ジャズ音楽の20世紀
黒人に西洋楽器を持たせたとき、そのとき、ジャズ音楽が誕生したというようなことが言われるが、当たらずと言えども遠からず、まさに、従来の西洋音楽の理論と技法にはない非常に自由な音楽演奏を繰り広げる黒人たちの驚くべき姿がそこにあった。
それは白人社会に対する衝撃的な挑戦となったのである。その音楽的価値を次第に白人も認めるようになり、今日では、確固不動の位置をジャズは音楽世界において築き上げている。
例えば、初期のジャズ名曲「ベイズン・ストリート・ブルース」をルイ・アームストロングが楽しそうに演奏し歌っているのを聴くと、おおよそのジャズの特徴が把握できる。前半と後半では大きく曲調が変化し、音楽自体が自由に踊っているといった感じだ。
ジャズと即興演奏(アドリブ、インプロヴィゼーション)は非常に密接に結びついており、同じ曲でも、演奏者により、様変わりしたりするものである。個々のアーティストたちの自由な精神がその表現として発露される。
1930年代にはいると、ジャズは白人の手に渡るようにもなり、スウィング・ジャズの代表である「シング・シング・シング」は、白人のルイ・プリマが作曲したものである。ベニー・グッドマンの演奏が、まさにスウィングして、大いに躍動しているのが感じられる。
ジャズ音楽の醍醐味をジャズピアノの中に感じるという人が少なからずいる。オスカー・ピーターソンのミスタッチのない正確無比のピアノ演奏は有名であるが、その超絶技巧は多くの人々を唸らせる。
ジャズは、ビッグバンドからジャズヴォーカル、ソロ演奏に至るまで多様な形態を持っており、また、時代時代により、スウィング・ジャズ、ビバップ・ジャズ、モダン・ジャズ、クール・ジャズ、フュージョンなど様々で、どれが好みであるかないかなど、ジャズ・ファンでもいろいろだ。
ポップスに近いかたちで、大衆の人気を集めるジャズも多く、20世紀末から21世紀にかけてジャズの範疇は、いわゆるクラシックなジャズからポップス的なジャズに至るまで、ひとくくりにできない広がりを見せている。
グローバー・ワシントン・ジュニアの「ジャスト・ザ・トゥー・オブ・アス」などは、ビルボードの上位に長く居座り続けたフュージョン系列のジャズで、とてもポップな出来上がりになっていると言える。
最近では、ノラ・ジョーンズという女性歌手がジャズ・シンガーとして大ブレークして、世界中の音楽ファンを虜にした。彼女は、インド人の血を持っているが、その美貌の中に、アジア的情感と黒人のジャズ精神を融合させているかのようである。ヒット曲「サンライズ」を聴くと、並々ならない歌唱力で情感豊かに歌う彼女の姿が彷彿として感じられる。
日本のジャズ・シーンはどうか。渡辺貞夫などの活躍を始め、なかなかレベルの高い日本ジャズ界であり、世界的にも評価が高いものがある。カシオペアも高い音楽性で人気を博した。
ナベサダの「カリフォルニア・シャワー」などはご機嫌この上なく、気持ちのいいジャズの代名詞である。フュージョン・バンドとして活躍し、日本の多くのミュージシャンに多大な影響を与え続けたカシオペアであるが、彼らの曲は「テイク・ミー」などで分かるように、実に、スマートだ。
もしもジャズの心といったものを語るとすれば、それは結局、黒人の魂に言及することになり、アメリカの奴隷の歴史とそこから解放されたいとする黒人たちの自由への叫びがある。このように考えてもよいという思いがよぎるのである。
ジャズの自由な音の響きは、元来、黒人たちが持っているDNAであると言ってしまえば、そうかもしれないが、音楽の中に苦しみを忘れていこうとする黒人の魂の昇華作用が隠されているという考えも否定できない。
奴隷生活の中に、どんな家庭生活の姿があり、どんな悲劇があったか、それは黒人のみが知る世界である。もしかしたら、少しでも苦しみから逃れようと、家庭の中で、家族同士、おじいちゃんから孫まで、一緒に歌いながらの日々の生活があったのかもしれない。
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