『ジングルベル』~小さなエピソード~
「ピンポーン ♪」
はあい、
と笑子(しょうこ)は、
台所での仕事の手を止めて、
玄関へと向かった。
「宅配便ですー。」
と、
ドアの外から、
耳慣れた声が聞こえた。
少し怪訝な顔をしつつ、
何だろうとドアを開けてみると、
「はい、メリークリスマス ♪」
そこに立っていたのは、
赤いサンタの帽子を被った
彼氏だった。
両手で差し出されたのは、
クリスマスプレゼントらしき
大きな長方形の箱だった。
「うわあ、勘太(かんた)、
ありがとう。」
「サンタからのプレゼントです。」
「嬉しいけど、何だろう?」
「とりあえず、中に入れて下さい。」
「あ、ごめんごめん。」
勘太とのクリスマス・イヴを
過ごすのは初めて。
付き合い始めて、十か月になる。
色々あったけど、
今は落ち着いた関係だ。
笑子は、勘太を家の中へ
招き入れて、
リビングへと通した。
ロー・テーブルがあって、
勘太はプレゼントを置いた。
少し重い物のようだ。
リボンで十字にくるまれている、
白い包装が少し眩しい。
「開けてもいい?」
「もちろん。」
大きな箱、何だろう?
笑子は、
戸惑いつつもワクワクしている。
リボンをほどいて、丁寧に
包装紙を取り払った。
中身の箱も白く、
覆い被さった蓋をゆっくり
上へ持ち上げてみると、
そこには
ハンドベルのセットが入っていた。
笑子「ハンドベル?」
勘太「ちょっと一緒に演奏して、
遊べたらいいなと思って。」
「ええ!?できるかなあ。
私、音楽苦手だよー。」
「ベルを振るだけだよ。
ドレミでもいいじゃん。」
「ドレミかあ。きれいだね。」
笑子は、一つ一つ
色の違うベルを眺めながら、
その内の一つを手に取った。
試しに軽く一振りしてみる。
「リーン ♪」
笑子「わあ、きれいな音だね。」
今夜は、
ホワイト・クリスマス・イヴだった。
リビングの窓の外は、
およそ積ってゆきそうな
雪がしずかに降り続いている。
笑子「なんか、ほんとに
クリスマス気分(笑)。」
勘太「鳴らす順番を書いたメモも、
持って来たよ。」
勘太の差し出してきたメモには、
どのハンドベルを鳴らすかの
順番が書かれていた。
タイトルには、
『ジングルベル』とある。
笑子「できるかなあ?」
勘太「ゆっくりやれば、できるよ。」
難しそうに思った笑子だったが、
やってみたくなっていた。
勘太「サビの所だけ、書いてある。
ジングルベール ♪ ジングルベール ♪」
笑子「あ!すーずーがー鳴るー、
のとこね ♪」
勘太「うん。」
笑子「ああーーー!!」
勘太「ええ!?なに?!」
笑子「シチューー!」
笑子は、シチューを作るための
材料を切っていたことを、
思い出したのだった。
勘太「何だぁ。びっくりしたじゃん。」
笑子「すっかり、忘れてたよー。」
勘太「夕飯食べてから、これで遊ぼう。」
笑子「うん。」
ジングルベル 鈴が鳴る
笑子は、『ジングルベル』の
サビの部分だけを、
心の中で歌いながら、
台所へと戻って、
料理のつづきを始めたのだった。
(終わり、1163字)
☆
こんにちは。☆
毎度お世話になっております。
つるです。
今回の記事は、
noter ふみさんの
立ち上げなさった企画、
『ジングルベルの募集企画』に
応募する note です。
ふみ さんの書いた詩に、
創作物を付ける、といった
趣向です。
私は、
小説(ショートショート)を
書くことにしました。
ちょっと幸せな二人を
描いてみたかったのでした。☆
みなさまのご無事と健康を
お祈り申し上げます。
少し早いクリスマス・イヴの
お話でした。^^
つる かく