クリストファー・ラブロック:サービス・マーケティング①
クリストファー・ラブロック:サービス・マーケティング①
「8Pの登場」
製造業による製品は「有形」ですが、それらの製品に対して行われるサービスは「無形」な要素が多くあるため、マーケティングの基礎となっている手法「4P分析」(①製品(Product)、②価格(Price)、③販売促進(Promotion)、④流通(Place))だけではカバーしきれないマーケティングの部分がでてきます。
そこで、新たに4つのPを加えて、マーケティングを考える説が登場します。そのような観点から、フィリップ・コトラーも「8P」を唱えますが、いわゆるサービス・マーケティングと称される「8P」を強調したのが、『ラブロック&ウィルツのサービス・マーケティング』(初版1984年、日本語翻訳は2008年9月発売)の著者であるクリストファー・ラブロックとヨッヘン・ウィルツです。
この著書でラブロックは、サービス・マーケティングの大家になっていくのですが、現在では、「8P」が「7P」に整理された形で論じられているのが一般的になっています。
「8P」とは何か。以下に列挙します。①サービス・プロダクト(Product elements)、②場所と時間(Place & time)、③価格とその他のコスト(Price & other user outlays)、④プロモーションと教育(Promotion & education)、⑤サービス・プロセス(Process)、⑥物理的環境(Physical service environment)、⑦人(People)、⑧生産性とサービス品質(Productivity & quality)、となります。
①から④までは、表現は多少違いますが、コトラーの「4P分析」とほとんど同じです。⑤から⑧までが新たに加わった内容です。
「マーケティングの多様性と緻密性の深化が8Pの時代を作る」
「8P」で言われるサービス・マーケティングが必要になった理由は、一義的には、「顧客に対するサービス」の多様性・緻密性・適切性などを熟慮した結果、必要とされるサービスがあることが判明したことによって、いわば、顧客への配慮、満足度の充実化を実現する質の高いサービス・モデルが案出されたことです。
企業側の論理と、顧客側の論理の双方がかみ合う一致点で達成される高度なサービスの形が、当然有ることを意味します。
種々のサービスが発生する現実の状況を考えてみますと、例えば、
▪)ヘアサロンで提供するセット技術は無形なので、ヘアカタログやWebサイトにセット完成後の写真を載せるなどしなければなりません。
▪)サービスは貯蔵、保管ができないので、需要が多いときは供給量を増やし、需要が少ないときは供給量を調整しなければなりません。ホテル運営などは、繁忙期は一時的に人員を増やして供給量を増やし、逆に閑散期になれば割引やキャンペーンによる需要の喚起を促す形となります。
▪)サービスに対する需要は、時間・曜日・季節などで変動し、品質も常に同じ状態をキープするのは困難です。例えば、同じ美容院でも美容師によってスキルに差がありますし、飲食店でも調理人によって技術レベルは異なります。そのため、マニュアル作成と定期的なアップデート、業務フローの見直しなどを積極的に行い、品質を一定に保てるように品質管理を行うことが重要です。需要の変動などは、時間帯割引や週末セールなどの実施などの対策が考えられます。 このような種々のサービスの考案により、4Pは8Pへと進化形をたどることになるのです。
サービス・マーケティングの8Pにおいて、
⑤サービス・プロセス(Process)は、「サービス組み立てのプロセス(process of service assembly)」を意味しており、「サービス提供前のサービス設計や準備に力を入れる」ことによって、サービスの質を高めていくという考え方です。
⑥物理的環境(Physical service environment)というのは、「物的な環境(physical evidence)」といっても構いませんが、サービスの質に大きな影響を与える物理的な環境のことを指します。その典型的な例が提供される食事を店内で食べるか、テイクアウトして自宅で食べるかといったケースです。この場合、おしゃれな店舗を用意しておけば、店内で食事した顧客に自宅では感じられない非日常感を提供できます。
⑦人(People)は、「参加者(participants)」と言い換えてもよいですが、その場の環境や雰囲気を作る人的要因のことです。サービスを受ける顧客の視点で「自店が目指す店内環境を実現できているか?」といった内容を考えます。たとえば、店内を落ち着いた寛ぎのある雰囲気にしたいのに、騒がしい客が増えるのは好ましくありません。逆に、にぎやかな居酒屋風にしたいときは、学生やサラリーマンの団体客は大歓迎です。このように、自店のコンセプトに合った環境を人的要因から考えるのがparticipantsです。
⑧生産性とサービス品質(Productivity & quality)は、この二つの課題、「生産性」と「サービス品質」に同時に取り組み、相乗効果を生むべきだという考えです。サービスの不満があれば、売り上げ低下を招き、値上げで収益が悪化して、生産性が落ちるという悪循環に陥ります。そういうことがないようにするということです。
「サービス・マーケティングの重要性」
サービス・マーケティングは、マーケティングの中でも特別な注意と配慮が必要な分野です。サービス・マーケティングには、サービスの販売、ロイヤリティ・プログラムの開発、付加サービスの提供、マーケティング・キャンペーンの作成などが含まれるからです。
サービス・マーケティングでは、顧客にとってのサービス価値を高め、顧客満足度を向上させることが重要です。企業が顧客にサービスを提供するための戦略や手法を考え、サービスの品質や信頼性、アフターサービスの充実、顧客とのコミュニケーションの強化を行う必要があります。
また、サービス・マーケティングでは、サービスの特徴やメリットを訴求する広告や販促活動、顧客満足度の測定や改善なども行われます。顧客が自社のサービスを選ぶ理由を明確にし、競合他社との差別化を図ることが求められます。サービス・マーケティングは、製品マーケティングと異なり、顧客との接点が直接的であるため、顧客のニーズや要求に応えることがより重要となります。そのため、顧客の視点に立ったサービス提供や顧客対応が求められますが、企業が成功する上で重要な事が全てつまっています。
サービス・マーケティングの8Pを理解することで、企業はこの競争の激しい業界で成功するための戦略を立てることができるでしょう。サービス・マーケティングの「8P」を成功させることが、企業の成功に直結する時代となっています。