「紅葉から」本文781字 ~シロクマ文芸部~
「紅葉から
秋雨がしたたり落ちるとき
それはオーナメントとして
より輝く瞬間でした」
電話口から
その詩を読み聞かせてくれる
藤子の声は
くぐもった秋空のように
そしてその紅葉の古びて
色を落とした朱色として
喜作の脳内で
ぼんやりと映像化された
喜作はたくさんの紅葉を想った
そして自分の名前を想い
ふふと微笑んで受話器を
自然と揺らすのでした
詩の朗読を聞くのは初めてでした
それも愛しい藤子の声で
「ありがとう」
「いいえどういたしまして」
夜更けの病院から
携帯電話を掛けてきて
ベッドのシーツのさぞ
冷たかろうことを
喜作は想像しました
藤子の『紅葉』は
いつの年に見たものだろうか
頬を染める君
若かりし頃
藤子と喜作は出会いました
そのときはまだ
二人の詩は紡がれて
おりませんでした
ただ紅葉の頃に
始まった恋は
言うなれば
朱いままで
年を
秋を迎える度に
静かに色を落としてゆきました
風が感極まる秋も
はらはらと落ちてゆく葉も
二人の間を
経験してゆきました
お互い背が低くなったね
喜作は心の内に囁きました
喜作の手が湿り気を帯びて
受話器がしっとりしています
「寒くは無いかい」
「ええ 詩を詠んだから」
そういえば
葉っぱには性別など無いなあ
喜作は楽しいことを思い付くのが
好きです
愛しさの深まるほどに
秋の感傷も
平熱に落ち着いてそこに佇みます
一枚一枚と積み重なる紅葉
その並木道を二人は歩いています
「いつまでも渇かない心で
いたいものだね」
喜作は藤子に告げました
「この季節が私たちに
教えてくれるわ きっと
紅葉が色を落とすことで
かえって鮮やかな色を
思い出させてくれるわ」
受話器の向こうの藤子は
詩の朗読とは違ったトーンで
喜作に伝えようとします
お互いを語れる季節
喜作の声は改めて上気しました
「あたたかくして
またそっちへ行くよ」
先に逝くであろう藤子を
喜作は
いったいどんな風に
見るのだろうことを
今年の秋に問うてみたかったのでした
(781字)
☆彡
あとがき
こんばんは。つる です。
シロクマ文芸部に
応募したいと思います。
今回のお題は
「紅葉から」から始める
詩歌、エッセイ、小説などの
ようです。
今回の私は
フィクション小説に挑戦して
みました。
想像を巡らせて
二人の関係を描いてみました。
いまだ拙い文章で恐縮
ですけれども、
お読みくださるご縁
ございましたなら幸いです。
円熟した文章に憧れます。
それではまたです。
みなさまのご無事を。
つる かく 2024年 秋
ヘッダー画像を
おかのくら さまより
お借りしています
すてきな写真
ありがたく使わせていただきます🍂