公益通報者保護法に関する問答(2)
御注意! この投稿は、法的観点から述べた単なる私見です。投稿内容を論理的かつ批判的に検討した上、御自身の意見形成等に御活用頂ければ幸いです。
問
公益通報者保護法11条4項に基づく指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号)は、内部公益通報のほか、外部公益通報についても「事業者がとるべき措置」を定めているか。
答
【結論】
指針は、外部公益通報についても「事業者がとるべき措置」を定めている。
【理由】
指針は、「第2 用語の説明」において、『「公益通報」とは、法第2条第1項に定める「公益通報」をいい、処分等の権限を有する行政機関やその他外部への通報が公益通報となる場合を含む。』としている。
これは、法2条1項の定義自体から同項の「公益通報」に外部公益通報が含まれることが明らかであるにもかかわらず、公益通報には外部公益通報となる場合も含まれる旨念押ししたものであり、これによって、指針が外部公益通報をも規律するものであることを明確にしたものといえる。
また、指針は、続いて『「公益通報者」とは、法第2条第2項に定める「公益通報者」をいい、公益通報をした者をいう。』としているので、指針に、単に「公益通報者」と記載されている場合には、内部公益通報者と外部公益通報者の双方を含むことになる。
そのような定義を前提として、指針は、第3並びに第4の1及び3においては、「内部公益通報」の語を用いて外部公益通報者を含まないことを明示しているが、第4の2においては、「公益通報者」の語を用いている。そうすると、指針は、第4の2においては、事業者に対し、内部公益通報者と外部公益通報者の双方について、「(1) 不利益な取扱いの防止に関する措置」と「(2) 範囲外共有等の防止に関する措置」をとるべき旨定めていることになる。
したがって、現行の指針によれば、事業者は、外部公益通報者についても「通報者の探索を行うことを防ぐための措置」(第4の2(2)ロ)をとるべきことになる。
付言1
内部公益通報の場合には、事業者自身が当該通報を受けているので、通報があったことは明白であるが、外部公益通報については、その性質上、事業者の外部に対してされるので、事業者において、外部公益通報があったことやその内容を容易に把握できないなど、両者の間にその性質から来る大きな差異があり、この点は、指針の適用上留意が必要である。
特に、指針(第4の2(2)ロ)が、通報者の探索について、「事業者の労働者及び役員等が、公益通報者を特定した上でなければ必要性の高い調査ができないなどのやむを得ない場合を除いて、通報者の探索を行うことを防ぐための措置をとらなければならない。」と定めていることに留意すべきである。事業者が状況を十分把握することができず、外部公益通報者(外部公益通報の要件を備えているかどうかが不明なこともある。)の探索をしなければ適切な対応ができない状況に陥ることもまれではないからである。
具体的状況次第であるが、外部公益通報については、外部に対してされるという特質から、上記の「やむを得ない場合」に当たることが多いと思われる。
付言2
指針第4の表題は、「内部公益通報対応体制の整備その他の必要な措置(法第11条第2項関係)」となっているので、第4の全体が内部公益通報に関する定めであるかのようにも読めるが、消費者庁の法11条2項に関する解釈(問(1)参照)を前提とすると、消費者庁は、ここでいう「内部公益通報対応体制の整備」は、それに続く「必要な措置」の一例に過ぎず、「必要な措置」の中には、「外部公益通報に関する措置」も含まれると説明することになると思われる(指針のうち外部公益通報を規律対象とする部分の効力については、問答(3)を参照)。
注書
(注1)
上記のとおり、指針第4の表題には、外部公益通報が含まれることが明示されていないので、法11条2項は、外部公益通報を対象としていないとの法解釈を前提としてこの表題を見ると、指針第4は、内部公益通報のみを規律しており、外部公益通報は対象としていないと誤解するおそれがある。
(注2)
消費者庁作成の「指針の解説」は、その第4の2(1)の「不利益な取扱いの防止に関する措置」の③において、「外部公益通報者についても、内部公益通報者と同様に不利益な取扱いが防止される必要があるほか、範囲外共有や通報者の探索も防止される必要がある」としているが、「防止されなければならない」とはしていないので、その記載からは義務的なものかどうかはっきりしない。しかも、通報者の探索について解説している第4の2(2)は、内部公益通報を念頭に置いた説明に終わっており、外部公益通報にも適用される旨の注意書やそのことを窺わせる記載はない。
(注3)
上記の2点は、消費者庁が、指針の策定段階になって、法改正当初の解釈を変更し、法11条2項の「必要な措置」に外部公益通報に関する措置を忍び込ませたことから来るものと評することができる。
(注4)
地方公共団体に対しては、「公益通報者保護法を踏まえた地方公共団体の通報対応に関するガイドライン(内部の職員等からの通報)」が定められており、これは、地方自治法245条の4第1項の規定に基づく「技術的な助言」であるとされている。
そして、ここでも指針と同様に外部公益通報が対象となっていることを明示せずに「公益通報」の語が通報者の探索防止措置等について使用されている。
そのことから、消費者庁の指針、ガイドラインにおける態度は一貫しているとは言えるが、記載の曖昧さも一貫していると言える。
(注5)
消費者庁の Q&A では、「通報者の探索とはどのような行為を指しますか。通報内容から推測すれば公益通報者を特定できてしまう場合に、公益通報者が誰であるか推測する行為は通報者の探索に該当しますか。」との問に「通報者の探索とは、内部公益通報をした者を特定しようとする行為を指します。公益通報者が誰であるか特定することを目的として推測や情報を収集する行為等は、通報者の探索に該当し得ます。」と答えており、外部公益通報者については触れていない。これは、事業者が外部公益通報者を探索するという事態はほとんど考えられないことから、Q&A には記載しなかったと見ることもできるが、外部公益通報者の探索を防止すべきとする基本姿勢が一貫していないと評することもできる。
(注6)
上述のとおり、消費者庁は、指針の策定やその解説の作成に際して、指針が外部公益通報をも適用対象としていることを明確に示して注意喚起する等の措置をとっていない。また、法11条2項が外部公益通報をも対象としていることについて、法解釈上の根拠を文字・文章で示して公にしたものはない(問答(1)参照)。
これらの点からして、消費者庁は、立法時には法11条2項の対象とならないとされていた外部公益通報を、指針策定の段階で、法全体の構成や法11条2項の文言を無視した解釈により指針案に忍び込ませ、現行指針を策定したと評さざるを得ない(問答(1)参照)。
次回は、「現行指針のうち、外部公益通報に関する部分の効力はどうなるか?」について、投稿する予定です。