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syrup16g 遅死 11.02 日比谷野外大音楽堂 レポ



コロナ禍が終わっても人と会うことを避けてると言われているソングライター五十嵐(Gt&Vo)の書く独特の世界観を孕んだ歌詞やアップダウンの激しいメロディーが解散〜再結成を経ても未だに根強い支持を受け続けている、"伝説の鬱バンド"syrup16g。

2024はワンマンはおろか出演ライブは数える程であったが11月に日比谷野音にて2004年にdelayedeadリリースに際して行われた 遅死を20年ぶりに開催することを決定した。

そんな伝説のバンドの今年度唯一のワンマンライブのチケット獲得は困難を極め、10月末の機材席解放でようやく掴み取る事に成功した。
個人的にdelayedeadは高校時代擦り切れるほど聞き生活の一部に溶け込んでいた特別なアルバムであり、生でsyrup16gを観るのも初。
身震いしながら野音へ向かった。


物販に並んでいた頃は傘を差さなくても平気だった雨模様は開演前では土砂降りに。

17:35 定刻より5分遅れて雨具を弾く水滴の音が響く中、黒い服で統一した3人が登場する。


各々が音を出し終えると暫しの沈黙、そして五十嵐のギターが沈黙を破る。

クロールのイントロが響くと歓声が上がり、自分は高校時代がフラッシュバックする。
勉強を始める前に、眠れない夜に、自分だけの部屋で幾度となくdelayedeadをCDプレーヤーに入れて流してきた。
再生ボタンを押すと1曲目に流れるクロールはいつだって約1時間の旅へと誘ってくれた。

3人の足元を真っ白のライトが照らし、シルエットだけがくっきりと網膜に投影され、伝説が始まった。

赤い照明に変わりイントロでテンポが上がる前頭葉で頭を殴られたような感覚に襲われる。
五十嵐の"前!頭!葉!"のシャウトはあの頃に比べて掠れ気味だったが胸が震えた。

音源通りに五十嵐のギターが轟音を立てて始まるHeavenの歌詞には"全て忘れるぜ 今だって"とあるが絶対に忘れたくないと思った。

余韻を残さずにもういいって
遅死だからdelayedeadの曲メインとはわかっていたが、ここまで連投されると情緒もよく分からなくなる。この曲もよく頭に残ってるのだが、いつの間にか曲が終わってしまうイメージでライブでもそれは同じだった。

鳴り止まない歓声と拍手の中、
五十嵐がMCで第一声… 「(雨で)ごめんなさいね」
には笑いが起こる。
圧倒的なパフォーマンスからこの緩い感じ、

するとメインMCを務めるDr.中畑大樹より
「よく来た!よく来たよ! 散々だね…雨の中こんなバンドのライブを見に来てくれて笑」と柔らかい表情で和ませる。
「ライブ中だけ降るんだって…みなさんはどうぞ無理なさらずね。私たちは無理しますけど」

やはり中畑だけ世渡り上手というかまとめ役な印象そのままだった。ただ締めの「私たちは無理しますけど…」というセリフはいかにもsyrup16gを体現していて流石だった。


ちなみにMCまでのクロール→前頭葉→Heaven→もういいって この4曲の流れは20年前のセットリストと全く同じである。
この流れで行くと次の曲は水色の風となるのだが、、、


五十嵐が軽快なイントロを奏でると、単に20年前の再現ライブでは無いことを理解する。

翌日という曲が無ければ私はこのバンドに心酔してい無かったかもしれない…。元々インディーズ時代のFree Throwというアルバムに入ってる楽曲なのだが、この曲を聴くためにdelayedeadを聞いていたまであるし、そのおかげでdelayedeadのスルメ曲たちが好きになった。
発明とも思っている史上最高のギターリフに、
"急いで人混みに染って 諦めない方が奇跡にもっと近づくように" という歌詞も、
きっと奇跡なんて無いけど、当時そう思わないとやってけなかった生きてるか死んでるか分からない自分を何度も救ってくれた。
(諦めなかったからチケット獲れたし奇跡に近づいた)
泣きながら噛み締めるように聞いた。
そんな大好きな曲では野音のステージ全体に白い照明が当たり、降ってくる大量の雨粒がくっきりと見える。
雨に降られながら演奏する3人の影がカッコよすぎた。あのシーンを死ぬまで忘れないだろう。

そしてsyrup16g 1番の名曲 生活へと続く
"涙流してりゃ悲しいか 心なんて一生不安さ"
"誰が何言ったって気にすんな 心なんて一生不安さ"
とシニカルに歌ってくれる。その不安さえ肯定してくれるかのように。
それでも最後に"そこで鳴ってるのは目覚まし"というリアルに行き着く。

今日ここで見れたのは自分が生き続けたから。
でも胸張って生きてこれた気はしない。どちらかというとここまで生きてしまったが正しい。
そんな生き延びてしまった自分を肯定してくれた気がする。

そんな聞かせる2曲の後の真空というジェットコースターっぷりは圧巻。
来年50歳を迎えるとは到底思えない圧巻の演奏…あの頃と同じように可笑しくなれた。

これにて第2ブロック終了
メンバーがチューニングや楽器の持ち替えをする中、雨の勢いは衰えない。
しかしそんな雨音さえも心地よかった。
チューニングを終え再び一面雨具の観客を見た五十嵐が 「なんか野戦病院みたいだね」と微笑む。

Breezingで再開する。
ここで気付いたのはベースの音が大きいこと。
ライブハウスだと低音が聞きにくいのもあるが、中畑のドラムが体全身を震わせると言うのなら、キタダのベースは血の流れを感じるような…。
(こんなにベースの音を感じたことは無い)

テンポを落とした古めかしいギターが鳴る。
エビセンは遅死という公演だからこそ聞ける超レア曲である。
6分強あるバラード調のナンバーはピンクの巣のような背景の中、雨に溶けていくかのように儚かった。

明日を落としても も何度も自分の人生においてテーマソングになった曲だ。

"つらいことばかりで心も枯れて諦めることにも慣れて  したいことも無くてする気も無いなら無理して生きてることも無い"

という歌い出しはネガティブにも捉えられるが、リアルを歌うシロップに何度も救われた。

"明日を落としても 誰も 拾ってくれないよ それでいいよ"
誰も助けてはくれない、神様はいない。そんなリアルを歌ってくれるこの歌のおかげもあって自分は自分の意思で今を生きていけている。


ここで小休憩

「"つらいことばかりで"って、そっちの方が辛いっすよね」とはにかみながら問いかける五十嵐。
そんなことは無い、そんなはずが無い。
1度解散し再結成して、あの頃聞いていた曲を野音という場所に響かせてくれていることがどれだけ嬉しいことか…。

「でもちょっと(雨は)少なくなってきたんじゃない?」

すると中畑から
「前出てみたら?」と言われ前に出て雨を確認する五十嵐
「全然(止んでない)か!すみません!」


赤いカラスでライブ再開。
20年前のセットリストと違うなら再結成後の曲は聞けないのかな…と思っていたから、ウワッと声が出るくらい驚いたし嬉しかった。

ガラッと雰囲気が変わってI Hate Music
こちらもdelayedead収録のスルメ曲。豪雨の中の肩を揺らしながらの"ハピネス!ハピネス!" はこの曲のように天邪鬼っぽくて楽しかった。

In My Hurts Againという1番新しいアルバムのLes Misé blueからの選曲に再び驚かされる。
個人的にレミゼの中でも好きな曲だったし、
"来世はお煎餅屋になりたくて"が聞けたのが嬉しかった…笑
この天気によく映えるなぁ〜と思っていたら、ステージ奥に雷が走った。

曲間でふとステージの外に目をやると、さっきまではくっきり見えていた奥に見えるビルの照明がぼやけていた。
それくらい雨は断続的に降っていたし、雷鳴も轟いてどよめく会場。
「中止だけにはならないで……」と願った。

そんな不安の中、変拍子が流れる。
これもまたまさかまさかの選曲である。
この日が雨である必要があったと思うくらいに、この曲もまた雨とよく合うなぁ。
"冷めているのではなくて あきらめているわけでもない  分かり合えた日々が眩しくて見れないだけ"    

 Dr.中畑からこの日1番の軽快なビートが響く。
希望で満ち溢れたようなイントロが……
みたびdelaidbackより 光なき窓
delaidbackというアルバムを締めくくる変拍子〜光なき窓という流れ…素晴らしかった。
光なき窓は特にアルバムを締めくくるにピッタリで、
"そばにいくれ そばにいてくれ ふらっと隣に"
という解散前では五十嵐がこんな歌詞を書くなんて思わなかった…。

もう枯れかけている声を振り絞って叫ぶ
"そばにいてくれ"に心を打たれないはずがない。
1曲目のクロールの時の白い照明に似ていたが、それよりも明るく遠くからでも全員の表情もハッキリ見えた。
そこで全灯していることに気づく、これで本編は終了。

思い出の詰まったdelayedeadの楽曲よりも最後の光なき窓が1番心に刺さった。


【アンコール】
Ba.キタダが一番乗りでステージに帰還する。
とすぐさまベースを取り何百回と聞いた不穏なベースリフを奏でる。中畑、五十嵐と順に戻り2人が音を合わせるとベースリフから高まっていた高揚感が頂点に達する。

Sonic DisorderはFree Throw、そしてdelayedeadのエース格(のように感じている)。
あの頃何度も心を弾ませた1分を超えるイントロ…ぐしょぐしょのシューズでリズムをとる。

"いつかは花も枯れるように 壊れちまったね
ここは怖いね"
興奮とともに過ぎ去っていってしまった。

興奮冷めやらぬ中、中畑から大きな音が…全身に響き渡るビート。
デビューアルバムcoup d'tatより 神のカルマ

マジか…。名曲から名曲へ目まぐるしい展開だ。
そしてこの頃から雨が落ち着いてきた。
雨具のフードをとると今までよりしっかり音が聞こえる。 両手を上げて音を楽しむ。

"これはなんだ 神のカルマ 俺が払う必要は無い"のあとに 全然ない!!!!とシャウトする五十嵐。  おぉ…まだまだやってくれるのか!!

続いてdelayedより落堕
9月のLADMACHINEのライブで聞いたな…
五十嵐はギターをぶら下げ、前方へ ほぼハンドマイク状態で歌い続ける。
まさか…え、いいの…??

"寝不足だって言ってんだろ!!!"と全員で叫んだ。
異様な光景と言えばそうかもしれない。
雨も相まってどのバンドのライブでも感じたことの無い結束力を感じた。
それぞれシロップとのストーリーはありつつ、この11/2の為に生き続けてきた同じ穴の狢のシンガロングは胸がザワついた。

そろそろ終わりか…しかしメンバーは捌けない

五十嵐から"声が聞こえたら神の声さ"
coup d'tatの熱唱とともに歓声が上がる野音。

そしてcoup d'tatときたらもちろん空をなくす
である。
五十嵐の"イェーイ!!"で更に高ぶる。
これ以上、上がるはずのないテンションがもっと先へ先へと行こうとする。
首を振って手を上げて全身で音楽を感じる。
「明日なんて知らない。もうここで終わっていい」 と本能的に思った。
これこそ音楽の楽しみ方だったのかもしれない。 とにかく無我夢中だった。


ここまでしてくれるなんて…
豪速球の連投のようなアンコール。syrup16gというバンドの底力を真正面から喰らった。


場内は再びアンコールを求める拍手が響く。
公演内容終了のアナウンスは無い。

正真正銘最後のアンコールを受けたメンバーは
自ら直筆した遅死Tシャツに着替えた五十嵐、白のairplane markTシャツのキタダ、delayedeadTシャツの中畑とそれぞれ違う服装に着替えて登場した。

五十嵐が最後の挨拶をする。

「今年初めてのワンマンで…というか今年最後なんですけど、1曲に力が強すぎて雨雲が集まって災害になってしまった……」と詫びた。

そして
「でもね、出来て良かった。皆さんが生きててよかった。 また来年もやりましょう!」


【アンコール2】
そんな幸せに溢れた野音を包み込むように、
Rebornが流れる。

"昨日より今日が 素晴らしい日なんて 分かってる そんなこと 当たり前のことさ"

人生のエンドロールがあるならばきっとこの歌であって欲しい。


また五十嵐隆という男とRebornという曲に大勢が救われたことだろう。
レインコートを着た観衆に「野戦病院みたい」と揶揄ったが、普段傷つきながら苦しみながら生きている我々にピッタリかもしれない。
それでも生き続ける理由がこの遅死11.02、ひいてはsyrup16gのライブである。

"一度にそんなに 幸せなんか 手に入るなんて思ってない 遠回りしていこう"

そうだ。また生きる理由を約束してくれた。
syrup16gの音楽を求めてる人はこんなに多い。
再結成してから頻度は落ちても誰も欠けることなく曲を鳴らし続けてくれる3人に感謝しかない。

遠回りしてでもまた会えますように…。



セットリスト

【リハーサル】
クロール
Inside out
正常
天才
センチメンタル
負け犬




01.クロール
02.前頭葉
03.Heaven
04.もういいって
05.翌日
06.生活
07.真空
08.Breezing
09.エビセン
10.明日を落としても
11.赤いカラス
12.I Hate Music
13.In My Hurts Again
14.変拍子
15.光なき窓

En.1-1 Sonic Disorder
En.1-2 神のカルマ
En.1-3 落堕
En.1-4 coup d'tat~空をなくす

En.2-1 Reborn

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