デジタル赤字の原因は他力本願思考ではないかと思う
ニュースや情報バラエティ番組などで「デジタル赤字」という単語を聞くことが増えています。貿易収支の中で赤字だということは日本から海外に出ていくお金が多いということですから、海外から見て日本に欲しいものがない、また日本人や日本企業にとって外国企業の製品やサービスの方が魅力的だということだと思います。
その内訳は、どのような取引きが集計されてデジタル関連貿易になっているのでしょうか。
デジタル貿易収支を計測するため、2020年にOECD、WTO、IMFが「デジタル貿易の測定に関するハンドブック」という様々な定義を行ったハンドブックを出版し、その後、2023年に詳細な統計を提供した第二版が発行されています。
実際に発表される統計値に含まれる要素は大きく分けて次の3カテゴリーのサービスや財で、それぞれに細分化された中項目、小項目があります。
1.通信・コンピュータ・情報サービス
通信サービス
固定電話、モバイル通信
インターネット接続サービス
情報サービス
データベース管理サービス
クラウドコンピューティングサービス
デジタルコンテンツ(映画、音楽、ゲームなど)の配信サービス
2.専門・経営コンサルティングサービス
ITコンサルティングサービス
クラウドコンピューティング導入・運用コンサルティングサービス
ソフトウェア開発サービス
ネットワーク設計・構築・運用の支援サービス
デジタルトランスフォーメーション(DX)コンサルティングサービス
データ分析やAI導入支援サービス
セキュリティコンサルティングサービス
3.知的財産権使用料
著作権料
書籍、音楽、映画、ソフトウェアなどの著作物の使用に対する料金
特許使用料:技術や製品に関する特許の使用に対する料金
商標使用料:商標やブランド名の使用に対する料金
デザイン使用料:デザインやインテリアの使用に対する料金
ソフトウェアライセンス:ソフトウェアの使用許諾に対する料金
リストにあるような項目をビジネスにしている日本企業はあるわけですが、貿易収支という観点からは、それらを外国の企業や個人が購入したり利用したりしないとデジタル貿易の収入にはならないので産業があるか否かではない点に注意が必要です。リスト中で太字にした項目は特にここ10年以上に渡って外国の製品やサービスが強いと私が思う項目です。
他国の状態を調べると前述の3項目が全て強いという国は少なく、例えばイギリスはコンサルティング領域の黒字が大きく、またEUはアイルランドがユーロ圏唯一の英語ネイティブ国という理由でグローバルハイテク企業を誘致しているためコンピュータ・情報サービスの黒字が莫大であるので収支が黒字となっているなど、諸外国でも強みには濃淡があります。
日本にはないけど必要なもの、例えば食品とか工業材料など多種多様な品が輸入超過でも日本は弱いとはならないと思いますが、デジタル貿易の対象品目は日本企業が強いハズ、もしくは過去には強かったものが散見されるので、デジタル貿易の赤字が「そんなはずでは..」という論調でメディアで取り上げられるのかなと思います。
並べて見ると、日本の個人や企業が外国企業に支払っている方が多いのだろうなというのは毎日の生活を想像しても肌感覚として理解できます。米国製のスマホとパソコンを使って米国のソフトウエアを使い、ネット通販や動画閲覧でも米国のサービスを利用しています。
一方、海外の製品やサービスを使っていても、それを社会全体として上手に使いこなしていれば良いのですが、日本の場合は利活用するという側面でも世界各国に比べるとデジタルリテラシーは低いという評価のようです。
国際経営開発研究所(IMD)が発表している2023年のランキングでは、日本は過去最低の32位となりました。このレポートの中で総合順位を決めた各項目のランキングを見ると、下記のような項目で日本は特に悪い評価になっていて、この辺りが日本の弱みと言えそうです。
ビッグデータや分析の活用(64位)
企業の俊敏性(64位)
上級管理職の国際経験(64位)
デジタル/技術的スキル (63位)
機会と脅威に対する企業の対応 (62位)
デジタル貿易収支にせよデジタル競争力にせよ、ナゼこんな状態になってしまったのかという理由について私が思う最大の要因は、日本企業が自分たちで考えなくなった、そしてソフトウエアや業務システムを自社で作らなくなった、ということかと思います。
以前にソフトウエアの内製化に関する記事を書きましたが、第1のメリットはアジリティ(敏しょう性)だと思っています。
レポートにある日本の弱みは直接的、間接的にシステムを内製するチカラに大きく依存していると思います。良く言えば「重要なシステムはプロフェッショナルみ任せる」とも取れますが、自社で作るより安く使えるならそっちで良いという他力本願の思考が巡り巡って自国製品やサービスの競争力をなくし、結果として利活用するリテラシーも落としてしまうという結果を招いています。
今後、デジタル赤字は拡大の一途を辿ると言われており打開策もない状況ですが、前述の原因を裏返すと、自社で課題を見つけて解決方法を考え、それを解決するためのシステムやソフトウエアを内製するスキルを向上させることが必要なのだと思います。そうすることによって同じ課題を持つ諸外国の企業に対して魅力的に映るプロダクトが創り出されるのだと思います。
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