なぜなぜ解析 FTAとMECE
皆さんは、上司や先輩に、何か問題が起こった時の対処、原因究明として、なぜを5回繰り返せ、というような指導を受けたことはないでしょうか?
いわゆる、なぜなぜ、です。
大抵は5回も繰り返せば真の原因に辿り着くと言われているものの、普通は3回くらいやれば、その下はあまり思いつかないし、なぜなぜを繰り返したところで、最初に思いついたようなことが出てくるだけで、なぜと掘り起こしても新しいアイデアなんて、全く浮かばない。という経験は誰にでもあるものです。
さて、このなぜなぜ。
技術屋さんならば、得意でなければならないし、当たり前のようにできるはずなのですが・・・意外とそうでもないんですね。しかし、コツさえ掴めば誰でもできるようになります。
まずは、当たり前のようだけど、ほとんどの人が気づいていない事実。
それは、なぜなぜには2段階ある。ということです。
1段目は問題の特定
2段目は要因の解析
これを理解せずして、なぜなぜはうまくできません。
この2つはよく似ているので、えっ?同じじゃん?ってなりそうなのですが、意識するのとしないのでは、全然違うのです。
例えば、今日遅刻をしてしまったとします。遅刻をしたのはなぜでしょうか?
いつもは15分くらい余裕をもって会社(学校)へ行くのに
寝坊して出発が遅れた -15分
定期を忘れて取りに戻った -5分
電車が遅れた -30分
このように、簡単に個々の要因の影響の大きさがわかってしまう段階。これは問題の特定という段階です。
では、なぜ寝坊したのでしょうか?2回目のなぜですね。
目覚ましを毛忘れた
昨夜寝たのが遅かった
明け方に起きて二度寝した
うーん、これは要因の大きさはよくわかりませんね。
しかし、特定しないことには問題解決にはつながりません。それに。
もしかしたら、思いつく以外の要因があるのかもしれませんよね。それはいつもとの変化点ではなくて、常に寝坊するリスクを孕んだ生活をしていたとしたら、今日の寝坊はたまたま今日起きただけで、いつ起きても不思議ではなかったわけです。
この段階のなぜが、要因の解析です。
通常、2回目または3回目のなぜくらいから、問題の特定が終わって、要因の解析フェーズに移ってきます。
要因解析に進む前に、この2つの違いをもう少し深掘りしたいと思います。
事例では会社(学校)への到着が遅れた、という状況に対して、どんな要因があるかを考えました。この時、いくつかの要因を挙げて、それぞれについてどのくらい遅れへの影響があったのかを書き出しました。
それぞれの要因の影響の大きさは、ちょっと思い出せばわかることです。なぜならば、実際に経験して既に終わった出来事だからですね。なぜなぜと言いながら、実は問題に対して直接影響を及ぼした同じく過去の事象を集めているということです。
これは、なぜなぜというよりも「現状把握」です。
そう、つまり、なぜなぜは現状把握から始まるのです。
起こった事象と直接関係のある過去の終わった事実を調査したり、測定したりすることを、現状把握と言います。
なぜなぜというと、いきなり「なぜだろう」と頭を抱えて考え始める人がいますが、どんなに賢い人でもそれではなぜが先に進みません。何か解決したいことが起きたら、これが起こった時の様子や前後の出来事、関わった人などについて調べてみよう。これがスタートです。
では、前回の事例について、現状把握をした結果どうなるのかをもう少し進めてみましょう。
前回の整理では、最も大きな影響があったのは、列車が遅れた=30分 でした。そこで、もっとよく調べてみると、寝坊したことによって自分は朝家を出るのが15分遅れてしまい、そのために列車の遅れに巻き込まれたということが分かりました、実は、いつも自分が乗るはずだった列車に乗っていた同僚のAさんは、なんと列車の遅れに巻き込まれることなく、早く到着していたのです。
朝の通勤通学列車は、時間が遅くなるほど少しずつ遅れていき、始発からの本数が多くなるほど、事故などが発生する可能性も高まります。今回は、たまたま列車の遅れに巻き込まれた形になりましたが、根本的な原因は寝坊したことであって、家を出るのが遅くなったことも、列車が遅れたことも、そもそも寝坊しなければ起きなかったことだと言えます。
このように、現状把握を進めると、解くべき問題が何か、という所に急速に近づくことができるのです。もし、なぜなぜを考える場面に出会ったら、徹底的な現状把握によって、問題を特定するように努めましょう。
現状把握ができてきたので要因解析に入っていきます。
最初に出てきた遅れの直接要因は
「寝坊した」 でした
ここでは、なぜ寝坊したのかというのを題材に、なぜなぜと掘り下げていくことを勉強していきます。
寝坊した → なぜ? →起きれなかった
うーん、そうなんですけど寝坊したのと起きれなかったのは同じですよね?これでは言い換えているだけで、なぜに答えたことにはなりません。
寝坊した →なぜ? →目覚まし時計が鳴らなかった
確かにそれっぽいですね。しかし、目覚まし時計がなったら起きれるのでしょうか?また、目覚まし時計がなくても目が覚めることもありますよね?他にありますか?
寝坊した →なぜ? →疲れていた
あー、確かに疲れていたら起きるのは億劫ですね。しかし、遅刻するかもしれない時間になっているのに、疲れていて億劫だから起きないってありますか?もしそうなら、自分の意思で寝坊することを選択したので、理由は簡単ですね。
このままだと、思いつくものが色々出てきて、全部の可能性を出すのにすごい時間がかかりそうです。
どうすればいいのでしょうか?
このように、沢山の要因がありそうで、しかも特定できない場合、なぜなぜはFTA(Fault Tree Analysis)という手法になっていきます。この手法では、可能性となる「ほぼ」全ての要因を洗い出すことができます。その上で要因の中で重要そうなものから対策をしていくことが、FTAを作る目的です。
このFTAにはあまり知られていない大事なルールがいくつかあります。
FTAのルール
出てくる表現は全て大きい/小さい、強い/弱いなど比較できる表現にする
つまり、寝坊をした → 起きるのが遅かった
のようになり、次のツリーは、なぜ遅かったのか? となります。
それでは、FTAのツリーの作り方について解説をしていきます。
FTAの大事なルールのとして、大きい/小さいなど比較できる言葉で書く、ということを言いました。これって、ネットなどでFTAに関する記事などを探しても、ほとんどどこにも書いていないんですよね。それだけ、みなさんは基本を知らずに使っているということだと思います。
寝坊をした=起きるのが遅かった
のように、早い遅いという表現で比較できる言葉にしました。そうすると、次のツリーは、なぜ遅かったのか。となります。
起きるのが遅かった理由はたった2つです。
目が覚めるのが遅かった
(目は覚めていたが)布団から出るのが遅かった
この2つ以外の理由は、どこを探してもないです。このように、過不足なく重複なく全てを網羅した状態を MECEと言います。FTAのツリーでは、常にこの MECEが成立するように、考えながら作ることが大事なのです。
そのための、比較表現です。
起きるという行動は、覚醒→起き上がる という2手順なので、この2つで全てと言えるわけです。このように、行動や現象を分解してそれぞれに「遅かった」という表現をつければ良い、ということですね。
この、行動や現象を分解する。というのが、慣れない人にはとても難しいようなので、FTAを作れるようになりたい人は、行動や現象を分解する練習をすると良いと思います。
では目が覚めるのが遅かった、はどのように分けることができるでしょうか?目が覚めるのに手順はないので、別の切り口ですね。
自分で目覚めた時刻が遅かった
外からの外力で起こされたのが遅かった
のように、自発的な力と、外からの力のように分けるのも1つの方法で、他にもあると思います。このように分けると、前者は睡眠サイクルや体の疲労など、結構思いつくことがたくさん出てくると思いますし、後者も目覚まし時計だけではなく、明るさ、気温、家族の影響、周囲の生活音など、色々なことが浮かびます。
1段目の「遅刻した」からでは、思いつかないことも出てきますよね。このように、なぜなぜをバラしていくと、いろんな可能性に気づくことができるのです。
皆さんも、身近ななぜを色々とバラしてみてください。
簡単なMECEの作り方をお伝えしましたが、これは
Mutually Exclusive and Collectively Exhaustiveの頭文字をとったものです。なぜなぜの基本とか、いろんな教科書、HP、ブログに書かれているので、聞いたことがある方も多いと思います。
しかしこの MECE、作ることができる人は本当に少ないんです。
慣れてしまえば簡単なので、このブログを読んでくださっている方は、自分でもたくさん練習して、できるようになったらぜひ周囲の方にも教えてあげてください。
ところで、MECEを作るには、現象や行動を分解すること、と上に書きました。これをもう少し練習してみたいと思います。
例1
車に乗っていて到着が遅れそう。寄り道もしていないし、出発も予定通りだったのに。なぜ?
遅れる→時間がかかる(長い)
小学校か中学校の時に習った公式を思い出すと、
時間=速さ×道のり でした。
つまり
・(車の平均の)速さが遅かった
・道のりが長かった
の2つしか理由がない。と言えます。
例2
模様替えをするのに、タンスを動かそうとしていますが、なかなか動きません。その理由は?
たんすの中にものが入った状態で持ち上げるというわけではないのだとしたら、引きずるような形になるわけですよね。でしたら、動きにくい理由は摩擦が大きいからですね。中学の理科の時間に習う法則は、
摩擦力=摩擦係数×垂直抗力
でした。
つまり、
・タンスと地面の摩擦係数が大きい
・タンスが地面を押さえつける時の垂直抗力が大きい(重たい)
この2つが MECEとなる要因です。
このように、 MECEを作る簡単な方法は、既知の法則を当てはめることです。これ以外にも、昔と今と未来、内側と外側、のように、いつ、どこといったものも使うことができます。
ずるい、と言われそうですが、
テレビが壊れて映らない、など大きい/小さいでは言い表せない、つまり問題の特定ができていない場合にも
・既に壊れていた
・使っている間に(今)壊れた
のように言い表せば、 MECEになるわけです。
このように、 MECEを考慮しながらなぜなぜを2−3回くらい繰り返せば、かなり理由を細かく分けることができているはずです。
ではこの次に、 MECEができなくなったら・・
という状況について、お話をしたいと思います。
さて、前回はMECEを作るために、既知の法則や、過去と未来などを使う方法を説明しました。大切なことは、なぜなぜにはちゃんとやり方があって、思いつきでは良いものができにくいということです。
とは言え、物事には個別の事情というのが必ずあります。
当事者しか知り得ない個別の事情による原因は、当事者本人が気づくか思い出すかによってのみ抽出されうるのです。
FTAが完成に近づいてくると、この個別の事情を織り込む場面が登場します。現状把握による問題点の絞り込みの後、いろいろな法則を使って要因バラシが出来てきたら、最終的には思いついたことを書き出していく手順になりますが、この思いつきの因子を並べるのは最後まで我慢することがとても大事なのです。
それでは実際に手順を進めてみましょう。
寝坊した=起きるのが遅かった
→目覚めるのが遅かった
→外から目覚めさせる力が働くのが遅かった
→①明るくなるのが遅い(または暗い)
②周囲が静か
③いい匂い嫌な匂いがして来ない(弱い)
④物理的な力がかかっていない(弱い)
3段目は外力として五感のうち味覚を除く4つを使いました。これも既知の法則を使ったMECEです。
①の、明るくなるのが遅いの要因は、外が暗いと部屋が暗いに分ける所までは出来ますがその先は法則を使うことが出来ません。
夜明けや天候は一般的なので既知の法則が使えそうなのですが、外からの光源は太陽だけでなく周辺の施設の影響などもありますし、こればかりはこの部屋に暮らしている本人以外にはわかりません。
しかしながら、向かいの家がいつも明るいのに今日は暗い、とか、いつも朝日を反射するビルの窓に今日は覆いがかかっていた、とか、ベランダに大きな荷物を置いていたら朝日が入らなくなった、とかそういう要因は、単に遅刻した寝坊したのような出来事から漏れなく思い出すことは難しいです。このように「外からの光」に絞ることで、他にないかと考えた時にいろんな要因を思いつくことができるのです。
今回の事例では5回のなぜなぜの最後の1段になって、ようやく個別の事情を書くに至りました。最後に、要因抽出する際の色々な注意点について話をしたいと思います。
あれもこれも言いたくなっていたけど、これまで我慢してきたあなた!ようやく出番が回ってきました。という所でしょうか。
かれこれ、なぜなぜも5巡目なので、「なぜなぜを5回やりなさい」なんて言われてきた人にとっては、そろそろ到達点だったりするわけです。
実際のところ、きちんとロジックを飛躍させずにこのFTAを完成させると、普通の工業製品の不具合などでしたら、10巡くらいは必要で、出てくる個別要因も100を超えます。それ以下ならバラシが足りないと言ってもいいでしょう。
今回の事例は、寝坊したというごくごく日常的な場面ですので、まぁ5回もやれば再発防止には十分という感じは致します。
さて、話を戻しますと・・・
・外力として明るさが足りなかったのはなぜか
→ 天気が悪かった
向かいのビルが工事中で朝日が反射しなかった
カーテンが閉まっていた
ベランダの荷物が光を遮っていた
室内灯をいつもつけてくれる家族がいなかった
自動で点灯するはずの室内灯のタイマーが切れていた
・・・などの理由が考えられますね。
・外力として音が足りなかったのはなぜか
→家族が全員休みだったので寝ていた
隣人や上階の住人が今日は休みだったので寝ていた
家族がたまたま休みだったので起きている人がいなかった
目覚まし時計が壊れていた
目覚まし時計をセットし忘れていた
いつもはじまる外の工事が始まらなかった、ほかいろいろ。
・外力として匂いが感じられなかったのはなぜか
→いつもコーヒーを飲む家族(隣人)が今日は紅茶だった
いつもは朝ごはんにパンを焼いているが今日はご飯だった
そもそも匂いに気づいて起きることなどない
・・・こんな感じで、たくさんのあり得そうな要因が思いつきますね。
実際のところ、このなぜなぜを始める前、なぜ会社(または学校)に遅れたのか、なぜ寝坊したのか、という問いかけだけでは、このように沢山の要因を思いつくことはなかったと思います。
なぜなぜを使って要因をバラすことの本来の意味は、ここにあります。もちろん、ロジックでバラした中に見落としがある場合も稀にありますが、何かまずいことが起きたとき、作っているものが不具合になったとき、それをいつも経験している人、それを作ってきた人であれば、なんとなく原因になるようなことは思いつくものなんです。
しかし、論理的にバラされていない状態で、思いつくことを端から言っても、たくさんの要因がある場合は、全て上げることはできないし、後から後から、あれはそうかも、これもそうかも、という感じで際限なく思いついたりします。そんなことをしているうちに、何が真の原因なのかがわからなくなってしまうのです。
このなぜなぜは、状況から問題を特定して、論理の飛躍を防ぎ、MECEによって要因になりそうなことをしっかり分類し、その上で本来頭の中にちゃんと眠っている真の原因または有用な対策を引きずり出すことが目的なのですね。
この最終段階で、気をつけるべきことは、
「他にないか?」
です。
ここまで細かく分類されていれば、頭の中にあるものはちゃんと書き出せるはずなので、納得のいくまで「他にないか?」と自問し続けましょう。
きっと、しっくりと腑に落ちる答えが見つかるはずです。
これがなぜなぜ解析の基本です
いかがでしたか?
細かい点をいうと、まだまだお伝えできていないことはたくさんあるのですが、まずは基本の考え方をしっかりと日常使いで繰り返すことで、身につけていくことが重要です。
エンジニアの人はもちろん、そうでない人も是非是非お試しください。
どうもありがとうございました。