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「中学生のゴミ出しボランティア」鶴ヶ島市社会福祉協議会は炎上対応で何を間違ったのか

2日前にこのようなnoteを公開した。
現在も炎上している鶴ヶ島市のゴミ出しボランティアについての論点を整理したつもりだ。なにが起きているのかを理解したい方はご一読を。


前回のnote公開後、鶴ヶ島市のゴミ出しボランティアについてライブドアニュースが報じた。


オリジナルはJ-CASTニュースで、ライブドアニュースは転載した格好だ。


転載なので同じ内容だが、ライブドアニュースのXポストに多くの意見が寄せられている。
記事公開から24時間経過時点(2024年7月13日20時30分)で736リプライ、3995リポスト、6049いいね、1108.2万インプレッション(表示回数)だ。


炎上加速と言っていいだろう。

このJ-CASTニュースの内容は、ボランティアを募集した鶴ヶ島市社会福祉協議会に「中学生ボランティアの意義」についてインタビューしたものである。

記事は中立的な立場で書かれており、重要な論点に対して社会福祉協議会の意見が述べられている。
なぜこの記事が炎上しているのだろうか。



インタビューの問題点

1. 「存在意義を確かめてもらうため」?

私は、社会福祉協議会の対応にいくつか問題があると感じた。
(以下、太字は鶴ヶ島たろうによる)


一番大きな問題箇所はこれだ。

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活動した中学生に出すボランティア証明書は、何に使うために出すかについては、こう話した。
「もちろん、進学や受験のときに、ボランティアの実績として活用することができて、生徒にもメリットがあります。しかし、それが目的ではなく、福祉に関心を持って、困った人のためにやってあげることで、自分のやりがいや存在意義を確かめてもらうためのものになります。車イスを押すなどの福祉教育を体験し、ありがとうと喜んでもらったことで、福祉に関心を持ってやってみたいと思うようになる生徒もいます」
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「存在意義」は取り扱い注意な言葉だ。意義とは理由や価値、意味、といった言葉だ。自分がなぜ生まれてきたのか、生きる意味とはなんだろうか、という哲学的な問いに向き合うのが中学生くらいの思春期で、これを読んでいる読者も経験があるのではないだろうか。思春期に自分の存在意義をさまざまな体験を通じて悩み、葛藤し模索する、多くの場合、自分の存在意義に明確な答えなど見つからない。しかし存在意義に向き合う時間は、大人になるための重要なステップだ。その存在意義を、大人から与えられたり誘導されるニュアンスを感じれば、強い違和感を持つ人がいるのは当然だろう。

今回の事案は、ボランティア精神のある中学生とゴミ出しが困難な高齢者を社会福祉協議会がつなげる事業だ。中学生に「存在意義をたしかめてもらうため」と言うのであれば、当然の反応として、「社会福祉協議会や高齢者の存在意義は?」と問われるだろう。エイジズムやシルバー民主主義が社会問題化している現在の日本で、これは危険な問いである。

ボランティアを呼びかける側が使う言葉として「存在意義」は、少々想像力にかけたものだったように感じる。


2. 「将来の福祉に関わる人材を増やすため」?

次に問題を感じたのは社会福祉協議会のこの回答だ。

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「介護保険の認定を受けるほど重度ではなくても、腰や膝が痛くて外に出るのが大変だという方がいます。ゴミ出しのニーズが非常に多くなっており、市のサービスを使える方はいいですが、対象外の方を救いたいと、ケアマネージャーから相談を受けたのがきっかけです。学校に話したところ、小さいころからボランティアに関わって、将来の福祉に関わる人材を増やすためにも、福祉教育の一環として活動することになりました」
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人口構成比がいびつな超高齢社会において、「将来の福祉に関わる人材を増やす」のは重要かつ喫緊の課題である。しかし「将来の福祉に関わる人材を増やすため」は「本音」が過ぎるように感じる。普段は「こどもには無限の可能性がある」などと言っている大人が、本音では『自分たちの老後を見据え「将来の福祉に関わる人材」としてこども達を誘導している』ようにも読めてしまう。失言だったのではないか。


3. 「ボランティアの実態を分かっておらず」?

次の問題はこれだ。

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お金を出さずに働かせるなといった批判があることについては、こう反論した。
ボランティアの実態を分かっておらず、イメージから捉えられている方もおられるのではないですか。シルバー人材センターを利用といっても、裕福とは言えない独り暮らしの方もおられます。いくつか問い合わせも来ており、やらざるを得ない状況で家事などをするヤングケアラーと誤解したり、汚物などを扱わないのに衛生的にどうなのかと言ってきたりする人もいますね」
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インタビューの文字起こしが正確である前提で書くが、「ボランティアの実態を分かっておらず」という言い方は、今回の批判者に対して上から目線な印象を与えてしまう点で問題だ。「私たちは○○について分かっているが、あなたたちは分かっていない」という態度を炎上の際にとってしまえば、収まるものも収まらない。

私個人の印象だが、寄せられた批判のなかには記事本文を読まずにタイトルだけで反応している人もいた。また、想像や憶測が走り過ぎていたり、仮定に仮定を重ねて批判している人もいた。さまざまな困り事を抱えている市民と毎日向き合って奔走している社会福祉協議会としては、強く反論したくなる気持ちはわかる。

しかし今回の炎上事案で巻き起こった批判には、傾聴すべき意見も少なくない。批判している人たちを「分かっていない」と決めつけてしまう態度は端的に失礼であるし、炎上対策としても失敗である。


4. 「ヤングケアラーとして誤解」?

また、「ヤングケアラーとして誤解」という回答も余計であった。社会福祉協議会はヤングケアラー問題に取り組んでおり、実際のヤングケアラーと何度も関わっているだろう。そのために狭い意味、厳密な定義で「ヤングケアラー」を捉えているのではないか。

どのような言葉にも言えるが、言葉には狭い意味と広い意味がある。少なくない批判者が使ったのは広い意味の方ではなかったか。中学生が高齢者のゴミ出しをするボランティアを指して「ヤングケアラー」だという批判者の言葉は、若い世代が高齢者をケアする現在日本の社会制度や風潮が「ヤングケアラー」的ではないか、という意味だと私は理解した。
たとえば現役世代が高齢世代を支える賦課方式の年金制度などは、「ヤングケアラー」的と言えないだろうか。

前回の記事でも書いたが、今回の炎上の根にあるのは「世代間の不均衡」だと私は捉えている。ここを見逃すと今回の炎上は収まらないし、今後もまた同様の批判が起こるだろう。これは鶴ヶ島市に限らない。どの街でも起こるし、地方自治体だけでなく、国政でも高齢者のためになぜ若者が犠牲にならなければいけないのか、という批判の声は大きくなるだろう。


5. 「助け合いの心」?

J-CASTニュースの記事の最後にあった社会福祉協議会の回答にもひとこと書いておく。

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「ベッドタウンですので、地域のつながりが弱く、困っていても助けがない方もおられます。子どものころから助け合いの心を持ってほしいので、当面は活動を続けていく必要があると思っています」
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他の多くの自治体と同様に、鶴ヶ島市は地域のつながりが加速度的に弱くなっている。自治会の加入率は約50%で減少傾向にある。活動も不活発で、存続が危ぶまれている自治会も少なくないと聞く。もともと鶴ヶ島市は東京のベッドタウンとして高度経済成長期に人口が増加した地域であり、郷土愛、シチズンプライドを強く持っている住民は多くないように感じている。また、高齢化はますます進んでいる。年齢に関わらず「助け合いの心」をどのようにして広く住民に持ってもらうかは、自治体として死活問題だ。
しかし「助け合いの心」はあくまで自発的、内発的に起こるべきものであって、大人社会がこどもを誘導するものではないはずだ。こどもは大人の背中をみて育つ。まずは鶴ヶ島市の大人がこどもにあるべき姿を見せるのが先だろう。


なぜ事業説明を書き換えたのか

鶴ヶ島社会福祉協議会の事後対応のまずさは、他にもある。

ゴミ出しボランティアのページにあるイラストが炎上後に書き換えられているのだ。

書き換えは3箇所。

1
書き換え前
「小中学生ゴミ出しボランティアを活用してください!!」
書き換え後
「小中学生ゴミ出しボランティアがんばっています!!」

2
書き換え前
「中学生が活動する姿は、地域の人たちに元気を与えてくれます これからの地域づくりに中学生の力を借りましょう。」
書き換え後
「中学生が活動する姿は、地域の人たちに元気を与えてくれます これから一緒に地域づくりをしていきましょう

3
書き換え前
「ボランティア活動保険医の加入負担 年間350円×人数」
書き換え後
「ボランティア活動保険に加入しています


書き換え前


書き換え後


炎上を受けて急いで書き換えたものと思われる。このような対応は炎上対策として悪手だ。なにも説明をせずにシレッと書き換える態度は、批判者の目に不誠実に映る。

鶴ヶ島市社会福祉協議会がすべきなのは、正確な情報を端的に伝えることと、批判に対して真摯に向き合うことだ。


批判されているポイントは多岐に渡る。

  • 中学生に「労働」をさせるべきでない

  • ボランティアであっても対価を支払うべき

  • 内申書で釣ってボランティアをさせるのは強制性がある

  • ゴミ出しは行政が行うべき

  • ゴミ出しボランティアは大人が行うべき

  • ゴミ出しには感染症やケガのリスクが伴うので中学生にさせるべきではない

論点は他にもあるが、数が多いのはこのあたりだろう。
私が見る限り、批判の多くは情報が少ないために起こっているようだ。

ネット炎上が起こるにはいくつもの要因が必要だが、そのひとつは不完全情報だ。情報が不完全であると憶測が憶測をよび、火の手は広がっていく。社会福祉協議会は批判されている点を整理し、正確な情報を伝えることに注力すべきだと私は考えている。


鶴ヶ島市議会議員 高橋剣二氏の対応のまずさ

蛇足ではあるが、周辺の対応についても苦言を呈しておく。鶴ヶ島市議会議員の1人、高橋剣二議員の発信について問題を感じる。

https://x.com/takakenkabachi

高橋剣二議員は批判者の何人かとやりとりを試みている。鶴ヶ島市議会議員として市に対する炎上を鎮火させたいという高橋剣二議員の気持ちは理解できる。

しかし鎮火を試みるための言動が、新たな混乱や炎上を招いているように見える。

高橋剣二議員の主張は社会福祉協議会を代弁するもののようだ。

本来であれば社会福祉協議会がやるべきことではあるが、社会福祉協議会はXのアカウントを持っていないようだし、連休に入ったので対応ができないのだろう。

問題は高橋剣二議員の言葉選びと態度だ。相手を煽るような言葉が目につく。目に留まったポストのスクリーンショットをここに掲載する。

炎上対策として、これも悪手だ。たしかにSNSで炎上に加担している人たちの中には悪質な人も含まれるだろう。しかし、多くの人は問題意識を感じて善意から批判している。意見や立場は異なっても、最低限の敬意を持って接するべきだ。語尾に「(笑)」をつけたり、「詳しく説明してもらいましょうか」などの表現は、無駄に相手を怒らせるだけだ。

高橋剣二議員は新人議員ではない。6期目のベテラン議員だ(1期は4年)。また、鶴ヶ島市議会においては最大会派で自民党系の「新政クラブ」の会長であり、現在は監査という重責を担っている人物だ。このような議員の発言は個人のSNSとはいえ、第三者からは鶴ヶ島市議会を代表した発言と受けとられる可能性もあり、特に炎上対応の際には慎重であるべきだろう。

そもそも、今回問題となっているゴミ出しボランティアは鶴ヶ島市の行政サービスとは異なる。社会福祉協議会は公共性が高い法人とはいえ、あくまで民間の事業だ。議員が代弁するにしても線引きを意識しなければいけない。最低限、炎上を大きくしたり、市のイメージを下げるような言動は厳に慎まなければならないだろう。


// ※2024年7月14日 0時10分 追記

高橋剣二議員が以下のポストを行った。

高橋議員の言動に対して批判が起きているタイミングでこのようなポストをすれば、批判者の感情をさらに逆なですることになる。改めて自重を期待したい。

// 追記ここまで



まとめ

多くのトラブルは「2番目のミス」によって致命的になる。「2番目のミス」とは、事後対応のことだ。

今回の炎上は「世代間の不均衡」が根にあるという私の見解については前にも書いた。それに加えて誤解が憶測を呼び、炎上は現在も収まっていない。

ボランティアの仕組み自体に大きな瑕疵があったとは、私は捉えていない。つまり私の主観的には1番目のミスは存在していない。
炎上の事後対応が「2番目のミス」となってしまっている。

私はパソコン通信の昔からネットを使っている。多くの炎上を見聞きし、私個人もいくつかの炎上を経験した。その経験から言わせてもらえば、今の時代はどれほど気をつけていても炎上から無縁にはなれない。
大切なのは事後対応だ。

批判者を「ネットのおかしな連中」と見下して軽く扱えば、問題は解決しない。ネットの影響力はすでにマスメディアを超えている。また、ネットとリアルの境界線はますます曖昧になっている。過小評価しないほうが良いだろう。

おそらく鶴ヶ島市社会福祉協議会としては初めての大規模炎上で、どのような対応をとって良いのか分からず、担当者は今ごろ頭を抱えているのだろう。

まずは真摯な態度で、事実を端的に説明することだ。

ひとりの鶴ヶ島市民として、穏当な着地を望んでいる。


鶴ヶ島たろう

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