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J-POPの"日本以外での聴かれ方"を可視化してみる

Billboard Japanさんが最近集計/発表し始めた、Global Japan Songs excl. Japan(日本以外の世界J-POPチャート/当研究室訳)というチャートがあります。

ここに登場するアーティストは、いったいどの国でどれくらい聴かれていることによってチャートインしているのでしょうか?

それを推しはかるため、YouTubeのデータを使って、各アーティストの楽曲視聴回数の日本を除いた上位99ヶ国を対象に、直近60日間の国別視聴回数を集計し、横並びで可視化してみました。その結果がこちらです。

Billboardさんのチャートは楽曲単位、このYouTubeデータはアーティスト単位という違いはありますが、まずYOASOBIさんの視聴回数の絶対量に驚かされます。2位の米津玄師さんの2倍以上の視聴回数を獲得しています。

またYOASOBIさんをはじめとして、全体的に韓国で多く聴かれているアーティストが多いですが、アーティスト視点、国視点でみていくと、少しずつ事情が異なることがわかってきます。

この可視化は足し算と比較という手法しか使っていないのですが、Xでポストしたところ1日で16万インプレッションと多くの方にみていただたようで、皆さんの関心の強さにも驚かされました。

そこで上位の国名以外は省略される形となっていたグラフを改良し、省略せずに100位までの国名をすべて表示されるようにD3.jsでコードを書いて可視化してみました(100位近くなるとさすがに読み取れなくなりますが)。

まずアーティスト単位で着目したいのは、YOASOBIさん、米津玄師さんについで三番目に世界で多く聴かれているimaseさんです。

imaseさんは、2000年生まれ。2020年の20歳のときに初めてギターを買って21年5月にTikTokに歌唱動画を投稿するとまたたくまに人気を獲得し、21年12月にユニバーサルミュージックグループからメジャーデビューしました。

つまりこのデータの集計時点でデビューから3年も経っていません。にもかかわらず、少なくともYouTubeデータ上では現在日本を除く世界で、3番目に多く聴かれているJ-POPアーティストということになるわけです。

これはデビューしてからの期間や楽曲数を考えるとまったく驚くべきことといえます。

そのimaseさんを多く聴いている国は、まず韓国、そしてほぼ同じ水準でメキシコとなっています。メキシコにハイライトしてみると、そのようなアーティストは他にいないということがわかります。

2位の米津玄師さんと3位のimaseさんの視聴回数の地理的分布を可視化してみました。 imaseさんは韓国で大ブレイクというイメージがありますが、中南米でもよく聴かれていることがわかります。

このような状況はご本人はもちろんマネジメント、レーベルの方々も予想していなかったのではないでしょうか。

次にXGさんに着目してみましょう。XGさんは日本出身の7人の女性によって構成されるヒップホップ/R&Bガールズグループです(XGさんにはK-POP、X-POPという側面もあると思いますが、本記事では便宜上J-POP分析の中で取り上げています)。メジャーデビューは2022年3月とimaseさんよりさらに遅く、本データ集計時点で1年7ヶ月しか経過していません。

にもかかわらず、アーティスト単位でみるとYOASOBIさん、米津玄師さん、imaseさんに続いて四番目に日本を除く世界で多く聴かれるようになっています。

そしてXGさんを日本以外で多く聴いている国は、アメリカとなっています。そのアメリカはAdoさんの視聴回数でも1位となっています。

またアメリカは他のすべてのアーティストで上位に顔を出しています。視聴人口の多さと、多様な音楽を嗜好するリスナーの層の厚さを感じさせます。

次に東アジアという視点でデータをみてみましょう。台湾と香港にハイライトしてみました。

YOASOBIさんの視聴回数における台湾や、特に香港の存在感は、人口規模を考えると特筆すべきものかもしれません。YouTubeは中国でサービス提供されていないため比較対象にできませんが、YOASOBIさんや米津玄師さんは、中国を含む中華圏で一定の人気を獲得していると推測できます。

当研究室でYOASOBIさん「アイドル」リリース直後の今年4月20日に、同曲のShazam国別ランキングを分析した際にも、中国では34位にランクインしていました。

14億人という中国の人口規模を考えると、1位でなくとも一定のビジネス面でのインパクトがあると考えられます。

さて、人口規模の大きな国ということで、世界最多となったとされるインドに着目してみましょう。

インドはアメリカと異なりすべてのアーティストの上位に顔を出しているわけではありませんが、藤井風さんでは二番目に多く聴く国となっています。

昨年11月の当研究室noteでも、藤井風さんがJ-POPアーティストとして初めてSpotifyのデイリーチャートTop 200にチャートインしたことを分析しました。

藤井風さんの国別視聴回数をみてみると、1位が「死ぬのがいいわ」グローバルヒットの発端となったタイ、2位がインドとなっており、他のアーティストとはやや異なる構成となっています。

もう少し俯瞰してみてみると、タイやインドが特徴の藤井風さんに加え、中南米で多く聴かれるimaseさん、アメリカやブラジルで多く聴かれるXGさんなど、韓国と台湾ではない国に上位国の特徴があるアーティストは、日本アニメーション作品とのコラボレーションを行なっていないアーティストでもあります。

楽曲単位ではなくアーティスト単位のデータなので一概にはいえませんが、日本アニメーションのオープニングやエンディング曲というチャネルを経由せずに海外で人気となるアーティストには、上位国の構成にも興味深い特徴が表れているように思えます。

特にimaseさんと藤井風さんは、メジャーデビュー間もないシンガー・ソングライターでありながら、TikTokなどのユーザー投稿動画を起点としつつ、またくまに国境を超え、その広がり方は特定の地域に限定されず様々な状態となっています。

「日本文化が好きな国は○○」「J-POPが入って行きやすい国は○○」といった過去の通説からは導き出せない現象が起きているように感じます。

その分、経験のある音楽業界の方でもプロモーション効果の予測とコントロールが難しくなっているのかもしれませんが、世界の見え方がひっくり返っていく瞬間が目の当たりにできる時代でもあります。

当研究室でも微力ながらプログラミングとデータ可視化を通じて、その世界の一端を描き出せればと思います。

以上、徒然研究室(仮称)でした。Xでもオープンデータとプログラミングで関心あることを分析してポストしています。どうぞご贔屓に。

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