ミニエッセイ『七夕のふたり』(837字)
もう何年も前のこと。
私は七夕の頃、
精神科病院で入院生活を
送っていた。
ひたすら絵を描く
日々を送って、
みんなに知られることに
なっていた。
ある夜、
食堂室で絵を描いて
いると、
一人の女性患者さんが
私の対面に座って、
私を見つめるのだった。
彼女も、入院が長いらしく、
みんなに知られる存在だった。
一見すると、おっとりしていて、
昼間や夜中に独りで
のそのそと病棟内を
徘徊しているのだった。
良く言えば、慎ましい。
でも何を考えているかは、
全く無口なので分からない。
優し気な印象だけを
私は持っていた。
彼女は、Tシャツを着ていた。
胸に水森亜土の
かわいい女の子のイラストが
描かれている。
何でも描くことが、
絵の勉強になると
考えていた私は、
「亜土ちゃんの絵、好き?
描いてあげる。」
初めて話し掛けた。
彼女はしずかにうなずいた。
私は一所懸命に色鉛筆を
駆使して、
胸に描かれた女の子の
イラストを
ほとんど違わぬよう、
描き上げた。
自分でも満足のゆく
出来だった。
幸い、私の描く絵は
人さまに好かれて
貰ってくれていたので、
その女性にも
はなから差し上げる
つもりだった。
「はい、できあがり。
上げます。」
と彼女に言うと、
穏やかな笑みを受かべて、
そんな表情も
めったに見せない人
なのであるが、
ゆっくりと首を横に
振ったのだった。
私は、少し残念で
あったけれども、
彼女の気持ちが
何となく分かる気が
したのだった。
みんなは受け取って
くれたけど、
彼女だけは受け取らなかった。
会話はしていないので、
彼女の真意のほどは
分からない。
でも、何となく、
私の描く絵を
大事に思ってくれての
ことだと、
信じられるような、
彼女の態度だった。
ときどき、
さめざめと泣いているのを
見かけるときもあった。
彼女も入院生活は
辛そうだった。
彼女はしゃべらないので、
その時の本当の気持ちは
推し量るのは難しい。
でも、二人の間で、
その時間だけ、
穏やかで幸せな時間を
過ごせたことと
信じている。
きっと、私が
一所懸命に描いて
差し上げたいという
気持ちに喜んで
くれたと、
信じている。
’(おわりです)
☆
こんにちは。^^
つる と申します。
noter xu さんと、
rira さんの企画、
『夏の香りに思いを馳せて』に
応募したいと思います。☆
企画募集要項などについては、
以下に。
☆
七夕のテーマにしては、
関連性の薄いものに
なりますけれども、
私にとっての、
七夕の頃の印象深い
想い出となりますと、
本文のお話になります
次第で、恐縮です。^^
つる かく🍵