![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/66445074/rectangle_large_type_2_b016022a9e32d378345fc27822a3d964.jpg?width=1200)
UK ROCK「ビートルズ」を語る
親愛なるビートルズ
ビートルズ、ぼくの人生のすべてであり続けるビートルズ、ビートルズの音楽をハートに抱き締めて過ごした青春の日々は確かに過ぎ去った。
だが、それらはぼくの心の中に今も、生き生きと、生き続けている。ぼくの心の中で、ぼくの魂の中で、ビートルズは永遠であり、不滅である。
1962年の「ラブ・ミー・ドゥー」(Love Me Do)をもって衝撃的なデビューを飾ったビートルズは、1970年4月のポールの脱退宣言による解散のときまでに、13枚のアルバムと213曲の歌を音楽ファンに送り届けてくれたのであった。
ビートルズの歌は、世界中の若者たちの合言葉であり、希望であり、歓喜であり、涙であり、血潮であった。
世界中の偉大な青春と悲しい青春、愛の喜びと悲しみ、涙と笑い、苦しみと怒り、おおよそ青春と言う青春が体験するすべてを、ビートルズは自分たちの歌に託し、青春のメッセージとして世界に流布したのである。
かくして、あまりにも偉大な青春の金字塔は打ち立てられ、人々の記憶に、そしてハートに永遠に刻まれることとなった。
ビートルズを構成する4人のメンバー、すなわち、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスン、リンゴ・スターという青春の騎士たちは、おそらく自分たちの想像を絶する世界的なスターダムへの成功を誰一人として予想できなかったに違いない。
高校の英語の教科書の中に、「朝、目覚めてみると、彼はスターになっていた」というような文章があったことを思い出すが、まさに、ビートルズのメンバーはその文章通りの体験をしたのだった。
ビートルズの成功は、或る一人の際立った芸術的個性の爆発によると言うよりも、4人という集合体の相乗効果的な創造性が生み出したものであった。だから、4人のうち、誰か一人でも欠けたら、それは最早、ビートルズではなかった。
4人のうち、誰が最もビートルズのために貢献したかとか、誰が最もビートルズらしかったかなどという問いは愚問である。ジョン、ポール、ジョージ、そしてリンゴの4人以外には如何なるビートルズも世に存在しない。
4人の出会いは、人間の業(わざ)ではなく、人間を超えた絶対者の業であったと信じたい。その組み合わせは、まさしく、天の配剤によるものであった。
ビートルズの音楽の特徴をひと言で言い表すことは、到底、不可能である。ビートルズの音楽とういうものは確かに存在する。しかし、それはプリズムを通すと七色の輝きを放つ光のようなもので、ビートルズの音楽という総体は、一種の光の束である。
さまざまな表情をもって現れる曲たちを聴き通すと、全体として壮観な美を創出する大きな虹が形作られるのである。波長の長いものや短いもの、明るい色や暗い色、強い光や弱い光、実にさまざまである。
ビートルズの音楽は、喜怒哀楽のすべてを包含し、青春のすべてのドラマを表現する。太陽の輝きを持つ曲、月の光で優しく包み込んでくれる曲、夜空の星たちの合唱を思わせる曲、さまざまである。海の潮の香りを運んでくる曲もあれば、森林の梢から漏れ来る光を感じさせる曲もある。
敢えて、大雑把にその傾向を指摘するとすれば、1962年までを草創期として、1963年から64年までを前期、1965年から67年までを中期、1968年から70年までを後期と考えて、各々の時期の音楽的特徴を掴んでみるというのも一つの方法である。
そのような観点から見ると、前期の音楽は、明らかに、若者のエネルギーのストレートな発散であり、怖いもの知らずの猛進である。
「シー・ラブズ・ユー」(She Loves You)、「抱きしめたい」(I Want to Hold Your Hand)、「オール・マイ・ラビング」(All My Loving)、「キャント・バイ・ミー・ラブ」(Can’t Buy Me Love)、「ア・ハード・デイズ・ナイト」(A Hard Day’s Night)などは、すべて前期を代表する。
一日の時間帯で言えば、午前10時から午後1時位までの太陽の輝きであろうか。粗削りと言えば言えないこともないが、恐れを知らぬ若者のエネルギーがすべてを圧倒し、有無を言わさぬパワーをもって世界制圧に猪突猛進している風情がある。
続く中期の音楽は、明らかに前期の猛進が影を落とし、優しさと悲しさ、孤独や失望など、さまざまな心情表現の多彩な展開が見られるようになる。それとともに、音の構成力も深みを増し、いい意味での音楽的挑戦という新たなる冒険の旅が始まる。
だから、ひと言では言えない、さまざまの音楽的要素を中期において見ることができる。曲の持つ表情が豊かになってくるのである、
具体的に見てみよう。初期の面影を残している「エイト・デイズ・ア・ウィーク」(Eight Days A Week)、「アイ・フィール・ファイン」(I Feel Fine)、抒情溢れるポールのラブ・バラード「イェスタデイ」(Yesterday)や「ミッシェル」(Michelle)、ジョンの孤独な絶叫「ヘルプ」(Help!)などがある。
さらにギターの緩やかな音色で新境地を開いた「ノルウェーの森」(Norwegian Wood)や「ひとりぼっちのあいつ」(Nowhere Man)、曲の中盤辺りに挿入されたピアノの音が美しい「イン・マイ・ライフ」(In My Life)、ジョンの優しい抒情が流れる「ガール」(Girl)、ポールの社会意識の広がりを思わせるユニークな曲「ペーパー・バック・ライター」(Paperback Writer)が挙げられる。
続けて挙げれば、哀しい響きを漂わせる「エリナー・リグビー」(Eleanor Rigby)、海の波と潮の香りを一杯に漂わせて歌うリンゴ・スターの「イェロー・サブマリン」(Yellow Submarine)、複雑な音の構成を試みたジョンの「ストロベリー・フィールズ・フォーエバー」(Strawberry Fields Forever)なども中期の曲になる。
さらに続けると、ホーン・セクションの効果的導入で音楽美の表現に成功した「ペニー・レイン」(Penny Lane)、魂の幻想的遊泳を促すような「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」(A Day In The Life)、音の多彩な構成力によって、クラシカル・サウンドを現出した美しい曲「愛こそはすべて」(All You Need Is Love)とビートルズの挑戦は続く。
そして、ジョンとポールの出会いと別れを暗示するかのような「ハロー・グッバイ」(Hello, Goodbye)などなど、中期ビートルズ音楽は音の博覧会場である。極彩色に輝く万華鏡の世界である。
ヒット・チャートの上位を占めたからとか、ヒット・チャートに現れなかったからなどという単純な評価は許されない。隠れた名曲や佳曲が多いのも中期の特色である。
1968年頃から解散までを後期ビートルズとすると、そこに現れた音楽世界は、円熟と完成の極みであると同時に、今や音楽的偉業を遂げて、静かに引退へ向かう勇者たちのゆとりある遊戯の数々が、そして、フィナーレを飾るに相応しい夕焼けの美しさが見られた時期であるということができる。
自然体でゆったりと歌い聴かせてくれるポールの「ヘイ・ジュード」(Hey Jude)、ロックはかくあり給えと後世に伝えるかのようなジョンの「レボリューション」(Revolution)、ビューティフルなロック或いはバラードの美しさを提示してくれたジョージの「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」(While My Guitar Gently Weeps)や「ヒア・カムズ・ザ・サン」(Here Comes The Sun)が後期の曲たちだ。
さらに、自然な乗りを持つ、均整の取れたロックの古典的名曲「ゲット・バック」(Get Back)、本当に楽しい時はこの歌を歌ってくれと言わんばかりのポールの「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」(Ob-La-Di, Ob-La-Da)、シュッ、シュッという音が印象的なジョンのスローなロック「カム・トゥゲザー」(Come Together)などが後期を飾る。
そして、美しい詩と泣きたくなるような悲しい響きを持つ、ポールの情感溢れるビートルズ終幕への詠唱「レット・イット・ビー」(Let It Be)等々、ただただ、円熟を極めた名曲の数々が全世界の音楽ファンへ送り届けられたのである。
第二次世界大戦の悪夢と傷跡がいまだ冷めやまぬ1950年代が終わり、何とか落ち着きを取り戻し、世界中の国々が明日の平和な未来の建設へと乗り出した60年代に見えたが、よく見ると新たなる矛盾と問題が次々と発生し、更なる混迷の中を進まなければならない状況が地球をおおっていた。
1940年代にこの世に生を享けた者たちが、ちょうど60年代に青春時代を迎えたわけであるが、明日の人生を模索する若者たちの憤懣(ふんまん)やるかたないエネルギーを受け止めるかのように、忽然とリバプールの街角から、これまでにない強烈なビートをもったサウンドと若者たちの歌声が聞こえてきたのであった。この若者たちのエネルギーと共に確実に新しい世界が始まりつつあった。
その意味で、ビートルズ世代はまさに新しい世界を創造する旗手として、その役割を果たす世代ではなかったかという思いに駆られる。そうであるならば、ビートルズは新世界創造のラッパを吹き鳴らす神の軍楽隊であったと結論したい。
ビートルズ、わがビートルズよ、世界の若者たちに夢と希望の息吹を吹き込み、未来を拓く偉大な活力を注いでくれたビートルズよ、あなたがたの上に神のとこしえの祝福があらんことを!