見出し画像

ピーター・ティール:大いなる才能を持つ起業家


「ピーター・ティールとは何者か」
 
ピーター・ティール(Peter Andreas Thiel、1967年10月11日- )は、アメリカ合衆国の起業家、投資家であり、PayPal、OpenAI、Palantirの共同創業者として知られています。
 
Meta(Facebook)の最初期の投資家でもあり、「ペイパルマフィア」の中では「ドン」と呼ばれ、「影の米大統領」の異名を持つとも言われ、彼がどれほど同時代の成功者たちに畏敬の念で仰ぎ見られているかを知れば、ピーター・ティールという人物に関心を抱かざるを得ません。
 
さらに、ドナルド・トランプ元政策顧問を務め、保守系動画サイトRumbleの支援者でもあると聞けば、一体、彼はいかなる思想を持っているのかを知る必要があります。
 
Palantir取締役である彼の立ち位置は、自由至上主義哲学者であり、Meta(Facebook)の最初期投資家でもありますが、Meta取締役を2022年2月8日に辞任した後、CEOのマーク・ザッカーバーグを敵対者リストに加えた政治家候補を支援しているのです。
 
また、イーロン・マスクとはPaypal時代からの友人であり、極めて深い関係を持っています。
 
ティールは、西ドイツのフランクフルトに生まれました。1歳のときに家族とともにアメリカに移住、少年時代はアフリカで過ごしていたこともあります。スタンフォード大学で哲学を学び、1989年に学士の学位を取得します。
 
その後スタンフォード・ロー・スクールに進学し、1992年に法務博士の学位を取得、卒業後には、合衆国控訴裁判所で法務事務官、ニューヨークの法律事務所サリヴァン&クロムウェルで証券弁護士、元教育長官ウィリアム・ジョン・ベネットのスピーチライター、クレディ・スイスで通貨オプショントレーダーとして働きます。
 
1996年にティール・キャピタル・マネジメントを設立し、1998年にはコンフィニティ(後のPayPal)を共同設立し、2002年に15億ドルでeBayに売却するまで最高経営責任者を務めました。
 
「企業と投資、そして政治活動に邁進するピーター・ティール」
 
eBayがPayPalを買収した後、ヘッジファンドのクラリウム・キャピタルを設立して、2004年、データ分析ソフトウェア企業パランティア(Palantir)を立ち上げ、現在までその会長を務めています。
 
複数のベンチャーキャピタルも立ち上げており、2005年には、PayPalの創業メンバーだったケン・ハウェリー、ルーク・ノゼックとファウンダーズ・ファンドを、2010年には、バラー・ベンチャーズを、2012年にはミスリル・キャピタルを共同設立しています。
 
また、ティール財団を通じてブレイクアウト・ラボとティール・フェローシップを運営し、エリーザー・ユドコウスキーが創設したMIRI、寿命の延長や老化防止を目的とするメトセラ財団やSENS研究財団、海上国家建設を構想するシーステディング研究所、およびその他の投機的な研究をサポートしています。
 
ティールは、2016年の米大統領選では、いち早くドナルド・トランプを支持し、2016年11月には、政権移行チームのメンバーとなりました。トランプの大統領退任後もMAGAと呼ばれる運動に共鳴し、2022年の中間選挙ではトランプ派の共和党議員候補者に巨額献金を行っています。
 
現在は、トランプのやり方にすべて賛同しているわけではなく、一定の距離を取っているようです。
 
ピーター・ティール:Palantirを創業した天才児
 
「ジラールの影響を受けたピーター・ティール」
 
ピーター・ティールは、読書においては、J.R.R.トールキンの作品のファンであり、『指輪物語』は、実に10回以上読んだと言います。
 
その彼は、中学時代、非常に数学に秀でており、カリフォルニア州全域の数学テストで1位を獲得したこともあります。高校でも優秀な成績を収め、卒業式では総代を務めています。
 
政治的傾向はすでに保守的で、当時のロナルド・レーガン政権の楽観主義と反共主義を支持していました。
 
高校卒業後、スタンフォード大学で哲学を学びますが、中でもルネ・ジラールの「ミメーシス理論」はティールに大きな影響を与えました。
 
ジラールによると、「人間の欲望は他者の欲望を模倣(ミメーシス)するという性格を持っており、こうした模倣は無意味な競争を引き起こす。また、競争はいったんそれ自体が目的となると進歩を抑制してしまう」とジラールは主張しましたが、このようなジラールの考えをティールは、自身のビジネスと私生活に応用しています。
 
「競争すること自体に気を取られてしまう結果、我々は世界で重要な、超越的な、あるいは本当に意味のあるものを見失ってしまう」、とティールは述べています。
 
ティール在学時のスタンフォードではアイデンティティ政治とポリティカル・コレクトネスに関する議論が活発でした。
 
「西洋文化」プログラムは、過度に西洋中心主義的であるとの批判を受けて、多様性と多文化主義を押し進める「文化・思想・価値」コースに取って代えられました。
 
この取り組みはキャンパスでの論争を引き起こし、保守的でリバタリアン的な思想を強めていたティールが保守系の学生新聞『スタンフォード・レビュー』を1987年に創刊するきっかけとなったのです。
 
ティールは1989年に学士号を取得してスタンフォード大学を卒業し、スタンフォード・ロー・スクールに進学、1992年に法務博士号を取得しました。
 
「Palantirを創立したピーター・ティール」
 
2003年5月、ティールは、パランティア(水晶玉、トールキンの『指輪物語』に出てくる)にちなんで名付けられたビッグデータ分析会社であるPalantir Technologiesをアレックス・カープと共に創立します。
 
ティールは、同社のアイデアは「PayPalが詐欺と戦うために使用していたアプローチは、テロとの闘いのような他の状況にも適応できる」という認識に基づいていると述べました。
 
Palantir社で、彼は、政府の諜報機関へ「追跡可能でありながら干渉度の最も低いデータマイニングサービス」を提供することを目標とするとしました。パランティアが提供しているソフトは、「ダイナミックオントロジー」という技術を使用したデータマイニングそのものです。
 
Palantir社の最初の支援者は中央情報局のベンチャーキャピタルアームであるIn-Q-Telでしたが、同社は着実に成長し、2015年には200億ドルと評価されました。ティールは同社の筆頭株主です。
 
Palantirのデータマイニング技術は、中央情報局(CIA)や国家安全保障局(NSA)
、国防情報局(DIA)等といった政府情報機関で活用されています。
 
2010年以降は、金融大手のJPモルガンや航空機開発大手のエアバス、英国石油大手のBPとも契約しました。 2019年から2020年にかけて、Palantirは日本のヤマトHDや富士通、損保HDなどと提携をし、日本のDXを改善させるために戦略的提携を行っています。
 
ピーター・ティール:国家も企業もティールなしでは立ち行かない
 
「怒涛の進撃」
 
ピーター・ティールのPalantir(水晶玉、)は、国家の情報機関、戦略機関などにおいて、さらに大手企業の戦略において、極めて重要な働きをしています。日本政府(防衛省、金融庁)においても、政策判断AIの開発でPalantirと協議中です。

2021年2月、Palantirは、IBMと協業することを発表しました。Palantir FoundryをIBM Cloud上で利活用できるようにし、またIBMのAIプロダクトであるIBM Watsonとも連携して利用できるようにしました。
 
イギリスでは、政府が新型コロナウィルスパンデミック(COVID-19)の感染拡大追跡や監視カメラの分析に、Palantirの技術を使っています。またCOVID-19関連では、神奈川県がPalantirの分析ツールを使用して感染拡大の追跡を行っています。
 
2022年、ロシアによるウクライナ侵攻を受け、Palantirは、Maxar社の衛星画像や無人機のデータを分析する目的でウクライナ軍と技術供与を検討します。
 
PalantirのGothamと呼ばれる製品は、衛星写真だけでなく合成開口レーダーやミサイルの発射を検知する赤外線イメージャ等のデータを統合して分析することができます。
 
米国防総省は、陸海空宇宙、全ての区域の戦闘機やロボットをこのシステム上で管理する「統合全領域指揮統制(JADC2)」と呼ばれるソフトウェア群を、PalantirとMicrosoftのクラウド技術を活用して構築中です。
 
すべての軍種のセンサーを1つのネットワークに接続し、AIを用いて敵国の行動予測、偵察活動の自動化や戦闘地域からのリアルタイム情報伝達を可能にするのです。
 
具体的には、F-35やXQ-58A、MQ-9などの空軍戦闘偵察機、B21等の無人爆撃機、陸軍の対空ミサイル防衛システム、ドローン検知システム、地上のロボット兵等をネットワークに接続します。
 
2022年11月、Palantirはロッキード・マーティンと協業することを発表しました。米海軍のシステム刷新に向けて作業を進めています。
 
2022年6月、PalantirはGoogle Cloudと提携したことを共同発表しました。産業向けのPalantir Foundryという製品をGoogle Cloud上で提供できるようにしました。法人向けの在庫管理分析システムや資金洗浄検知システム、運輸販売サプライチェーン最適化、電力需要予測、サイバーセキュリティなどのサービスが高度化されるのです。
 
「哲学を持った類まれな起業家、投資家」
 
 ピーター・ティールが関わる一連の仕事は、民間需要であれ、軍事需要であれ、情報の驚くべき総合性と精確性を持っているために、国家も企業もティールがやっていることと関わりを持たないという選択肢は最早不可能であり、国家を維持するために、企業を存続させるために、重要機関はこぞってティールと提携します。
 
「人間の欲望は他者の欲望を模倣(ミメーシス)するという性格を持っており、こうした模倣は無意味な競争を引き起こす。また、競争はいったんそれ自体が目的となると進歩を抑制してしまう」というジラールの思想を継承するティールは、目先の金儲けに走る模倣者の群れが、人類の進歩を抑制し破壊することを徹底的に退け、自由至上主義者らしく、創造の基盤にある「自由」の精神によって、真の創造、人類に有益な創造に携わることに献身しています。
 
そういう意味で、GAFAなどの経営者たちとは、一味違うものを持っており、何よりも彼自身が信じる哲学を持っています。その哲学こそが彼のビジョンでもあるのです。
 
ピーター・ティール:ティールのいくつかの見方
 
「健全なアメリカの保守主義者の顔を持つ男」
 
ピーター・ティールの現在の社会と世界に対するいくつかの見方を、以下に見てみたいと思います。
 
トランプ大統領の時代、トランプ大統領を支持した動機として、それまでの「オバマ政権の機能不全」の姿と、イラク戦争、シリアへの攻撃など、間違った戦争を支持したヒラリー・クリントンには大統領の資格がないということを挙げ、ヒラリーへの失望を語ったことです。
 
また、金融問題に関して、分権化をもたらす「リバタリアニズム的な暗号通貨」に対しては、人工知能の技術は「共産主義的な中央集権」をもたらすと否定的な見方を示し、論評しています。
 
彼の活動の場であったシリコンバレーについて、シリコンバレーは、「1940年代の原子物理学者よりも真実を隠している」と批判し、人工知能の技術をめぐって「中国(清華大学やTencent)と協力するグーグルは、国家への反逆者」と主張したことを受け、トランプ大統領はアメリカ合衆国司法長官にグーグルへの捜査を求めました。
 
Google傘下のDeepMindの技術が、清華大学を通じて、中国人民解放軍、及び軍事研究院に流れていると危惧したのが、ティールでした。
 
ティールは、2011年に未来に関する自身のエッセイ「The End of Future」を執筆し、公開しました。そのエッセイで、人類の科学、技術革新は停滞しており、「技術革新の停滞」が、今日における米国や欧州の景気低迷及び経済の停滞を招いていると分析しています。
 
2019年、UCLAで開催されたパネルディスカッション「インターネット生誕50年」において、ティールは、「米国や西欧、日本は先進国だが、いずれの国もイノベーションが見られない。私たちは終わっている。」と発言しました。
 
タイラー・コーエンとの対談で、「確かに情報の世界では、コンピューター、ソフトウェア、インターネット、モバイル技術で多くの革新があったと思う。 しかし原子、超音速輸送、宇宙開発、新エネルギー、新しい医療機器の世界ではそれほど多くない。」と発言しています。
 
「日本について語る」
 
ティールは日本の経済同友会によるラウンドテーブル2020において、日本についての次のようなコメントをしました。
 
「日本は20世紀で一番うまく機能した社会ではないか?日本はあまりにもうまく機能していたから、仮にコンピューターが1台もなくなったとしても、先進国の中で唯一機能し続ける国だとも思う。でもその当時、IT革命があったら、さらにもう一段高い次元に行けたわけです。」 と、日本の進歩発展と国家としての機能性を肯定的に語っています。
 
そして、さらに、「2005年ごろ、日本は課題先進国だといわれていたが、それは日本特有のものではなく、少子高齢化や財政問題は先進国共通のものであり、ヨーロッパや米国にも根深い停滞感がある。
 
米国やドイツと比べて日本はこういった課題にうまく対処している。日本にはたくさんユニークなものがあり、自国の文化を守っているし、良い形で温存されている。これは貴重なことだと思うようになった。」 と述べています。
 
どうも、日本に対してあまり否定的な見方を持っていないように見えます。「欧米社会はあまりにも均質化しすぎており、均質化すると効率は上がるが、クリエイティビティは下がる。日本にはクリエイティビティがある。」 とも言っています。
 
日本にはクリエイティビティがあると語り、欧米一辺倒で日本が発展してきたわけではないと見る観点は、ある意味で、日本の本質をよく見ており、ティールの目は深い洞察に富んでいます。

いいなと思ったら応援しよう!