「ベーシックインカム」より優先される「コロナ禍での継続給付」
新型コロナウイルス禍のなかで、にわかに”ベーシックインカム”の言葉が聞かれるようになりました。ベーシックインカム(コトバンク)とは、すべての人々への最低所得保障のことをいいます。
たとえば、コロナ対策で一律10万円の給付が決まりましたが、これが一度限りでなく、すべての人に対して毎月続いていけば、ベーシックインカムとなります。
今こそベーシックインカムを、という声が出ていますが、ここでは、現況でどのような継続給付が必要かを論じます。
◆平常時のベーシックインカムと、非常時の今
新型コロナウイルスの「病の克服」がどのような形になるかわかりませんが、克服に至るまでは当面は3密を避け、平時より制限のある経済活動を強いられるでしょう。経済面においてさまざまな策が取られていますが、仕事がなかったり、会社が傾いたりし、多くの人が収入を絶たれる厳しさに直面しています。
この事態に対して、「ベーシックインカム」が導入される時かもしれない、という見方が出ています。社会を構成するすべての人に、権利として、毎月の最低限の収入を保障する制度の導入です。
※日本でベーシックインカムは実現できるか?導入のメリット・デメリットを金融の専門家が解説(BIGLOBEニュース)
※コロナ危機により、ついにベーシック・インカムが実現する可能性(ニューズウィーク)
ベーシックインカムは、コロナ禍の影響を抜きにしても、行き詰まった経済社会に有効な仕組みであり(次記事以降に論じます)、それ自体は望ましいものですが、その実現と、現況で必要とされる給付には大きな開きがあります。
〇ベーシックインカム:平常時の実施を想定。生活しうる最低金額の保障とされるが、金額設定には社会的検討が必要。最低金額の保障であり、大多数の人は何らかの仕事をしてプラスの収入を得ると思われる。
〇現況での必要な給付:非常時であり、多数の、仕事がない人、仕事を減らした人が生じている。一刻を争う。
たとえば、直近に行われたベーシックインカムの社会実験(フィンランド)の月7万円や、今回の一律10万円をそのまま続けるモデルでは、維持困難な命と生活があります。かといって、毎月15万円あるいは20万円をすべての人々に一律給付するようなベーシックインカムの導入は、社会的同意の問題および社会設計の大変革を伴い、即座には困難です。
◆一律10万円の後は、「必要な人」に「十分に」
迅速さを求め、社会的分断を避けて、10万円の一律給付は望ましいと考えますが、一度きりの10万円給付では到底生活を維持できない人がたくさんいます。仕事を失った人、ひとり親家庭、単身の非正規労働者や日雇い労働者、親を頼れない学生などは、暮らしていくには一度の10万円では足りません。
今後の継続した支援が肝要です。人の命を救い、経済活動を回すための給付です。
今後は、ある程度の期間を想定して、必要とする人に15万、20万円など厚みのある支援が必要です。今回の申請方式を生かせば、簡便な方法で給付することができるはずです。
この局面では迅速で柔軟な給付が必須であり、さまざまな条件を課される生活保護は適していません。
仕事を失っても、家計を維持できれば生きていけます。
アルバイトをなくしても、補う収入があれば、大学を辞めずにすみます。
◆「支援」「救済」だけではない、
「経済を回す投資」の重要な意味
個々人にとっては命をつなぎ、生活を維持するための現金給付であり、「支援」「救済」の意味合いが強く認識されますが、社会から見れば「投資」です。
多くの庶民が困窮すれば、インフラである通貨(前記事①、②参照)は社会を巡らなくなり、経済は縮小する一方です。貧困が拡大し、自殺者が増え、治安が悪化し、世の中は分断されて、社会は壊れてゆくでしょう。このことは、稼ぐ側の富裕層にとっても望ましい状況ではありません。
庶民に給付されたお金は、生活や仕事、学業などに投じられ、社会を巡り、経済を回します。これは公共投資と同様です。投資された通貨が社会を巡れば、コロナ禍で制限される中でも、ゆるやかな経済活動が保たれるでしょう。
あるいは、人への投資と考えることもできます。終息後元気に働ける人をいま維持するための投資です。学生であれば、人材育成のための投資です。
◆財源はつくれる。ただし、給付後の資金回収は必須
財源は十分につくれます。
また、給付後の資金回収は必須です。
これについては、下記で論じました。
通貨は「インフラ」①――補償・給付の財源はつくれる
通貨は「インフラ」②――補償・給付後は、絶対に必要な「資金回収」
以上、いろいろな検討・議論に一案を提供すべく記しました。だれかを批判する意図はありません。私たちが手を携えて困難に向かえればと願います。
今後さらに優れた案が世の中で検討されてゆく可能性もあります。
いずれにせよ、とりいそぎの速やかな対策が必要です。