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四重の月 第八章 (1430字)
正二は、
明美と友達でいたかった。
明るくて、フレンドリー、
姿も魅力的な彼女だったし、
少なからず異性としての
魅力を感じてはいたものの、
頭の中では、
付き合うと、
すぐに終わってしまうだろう。
友達でいた方が、
ずっと長くお付き合いできるだろう。
ことを考えていた。
しかし。
二年生になって年末も、
徐々に近づいて来た頃、
彼女から電話があった。
初めてのことだった。
「私たち、お付き合いしない?」
正二は、なぜか
一瞬「ずるい」と思ったのだ
けれど、
正直付き合うのもまんざらでも
無いと思い、OKしたのだった。
それから、
彼女の家に通うこととなった。
彼女は、甲斐甲斐しく
愛してくれた。
しかし正二は、
その愛を受け取る一方だった。
およそ、七歳差の
年下との恋愛。
元々、気の合う二人だった。
付き合うのは時間の
問題だった。
しかし、
実際に付き合うことになった
彼女の正二への印象は、
こんな人だとは思わなかった
だった。
正二は、平たく言うと、
いまだに子供だった。
付き合うということは、
自分をさらけ出すということが、
まず正二の中の彼女に対する
誠実だった。
問題を抱えていた自分を
そのまま明美に丸投げ
したようなものだった。
要するに愛に飢えていた。
貪るように、
彼女の愛する行為に
甘えた。
彼女は疲弊していった。
そして、専門学校を卒業する時が来た。
彼女には、正二の本性は
ばれていたし、
仲間たちにもおおよそ
知られることとなり、
そのことに気づいた正二は
その後、仲間たちと
どう付き合ってゆけば
いいのか分からず、
動揺を隠し切れなかった。
みなで卒業を迎えた夜、
最後に飲み屋で、
お別れ会をした。
正二は、みんなが
笑顔で名残り惜しそうに
最後の時間を楽しんでいるのを
ただ、恐縮しながら、耐えていた。
明美を愛せない正二。
正二は、ほんとにこれが
最後のお別れ会だと
思っていた。
小学生の時も、
中学、高校、
大学生の時も、
別れは、今生の別れとして
考えていた。
心残りを持ちたくなかった。
ただ、自分の中の子供を
守りつづけるためだけの
二十数年を生き長らえたの
だった。
卒業後、交際は続いたが、
明美こそ耐えきれず、
他の男と寝た、
と正二に告げた。
正二は、激しく嫉妬する
心が湧いたが、
しばらくして、
別れる他無いと、
はやばやと諦めた心となった。
自分がどれだけひどいことを
していたか、
自分から別れを告げるのは、
心が引き裂かれる思いだった。
明美は、別れを切り出されると、
すぐに抱きついてきた。
二人とも、何か重たい荷物を
下ろしたような気分に
なっていたかもしれなかった。
明美の自然な笑顔を見たのは、
久しぶりだった。
たくさんお別れのキスをした。
後日、今一度会いたいと、
彼女から電話があった。
正二は、
気付けば明美と街の交差点で、
信号待ちをしていた。
明美「正(しょう)、ねえ
これから一体どうするつもりなの?」
正二「え、今から喫茶店に行くんじゃ
ないの?」
正二はとぼけて言った。
明美は、呆れてものも言わなかった。
喫茶店で少し話したあと、
また街へ出て、こう言った。
「まだ、私の事好き?」
正二は、ともかく自分の気持ちが
見透かされてることに
我慢ならなかった。
周りの目も気にせず、
大声で怒鳴った。
何を言ったか、覚えていない。
ただ、あらん限りの怒りの顔で
彼女に怒声を浴びせた。
明美は縮こまってしまった。
そしてそのまま別れた。
それからというもの、
正二は、錯乱の心を
抱えることになった。
なぜ、こんな苦しい
思いをしなければ
ならないのだろう。
正二は、家に帰っても、
明美のことが
頭の中をぐるぐる
回っていた。
(第八章 おわり)
☆
(あとがき)
お読み下さります方へ
感謝です。
お世話になっております、
つる です。
連載小説『四重の月』、
第八章を書き終えました。
いよいよ、
自分の中の『子供』と
向き合わざるを得なくなった
正二の専門学校時代の
話でした。
ここからが、
著者としましても
正念場です。
どう完結に結び付けてゆけば
よいのか、
今はまだ分からないのが
正直なところです。
また、しばらくです。☆
みなさまのご無事と
ご自愛のほど、
祈り申し上げます次第です。
m(_ _)m🍂
つる かく
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