YouTubeデータで「世界各国のヒットチャート流動性」を視覚化してみる...日本は平均より上
YouTubeは日本で最もメジャーな音楽メディア
今年の2月9日に、Spotifyの一年分のチャートデータを元に、世界各国のヒットチャート流動性を分析しました。
その結果に関する考察は、同じデータセットから行った世界各国のヒットチャート類似度の分析をしたnoteでも言及させていただきました。
Spotifyデータからみるかぎり、日本のヒットチャートの流動性は72ヶ国中、下から3番目に低かったのですが、それはあくまで「日本のSpotifyユーザーのリスニング行動が示す傾向」です。
日本レコード協会さんの定点調査によれば、日本の音楽聴取方法のトップはYouTubeで、2022年での増加が顕著です。 こうしたデータからは、Spotifyデータだけから一般的な音楽聴取行動の実態をつかむことは少なくとも日本では簡単でない可能性が考えられます。
そこで今回は、日本で音楽聴取方法として最もポピュラーなYouTubeのTop 100 Songsの一年分のデータから、世界各国のヒットチャートの流動性と、日本のポジションを分析してみたいと思います。
Spotifyに比べてYouTubeの流動性は高い
まずSpotify、YouTubeの全週分のチャートに登場する「合計楽曲数」を比較してみましょう。
登場楽曲数が多ければ多いほど「一年間に様々な曲が入れ代わり立ち代わりチャートインしている」ということになり、流動性が高いといえます。次のグラフの縦に引いた平均線に注目してください。
毎週「上位200曲」を発表しているSpotifyチャートの年間総登場楽曲数の世界平均は「902曲」です。
一方YouTubeは「上位100曲」なのに、登場楽曲数は「812曲」あります。
枠が半分しかないのに、登場楽曲数がそれほど変わらないのです。
このことから、世界的にYouTubeチャート自体が高い流動性をもっていることが示唆されます。
また音楽やアーティストのいわゆるコアなファンも多いと考えられるSpotifyリスナーに対して、YouTubeはより一般的で広範な層に聴かれており、多様な曲がTop 100の中をせわしなく行き交っている様が想起されます。
日本のYouTubeチャート流動性は平均を上回る
ではそんな高い流動性をもつYouTubeという音楽メディアにおいて、日本のポジションはどこにあるのでしょうか。
次のグラフはSpotify、YouTubeの両方のデータの日本にハイライトしてみたものです。
ご覧のように、Spotifyデータにおいては日本のチャートに登場する合計楽曲数は72ヶ国中69位と、下から三番目であるのに対して、YouTubeデータでは61ヶ国中27位。
世界平均の811.8曲を上回る827曲となり、決して低くない流動性を示しています。
前掲の日本レコード協会さんの定点調査など、日本で最もポピュラーな音楽聴取手段であるYouTubeのデータのこのような結果を勘案すると、日本のヒットチャートの流動性が低いとは必ずしも言えないないことがみえてきます。
日本のYouTubeチャート流動性は高まっている
さらに詳しくみてみましょう。次のグラフは日本のYouTubeソングスチャートで「1位を獲ったことのある曲」の推移を時系列で視覚化してみたものです。最近になればなるほど、折れ線グラフの軌跡がしだれ柳のように下に伸びていくのがおわかりでしょうか。
最古のデータ取得が可能な2018年には「1位曲が50位以降まで下降していく」という動きはみられませんでした。
それが次第に上下幅が大きくなっていき「一位を取った楽曲た短期間のうちに100位近くまで下落していく」という様子がみてとれます。
そのような意味での日本のYouTubeチャートの流動性は、近年になるに従い高まっているようです。
データ初期の2018年付近のチャートに着目してみると、例えばあいみょん さん 「マリーゴールド」 は、チャート上位にランクインし続け、一年かけてむしろ順位が上昇しています。(なおYouTubeには52週チャートインすると強制的に対象外となるルールがあるようで(例外あり)、この曲もそのような推移のようです。上位を推移していた折れ線グラフた突然消えているのはそのためと思われます。)
一方最近のチャートでは、例えばNiziUさん「ASOBO」は初登場から一週間で1位になり、その後4ヶ月ほどで100位圏外となった思われます。 近年、1位曲の短期間でのこのような順位の大きな変動が、次第に増えていることがみてとれます。
Spotifyだけではみえにくい日本の実態
またこれもかつてみられなかった、50位以降から短期間で1位に上昇したパターンには、例えば YOASOBIさん「夜に駆ける」 ピノキオピーさん「神っぽいな (feat.初音ミク)」 がありますね。すごいダイナミズムです...
この、ピノキオピーさん「神っぽいな 」は2022年1月27日に1位を獲得しています。またJOYSOUNDさんが公開している年齢層別の年間カラオケランキングで、10代、20代で1位となっています。
この楽曲のSpotifyでのデイリーチャートランキング推移も視覚化したので、みてみましょう。
ご覧の通り、2022年2月5日の「116位」が最高順位となっており、YouTubeソングスチャートの「1位」、JOYSOUNDカラオケチャート10代と20代での「1位」と大きく乖離していることがわかります。このことから、日本の音楽文化の特徴であるボーカロイド曲を中心とした若年層のリスニング行動が、Spotifyだけでは把握しにくくなっていることがうかがえます。
この背景には音楽聴取方法としての普及率だけでなく、ユーザー層や動機、ニーズの違いなどがあるように思えます
またジャニーズ事務所所属の人気アーティストの中にも、Spotifyでは配信せずYouTubeで配信しているケースが存在します。
Spotifyの流動性分析を行ったのと同じ時期に、TikTokチャートとの比較分析も行ってみたのですが、やはりSpotifyに比べてTikTokが高い流動性をもっている様子がうかがえました。
ここまでみてきたデータから次のようなことが言えそうです。
YouTubeのヒットチャート登場楽曲数はSpotfifyに比べて非常に多く、流動性が高いヒットチャートとリスニング行動が存在している
日本のYouTubeソングスチャートの流動性は決して低くない
日本のYouTubeソングスチャートの流動性は年々高まっている
日本のYouTubeソングスチャートに流動性を与える一要因と思われる、若年層に人気のボカロ楽曲などのリスニング行動は、Spotifyだけでは把握することが難しい
(なおSpotifyの日本でのアクティブユーザー数は非公開ですが、オープンデータからわかるTop 200の合計再生回数は上昇傾向にあることを付記しておきます。)
このような結果に対して、ブログ『Billion Hits!』管理人のあささんがTwitterで次のようなコメントをくださいました。
実に興味深いです…!
3000字近くなってしまったので、日本以外の世界各国の流動性についてご興味ある方は、下記のTwitterの連続ツイートをご覧くださいませ。Spotifyデータと同じくドイツを始めとした欧州各国の流動性の高さが非常に興味深いです。
さて音楽にかぎらず、私たちの情報接触や接触メディア、利用サービスなどは多様になっています。
したがって、国や市場ごとのメディア環境の特性や、コンテンツの多様性、推薦アルゴリズム、そして視聴態度の文化的な特性に対応して、分析者も多角的に人々の行動を捉えていく必要が増しているように思えます。
今回も、単一のデータソースから生まれた自分の思い込みを、一旦ポジティブに疑ってみることが大事だとひしひしと感じました。
大変な時代ですが、データを通じて思わぬ発見に驚くことができるかもしれない、面白い時代でもあると感じます。引き続き、オープンデータとプログラミングでできるところまでやってみたいと思います。
以上、徒然研究室でした。Twitterでもオープンデータとプログラミングで関心あることを分析してツイートしております。どうぞご贔屓に。