Genesis)の中心的存在として、多彩な活動と活躍を展開してきたエネルギッシュなスーパースター、「フィル・コリンズ」(Phil Collins)の名を知らぬ者は、まずいないと思う。ロックファンであれば、大抵は知っているのである。

アルバム「ノウ・ジャケット・リクァイアド」(No Jacket Required)の彼のアップの正面の顔を見る度に、ぼくは18世紀末から19世紀初めにかけて、ヨーロッパ全土を席巻し、各国首脳を震撼せしめたナポレオン・ボナパルトを連想するのである。

何となくフィルはナポレオンに似ているではないか。とすると、ナポレオンが軍事と政治の面で欧州全土を震撼せしめたのと同じく、フィルは音楽と芸術の方面で世界を震撼せしめるロックミュージシャンであるというアナロジカルな見方が成り立つような気がする。

ナポレオンが小柄な体躯(欧米人としては小柄な168㎝)であったように、フィルもまた決して大柄な体をしてはいない。

ナポレオンの目が野心的な鋭い輝きを放っているように、フィルの眼光も鋭い。ナポレオンが精力的かつ天才的であったようにフィルも精力的であり、天才的である。

フィルという英国男児の放つ雰囲気は、エナジェティックであり、パワフルである。意欲的、挑戦的、野心的、男性的、どのように表現しようとも、男の持つパワーであることは間違いない。

活動の中に無上の喜びを感じる男、活動の中に生きていることの証しを立てる男、走りながら考えることが可能であり、考えながら走ることが可能である男、人生を絶えずクリエイティブに創出する男、これぞまさしくフィル・コリンズという天才ミュージシャンの素顔であると思う。

人は、さまざまな分野でさまざまな事柄に携わりながら生きる。そして、ある人は熱心に、ある人は月並みに、ある人はのらりくらりと生きる。いろいろな人生があってもよかろう。

しかし、どんな人生があるにせよ、悔いのない人生にしたいというのは万人共通の思いであると思う。願わくは、人々の心に長く残る有意義な事績を達成して死にたいものである。

ぼくは、フィル・コリンズという好人物を見つめるたびに、人間の生きざまということについて考えさせられるのである。

結論から言えば、彼は熱心に生きている。人が一つのことをやるとき、彼は二つのこと、いや、三つのことをやる。人がゆったりとやるとき、彼は集中的にやる。

人が一つのことにしか興味を示さないとき、彼は二つのこと、いや、三つのことに興味を示す。油断も隙もならない男である。多角的であり、複眼的である。

人生の意義についても、ゆっくりとくつろぎながら考えているのではない。動きながら人生の意味を追い求めているのである。

 部屋の片隅で神に祈っているのではない。コンサートツアーの移動の途中で、おお主よ、と手を合わせているのである。

数は多くないが、この種の人間が存在することは確かである。そしてこの種の人間は多くのことを成し遂げ、多くのことを残す。

しばしば、このような人間たちは天才と呼ばれる。一芸に秀でるのも天才ではあるが、多くの分野に秀でるゲーテ型の天才たちもいるのである。

1981年のアルバム「夜のささやき」(Face Value)に収められている「アイ・ミスト・アゲイン」(I Missed Again)のメロディーとリズムは、フィルの多彩な音楽世界の中の一つの型である。「アイ・ミスト」型の力強いリズムのロック魂は、ドラマーを務めてきたフィルの専売特許とも言えよう。

フィルのヴォーカルも極めて男性的で力強い。1985年のヒット曲「ススーディオ」(Sussudio)や「ドント・ルーズ・マイ・ナンバー」(Don’t Lose My Number)、1990年のヒット曲「ウェイ・トゥー・ヘブン」(Something Happened On The Way To Heaven)などの強力な陽性ロックも、大きく言えば、みなこの流れに属する。

このようなロックは、人の心を誇らしげな勇ましい気持ちに駆り立てる。怖いものなしに前進する若者のパワーを与えてくれる。人生を悲観している人は、すべからく、このようなパワフルでポジティブなロックを聴くべし。

されど、われらがフィルの世界はさらに大きな広がりを持っていることを知らねばならぬ。恐らく、多くの人々の耳に今も深く残っているあの素敵なメロディーの世界こそが、フィルのもう一つの顔なのだ。

ただ、人生忙しければいいというものではない。男女の深き愛を理解し、ロマンティックな愛の香りを味わい得る人間であってこそ、また真の人間としての深さを称えることができるものと言えよう。

1985年のヒット曲「ワン・モア・ナイト」(One More Night)の美しいメロディーを歌い上げるのも同じフィル・コリンズなのである。このようなリリシズムがなければ真の芸術家たり得ない。

「ワン・モア」型のスロー・バラードの系列にも多くの名曲が存在する。フィル自身が主演の映画「バスター」の中からヒットした「グルービー・カインド・オブ・ラブ」(A Groovy Kind Of Love)、アルバム「バッド・シリアスリー」の中のヒット曲「「ドゥー・ユー・リメンバー」(Do You Remember)、「雨にお願い」(I Wish It Would Rain Down)、アナザー・デイ・イン・パラダイス」(Another Day In Paradise)など、ゆったりとした歌唱の中に人生の味わいを神妙に歌い上げる才能は見事と言うしかない。

フィル・コリンズなる華麗多才な天才男は、ぼくの脳細胞に今もしみこんでいる。人生を一生懸命、いや、百生懸命、千生懸命に生きることを教えてくれたフィル・コリンズに心から感謝する。フィル、あなたの生きざまはぼくの人生の指標となっている。一生懸命に生きている人は美しい。ぼくも美しい人生を送りたいと思う。フィル・コリンズ、もう一度、本当に心からありがとう。



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