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解任動議
序盤からつりったーを圧倒する謎の女性アングラー(釣り人のこと)、ほんまぐり。
開いた口が塞がらない我々を尻目に、魚に啄まれて痩せ細ったアサリをすいすいと付け替え、あっという間に仕掛けを再度投入。その間、わずか1分足らず。
隣のい駒さんに目をやると、鮮やかで美しくすらあるその手際に、山籠り後のネテロ会長の正拳突きを見た館長のごとく感動していました。
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が、その腕前が
「JBさん、なんか釣れてましたわ」
常に釣果をもたらすともかぎらないのが、
「気付いたらまた釣れてましたわ」
釣りの面白いところです。
3時間後の釣果(カワハギ)
い駒: 0
JB: 0
ほんまぐり: 0
宮田: 2
宮田:2!?
カワハギ初挑戦andレンタル装備の宮田がまさかのグループ中1位。
ほんまぐりさんが「どういう釣り方をされました?」と聞いても、
「いやあ、よくわからないんですけど何か釣れてましたわ」と、本人も不思議そうでした。
とにかくこの日、この船で一番カワハギを釣ったのは宮田の2枚。他の釣り客は0-1枚で彼に及ばずでした。
「初めてでもなんとかなるもんですね」と嬉しそうな宮田。
これが本当のビギナーズラックかーー。
この時のほんまぐりさんの表情は記憶がありませんが、そのお顔をちらりと見たときに脳裏をよぎった感想には鮮明な記憶があります。
『…この人、めちゃくちゃ負けず嫌いだな』
が、ここで終わる彼女ではありませんでした。
カワハギ釣りを始めてから3時間、「渋いですねえ、ちょっと早いですけどこのままアジ釣りに変えますから。ちょっと移動するから待っててくださいね」と、船長のアナウンス。
そう、今日の船は単なるカワハギ便ではなく、カワハギ・アジのリレー便だったのです。
(釣行の前半/後半で釣り物が変わる便のこと)
果たして、宮田の豪運もそこまで。
結局アジも激渋だったこの日、ほんまぐりさんはきっちり船中最多枚数のアジとイシモチを釣り上げ、つりったー3名をきっちりわからせたのでした。
…
「お疲れ様でした〜、渋かったですね。また誘ってくださいね!」
「ほんまぐりさん、急なお誘いにも関わらず本日はありがとうございました。またよろしくお願いします」
船着場に戻り、一息ついた一同。
「お見それしました…」と、JB・い駒。
「いやあ凄いですね。我々とは次元が違いました」と、宮田。
「いやいや、私は船釣りばっかりやってたので。それより…」
一呼吸おいて、
「…実は、前からTwitterを通じてつりったーの皆さんが楽しそうに釣りしてるのを見てて、いいなーって思ってたんです。だから今日来れて良かったです。それでは!」
ニッコリ笑い、重そうなクーラーをぶん回しながら颯爽と去っていくほんまぐりさん。
「いやあ、凄い人でしたね」後ろ姿を見送りながら、い駒さん。
「ほんとにね…」と、同じ方向を見ながら言葉を失うJB。
「つりったーに誘わないんですか?」と宮田。
「どうだろう。ご本人の意向も聞いてみないと。あとは他の部員がどうかってのもあるし…」
このとき、確かに私は逡巡していました。
個人的には、圧倒的経験値と技術に加え、あっけらかんとしてチャーミングな人柄の御大をつりったーに巻き込みたい気持ちはありました。
他方、元々は自然発生的なこの集まりに「つりったー」という名前を付けてから誰かを勧誘するのはこれが初めてのこと。軽々にそんなことをして良いものかという気持ちもあったのです。
「そしたら、つりったーとほんまぐりさんで飲みましょうよ。その時の雰囲気が良さげなら途中で切り出せばいいじゃないですか」
確かに名案です。
「なるほどね。門前仲町の雰囲気良かったし。二度目の新年会的な」
「やりましょう」とい駒さん。
「おっけー、調整するわ」
…と、いい感じに場がまとまりかけたところで、宮田がとんでもないことを言い出しました。
「いやでもJBさん、ほんまぐりさんが加入したらJB部長は解任かもしれませんよ」
「えっ!?創設者なのに!?」
別に特段権限がある訳ではないですが、いざ解任と言われると途端にその立場が惜しくなるものです。
「まあ確かに。パワーバランスが崩れますね。まあいいじゃないですか、創設者の名誉は残るんだから」と、乗っかるい駒。
「…こ、顧問で!ほんまぐりさんは顧問に就任いただきます!」
「顧問って…会社のじゃなく、部活の?」
「そう、部員の釣りスキルを指導監督する立場という方が収まりがいいじゃん」
「なるほど、顧問ですか。いいですね」と、い駒さん。
「じゃあ次回は顧問を打診するということで」と、あっさりした宮田。
そんなわけで、無事解任動議を棄却することができたのでした。
おまけ
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