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小さな巨人、珍客を釣る
小さな巨人”レック”の忘れられない初釣り。
前回のレックのお話はこちら。
私の夫から釣りというものを知ることになったレック。しばらくは夫や夫の釣り友の釣り道具を借りて一緒に釣り体験をしていたが、とうとう自分自身の釣竿とリールが欲しくなった。夫と共に釣具屋に行き、釣具店の店主とも相談して買った真っ赤なかっこいい釣竿。なかなかいいモノだった。そしてSHIMANOの初心者にもいいリールを手にした。この二つを購入するのに彼の1ヶ月の給料の半分ほどを使った。レックはまず初心者でもちゃんと長く使える”良い”ものが欲しかったのだ。
自身の釣竿とリールでの初釣りの前夜、ワクワクしすぎて全く眠れなかったレック。もう待ちきれない彼は、朝イチで、予定の時間より随分早くに我が家に現れ夫と夫の釣り友と一緒に湖に行った。
湖で3人は並んで座り、餌づりをする。
レックはまだ餌を自分では作れなかったので夫の作った餌を使った。
夫と夫の釣り友は何匹も釣れるのだが、朝から夕方までレックの餌には1匹も魚が寄り付かなかった。3人はほぼ同じ場所、いい釣り竿といいリールを使い、夫も使っている同じ餌を使ってもレックだけ全く釣れない。釣れないどころか、まず餌に魚が食いつかないのだ。(レックは香水や整髪料、ハンドクリームなども一切使わない)これはもう運としか言えないのだろうか。
釣れない時間もそれはそれで楽しいのだけれど、やはり今日は初めて自身の釣竿とリールで1匹くらいは釣りたかったなぁ…とちょっと残念そうに話すレック。
そんな話をしながら諦め半分、ちょっと離れた場所で目を離した矢先のこと、ものすごい勢いでレックのリールが「シーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」と音を立てる!
レックは慌てて走り、釣竿を持ち上げ、リールに手をかける。物凄い引きだ!釣竿ごと持っていかれそうな勢いだ。
これは大モノかと興奮する3人だが、すぐにレックはパニックに陥る。
レックの釣竿にかかったのは魚ではなく、空中を飛ぶアヒルだった!!
先ほどまでのんびりと湖の淵を泳いでいたアヒル。さて飛び立とうとしたときに、たまたまレックの釣竿から伸びていた釣り糸が、アヒルの片方の羽の脇下に挟まってしまったのだ。そのまま飛んでいこうとしていたアヒルだが、レックがリールを巻いたことで、アヒルは物凄い力で、物凄い鳴き声をあげてギャーギャー、バッサバッサと空中でパニックになっている。
そんなことってある!?
レックは地上で、かかったアヒルに対して、もうどうしたらいいかわからずパニック状態。アヒルは湖の中央方向に飛んでいこうとしていたので、このままではせっかく買った釣竿とリールを持っていかれてしまう。かといって、アヒルを”釣る”という技術も知識も持ち合わせていない。
この場にいて、冷静に対処する場合には一体どんな方法があるのだろう。
例えば、もう一人誰かが釣り糸を切って、アヒルを飛ばせてあげればいいのかもしれないが、アヒルの羽には長い釣り糸とその先には針がついている。
それがもし湖の中央で根がかりをしてしまったら、アヒルはそこから動けなくなってしまうかもしれない。湖の中央ではなかったとしても、地上でも針がどこかに引っかかる可能性は大ありだ。もしくは足に絡みついてしまって歩けなくなるなど…考えただけでも 恐ろしい! とにかく、アヒルに近づいて釣り糸を外してやらなければならない。
とはいっても、水面の上空ではアヒルは大騒ぎ。地上ではレックがパニックに陥りながらも奮闘。夫も夫の釣り友も、相手が水中の魚ではないので一瞬戸惑ってしまったと言う。
この双方のもう何をどうしたらいいかわからないパニックアクションが功を奏して、アヒルの羽の脇下に挟まり絡まってしまった釣り糸が自然と解け落ちた。
アヒルはピエーーーーーーっと飛んでいった。
3人は一瞬”ポカーン”としてしまったが、すぐに笑いが止まらなくなった。
レックはその日、魚は1匹も釣れなかったけれど、大満足で帰った。
初釣りで、飛んでいるアヒルがかかったのだ。そしてアヒルとファイトして、アヒルもレックの釣竿とリールも皆無事だ。
アヒルにとってはもちろん災難だけれど、本当に無事でいてくれてよかった。
ちょっと恥ずかしいからみんなには秘密にしておいてと頼んだみたいだけど、こんなに面白いエピソードは翌日すぐに周りに広まった。秘密にしておくなんてもったいない!今でも釣り仲間の間で語り継がれている。レック自身も笑いのネタにしている。
そして私も今でも思い出し笑いをしてしまうエピソードだ。