釣り人へのカツサンド弁当
チェンマイはミャンマー、ラオスとの国境の山岳地帯囲まれた地域のため、しぜんと街にもいろいろなの山岳民族の方々が降りてきて生活をしている。私たちの友達にも山岳民族の方がいる。釣り仲間だ。
シンプルな食生活
私の知っている限りの出会ってきた山岳民族の方々の食生活は皆至ってシンプルだ。
料理の仕方もシンプルであれば、その味付けもシンプルだ。
例えば、チェンマイ郊外に住んでいる、とある山岳民族の友人家族の家の中にはいわゆる土間があり、地面に薪を組んで火を起こすスタイルのキッチン&ダイニングスペースを現役で使っている。家に電気は通っているが、ガスや電気コンロは一切使用しない。生きた鶏や魚を捌くときは、庭の端っこにある外の水道近くで行う。
彼等のシンプルな味付けとは、主に塩と唐辛子、ハーブ、ライム、魚醤を使う。砂糖はほぼ使わない。そんな彼らの家から数百メートル歩いたところには、商店やカフェもある。食堂やコンビニエンスストア、スーパーマッケットもあり、彼等もそういうところを普段から利用する。ただ自宅で料理をする場合のみ、昔ながらのやり方でシンプルなのだ。
そんな彼らの好みの味は、激辛&塩味。とにかく味の濃いものが好き。
過去に何度か私の作ったものをお裾分けしてみたが、山岳民族の方々はとても素直で正直で、私の作った料理やお菓子のほとんどは”味”がしない、と言う。
そりゃ、そうだろうな。
私は昔から素材の味を楽しむ薄味好みだ。私にとっては彼等の作る料理は味が感じられないくらい辛いのだ。おそらく彼等は日本食や西洋食など、辛味のない薄い味付けの料理には、感覚麻痺を起こすのではないかと思う。
ただ、これには彼等の生まれ育った環境による理由がある。
彼等は私より少し年上の方々(40〜50代)で、山から降りて街社会に挑戦してきた。いい仕事を得て、子どもたちにもちゃんと学校に行かせられる環境、とにかく今までよりも質のいい生活を求めてきた。その彼等が子供のころに生活していた山では、塩や砂糖はまだまだ珍しく、とても高価なものだったそうだ。甘いものはバナナや他の果物。そこで、料理の味つけは山にいくらでもなっている唐辛子だ。それが彼等の自然の素材の味を活かす調理方法だったのだ。
釣り人の弁当
何年か前、朝から釣りキャンプに行く予定だった夫と友人が、その友人の仕事の都合で午後3時過ぎから出発することになった。この友人というのが山岳民族の方なのだ。夫のよき友人であり、よき釣り仲間である。
そんな時間に出発するということは、釣り場に到着したらすぐに釣りを始める彼等は食事はできるだけ簡易にしたいだろうと思ったので、夫とその友人の分の弁当を作ったことがあった。一応、最低限の食事のためインスタントヌードルとコンビニパンを持って行っているので、魚が釣れなかったとしてもひもじい思いはしないだろうとはわかっていたが、二人が釣りに集中できるよう私が弁当を作りたいと提案したのだ。
鶏そぼろと卵焼き、おまけのソーセージときゅうりのスライスの入った弁当。ご飯の間には、醤油をさっとつけた海苔を挟んだ。
釣りキャンプから戻ってきた夫から聞いたのは、
その友人は私の作った弁当を一口食べて「味がない。美味しくないからいらない。」と言い、弁当を食べずに自分はインスタントヌードルを作って食べたらしい。残った一人分の弁当は、夫が次の日の朝に食べたのだ。
夫の友人は決して無礼ではない。いつ会っても優しく、他の誰よりもジェントルマンだ。
ただ、正直なだけだ。
だから私も「だろうね」と素直に思った。彼にとって私の味は感じられない=味がしないのだ。
ということで、それ以降は釣りキャンプ弁当を作るときは夫用のみということにした。
ところが、再びその友人とのある日の午後出発の釣りキャンプの日のこと。
手のひらサイズの薄いチキンカツとレタス、そこにスイートチリソースをかけて食パンで挟んだお手軽チキンカツサンドを夫一人分のお弁当として夫に持たせた。
翌日の夜、釣りキャンプから戻った夫が何よりも先に私に話したことがこのチキンカツサンドのことだ。
「信じられる? 昨日の夕食時にさ、僕が食べようとしたチキンカツサンドにあいつがすごく興味を示してね、一切れあげたんだよ。そうしたら、
なんだこの美味しさは!こんなおいしいものは今まで食べたことがない!
と超絶賛してね、だから持って行ったチキンカツサンド半分彼にあげたよ。驚きだよね。」
と言うのだ。あまりに驚きすぎて、「え!?今なんて言った?」と2度聞き直してしまった。
普通の食パンに、薄いチキンカツ、スイートチリソース、レタスを挟んだだけのサンドイッチを、あの彼が大絶賛して食べたって?どういうこと?
決して味が濃いわけでも、辛いわけでもないのに不思議だ。
でも、あんなに私の料理を美味しく感じられなかった人が大絶賛してくれるのは、やはり嬉しいものだ。少し笑もついてくる、くすぐったいような嬉しさだ。
大人の男性の釣り人がふたり、手のひらサイズの薄いチキンカツを挟んで二つに切った小さな2切れずつだけのサンドイッチをおいしいと言いながら食べ、釣りをしている姿が可愛いらしく感じてしまった。その日はそれでお腹いっぱいになったそうだ。
とりわけ、その友人にとっては私の薄いチキンカツもボリュームたっぷりだったそう。釣り人たちよありがとう。あの薄いカツサンドでこんなに感動してもらってしまって恐縮だ。
これからも喜んで薄いチキンカツサンドを作ろう。
薄いチキンカツサンド
その日以降、我が家の薄いチキンサンドは少しずつ変化しつつ”釣り人たちの弁当”として定番となった。ラップに包んであるので、そのまま手で掴んで食べられるという手軽さも釣りキャンプ時にはいいようだ。
”薄い”チキンカツというのは最初は偶然だったのだが、どうやらその薄さも釣り時、キャンプ時には食べやすさに通じていていいようだ。
日本初のカツサンドと言えば、井泉のカツサンド。ちょっと気になってウェブサイトを覗いてみたら、誕生秘話が書かれていた。
井泉のカツは決して薄くはないけれど、忙しい方たちが手元口元を汚さず、食べやすい形というのに釣り人との共通点があるのかもしれない。
そんな薄いチキンカツと食パン、一緒に挟む野菜とソースを色々と試してみて、チキンカツサンドとしておいしい組み合わせがあるということがわかった。
薄いチキンカツサンドのおいしい組み合わせ
重要:食パンも厚切りではなく、薄いものがいい。できればチキンカツと同じくらいの厚さが理想的。パン(2枚)とチキンカツと野菜の対比が2:1:1がおいしい。
薄いチキンカツ+レタス+スイートチリソース
薄いチキンカツ+キャベツの千切り+食パンの片面にサンドイッチスプレッド、もう片面にお好み焼きソース+和からしちょこっと
薄いチキンカツ+甘味噌+玉ねぎの薄切り+ルッコラ+黒胡椒
これだ。
薄いチキンカツサンドを入れる容器は、最初はキャンプの荷物を増やさないようにラップに包んだものを袋に入れていた。その場合はリュックサックの荷物の一番上にして、できるだけ潰れないようにしたのだが、結局はつぶれてしまう。でも、たまごサンドやツナサンドよりはチキンカツは固形なのでマシかもしれないので許容範囲だ。そして揚げたチキンなので中身が悪くなることを他の素材に比べ、あまり心配しなくてもいい。その点でもカツサンドは釣り人に都合のいい食べ物だと思う。
本当だったら、その場で釣った魚を調理して、熱々のご飯と一緒に食べられたら一番いいのだろうが、大概そんなにうまくはいかない。全く釣れないこともあれば、釣れれば釣れただけ釣り自体に集中してしまい、食べることを忘れてしまうらしい。
そんな彼等に薄いチキンカツサンドは、小腹がすいたときに手軽に口に放り込めるおいしいものなのだ。ちょっとおいしいものがあれば、魚が釣れなくても、話に花が咲きいい時間を過ごすことができていいんじゃないかと私は思っている。
薄いカツサンドを入れる容器として便利なモノ:
軽くてコンパクトな2号メスティンに入れていけばキャンプ時にお米を炊いたり、他の調理をしたり、器として使えるので便利である。サンドイッチが潰れる心配もない。
<Amazonのアソシエイトとして、[釣妻食堂]は適格販売により収入を得ています。>
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