大企業「も」中小自営「も」個人「も」――いのちをつなぐ補償を
【補償】損害や出費を金銭などでおぎないつぐなうこと。「災害ー」「ー金」(広辞苑)
新型コロナウイルス禍は甚大な災害となり、人々が生きていくには金銭補償が重要な局面にきています。ここでは、大企業向けの出資検討の報道が出たことに対し論じます。
政府 大企業や中堅企業向け 1000億円出資枠創設へ(NHK)
◆ 大企業は「内部留保」をためているのに?
上記の報道に対し、企業は内部留保を460兆円超ためこんでいるのに守られる必要があるのか、という声が多数みられます。これまでも、内部留保を非難する側と、企業行動を支持する側で対立が見られますが、双方の立場から検討できないでしょうか。
■■ 内部留保は、毎年の利益が積み上がったもの
⇒ 設備投資や有価証券購入にも使われる ■■
「内部留保=現預金(お金)」ではありません。それゆえ、積み上がった額をそのまま活用することはできません(企業のもつ現預金については次項)。
内部留保(会計的には「利益剰余金」)は、年度末の企業の利益から、株主への配当や納税など流出する分をひいた後、企業に残る分を指します。年々カウントされたそれを「足し算」していけば、年を追うごとに積み上がっていくのは当然です。
※内部留保(コトバンク)
企業はその残した分から、設備投資・開発投資を行ったり、土地や有価証券を購入したり買収等を行ったりしますが、この行動は内部留保の額を減らしません。
たとえば、毎年100万円ずつの内部留保が生じたとすると、3年間で300万円まで積み上がります。その間、毎年50万円ずつ設備投資をすれば、現預金として残るのは150万円です。しかし「内部留保」の額は300万円のままです。このように、企業発展のための行動に使われても、内部留保の額には見えてきません。
したがって、460兆円に「積み上がった」内部留保は、現預金そのものではありません。
(わかりやすさのため簡易にたとえました。また、「配当を出す」など内部留保を減らす企業行動もあります。詳しくは下記などを参照ください。)
※内部留保をわかってない人に教えたい超基本(東洋経済ONLINE)
■■ 内部留保の急増&人件費抑制が、セットで続く20年 ■■
とはいえ、急増が指摘される内部留保には、企業利益の増加が貢献しており、その理由の一つに人件費の抑制があります。
内部留保がしばしば槍玉に上がるのはそのためです。
経費節減、人件費節減に励んだ企業は、利益を増やし、内部留保を増やしてきました。
企業利益は、2018年度に過去最高を記録した(下記グラフ:法人企業統計より)一方で、非正規職員は増え、年収の中央値は下がり(下記グラフ)、貯蓄ゼロ世帯は増え続けています。
※非正規職員の割合推移(総務省統計局)
※「金融資産ゼロ世帯」の行動経済学(大和総研グループ):金融資産ゼロ世帯比率のグラフあり
※積みあがる内部留保(リクルートワークス研究所):内部留保と人件費のグラフあり
◆ 企業には270兆円の現預金がある
460兆円の内部留保は、現預金(お金)ではありません。しかし、利益を増やしてきた企業には、いま270兆円の現預金がたまっています。
270兆円の現預金は企業全体(金融以外)の合計であり、企業間格差は拡大しているので、一部に偏在している可能性があります。すべての企業が十分な現預金を有していると指摘するわけではありません。
企業が現預金を蓄積する動機には、先行き不透明感や不測の事態への備え、投資機会への備えなど、さまざまあるようです。この非常時こそ「不測の事態」であり、備えてきた資産、20年前と比べて約100兆円増えた現預金を活用するときではないでしょうか。
◆ 株主利益だけでなく、従業員の生活維持も
会社の目的は、昨今は株主利益最大化が声高に叫ばれていますが、本来は働く人の生活維持も含まれるはずです。特に日本では、ふるくからその精神がありました。
※従業員の生活を保障する責任――リーダーの心得(10)(松下幸之助.com)
株主資本主義が先行するアメリカでさえも、最近新しい動きが生じました。
※株主優先の方針見直し 米経営者団体(東京新聞Web)
余裕のある企業は、いまこそ従業員のいのちのためになにができるかを表明し、社会をリードしてもらえないでしょうか。非正規や派遣を含めた雇用の維持、休業手当など、生活の安心が必要です。それを社会的使命として、株主も応援できないでしょうか。税制面など国の後押しも重要です。
江戸時代、裕福な商人たちは協力して水路の改修に取り組み、非常時用に米を備蓄し、困窮者に分け与えたといいます。度重なる大火災や、飢饉を経ながらも、江戸は当時の世界でトップクラスの経済成長率でした(NHKスペシャル「シリーズ大江戸」)。助け合い、協力する、和のこころは、現代にも通ずるはずです。
◆ 大企業にも、中小自営にも、個人にも、必要な補償・給付を
一方、たとえ現預金を多く保有する大企業であっても、ダメージが甚大であったり、期間が長引いたりすれば、自力で乗り切れるとは限りません。
この災害による打撃で会社の維持と雇用の維持が難しくなるようであれば、企業規模にかかわらず、補償されるべきと考えます。
大企業であればそれだけ多くの従業員の生活がかかっています。中小であればより迅速な支援が必要です。
そして、個々人の生活者にもまた、一律給付する必要性を、前の記事で述べました(下記)。
※経済死者を防げ ――新型コロナウイルス禍に打ち克つ経済
多数の企業や人々が困窮に追い詰められているのに、一部しか補償されないことで、嫉妬とやっかみが渦巻く構図には、災害、国難を乗りきる未来が見えません。
ウイルスの流行が終息したのち、元気に動ける会社・人が存在しない――そんな事態を避けるためにも、いまこの大事な時期に、思い切った補償・給付策を望みます。
◆ 財源はつくれる
財源はつくれます。すでに日銀は、500兆円近い国債を下支えしているのです。
また、補償や給付により市中に出回った資金は、富裕層(法人・個人)からの回収が必須です。
これらについても、前の記事に記しています。
以上、いろいろな検討・議論に一案を提供すべく記しました。
だれかを批判する意図はありません。私たちが手を携えて困難に向かえればと願います。