実力主義ってどんな実力?
“苦労は買ってでもしろ”という格言に深く共鳴していた私は、都会で何不自由なく生活できている自分に大きな疑問を持ち、高校生の時に敢えて茨の道を進もうと決めた。
大学は無名ながら専門分野を学べるアメリカのど田舎にある四年制大学に進学することを決め、コネを使って従兄弟たちは日本の一流企業に勤めるのを横目でみながら、私はコネを使わず”実力”でのしあがると決めた。
夢は
日本でスタートアップ企業に就職
↓
泥水飲みながら20代は下積み生活を送る
↓
30代手前で開花
↓
30代前半で仕事ができる優良物件と結婚あるいはパートナーシップを結ぶ
↓
キラキラバリキャリ女子として輝かしいキャリアを積む
というロードマップを敷き、まずはスタートアップ企業からキャリアを開始した。
しかし、だ。
夢をみること、その夢に向かって実行力を発揮することに長けている私は、上記のロードマップに乗っ取り行動し始めるのだが、その自分で敷いたレールが誤った場所に敷かれていることに気付かなかった。
実際その誤ったレールに乗ったことで、強烈な違和感を感じたり、しなくていい苦労をすることとなった。
例えばあるスタートアップ企業で働いた時のこと。
当時時代の先端をいくサービスを提供するIT企業で、僅か10名しかいない会社だった。
それだけ社員の少ない会社だと、アットホームで家族のようにみんな仲良し…という、ほっこりしたイメージが湧きやすいかと思う。
しかし、この会社は違った。
いや、ある意味アットホーム、、、だったかもしれない。表参道の外国人用アパートの一室で働いてたから、婚活目的の女子は(なぜか)豚汁を作り出したり、ベランダで家庭菜園したりしてたので。
でも実際はゴリゴリ働く優秀で野心家の既婚者たちが、働く際のモチベーションを高めるため&対外的に有利な交渉を得やすくするため、当時もてはやされまくってた読者モデルや売り出し中アイドルをバイトとして雇っているような会社だった。
アイドル枠の女子たちは、いかに会社の男性を上手く転がすかに終始徹していたし、そこで気に入られれば新規営業案件もバンバン任されていた。ただしその新規営業時、そのアイドル系女子はミニスカートに向日葵のカゴバッグ&厚底サンダルで営業に行っており、私からするとなんて非常識な仕事のやり方!と心の底から軽蔑してしまっていたのだが。そのぶりっこぶりが見事に営業先の営業マンの心に刺さり、しっかり案件を取ってくるという、なんともむず痒い思いをしたのだった。
またバレンタインの時期になると”絶好の営業チャンス”としてアイドル枠女子が喜ぶ高級チョコを買ってあげる代わりに、彼女たちに会いたいという鼻の下を伸ばした取引先にチョコレートを渡す、という営業イベントも行っていた。アイドル系女子も社長らの期待に応えるべく、髪をグリングリンに巻き、雑誌さながらの最先端ファッション(もちろんミニスカ)を見にまとい、缶の蓋を開けることができない長さのネイルに大きなストーンや鎖をつけたジェルネイルを施し、つけまつ毛はバッチリ&グロスをギラギラさせながら体をくねらせ、渾身の笑顔で”はい、どぉ〜ぞ❤︎”とオフィスに(チョコレートをもらいにきた)取引先の人にチョコレートを渡していた。
彼女たちの努力(?)のかいあってか、後日複数案件がまとまり、無事2月の営業目標が達成されるのだった。
アメリカ在学時、社会は実力主義のもと成り立っているということを叩き込まれて帰国していた私に取って、実力の定義が想定と大きく異なる環境に大きく戸惑った。自分が女子であることを存分に活かし(=愛想を振り撒きまくり、存分にぶりっこする)仕事をこなしていく彼女たちを目の当たりにし、大きなカルチャーショックを受けたのは言うまでもない。
ただパソコンに向かって難しい話をするだけが仕事じゃない。愛想振り撒き、ぶりっこという手段も使いながら仕事をこなすという手法も、間違いなく彼女らの実力の一つである。
彼女たちの逞しさを盗み、実践するという道もあっただろう。
しかし、枕詞に”バカ”がつくくらい真面目で、愛想を振り撒くのが苦手な馬鹿正直な私が一両日でマネすることは不可能だった。
私にとって、彼女たちの不可解な生態を横目で見ながら仕事を継続することに大きな苦痛を感じ、また”普通の会社で働きたい””自分と同じような価値観のある人たちと働きたい”という強い思いが日に日に強くなり、このスタートアップ企業を卒業することにした。
そもそも論、アイドル系女子が重宝されるような企業文化の会社に勤めるという判断は正しくなかったと、いつ過去を振り返っても思う。どう考えても自分の性格や価値観と合ってなかった。それは働いていた当時でも流石に分かっていたが、優秀な人が働いていて&将来有望なスタートアップで成り上がれたら、私の夢が叶う!と考え、水の合わない環境でも我慢して仕事を必死にこなし憧れのキラキラバリキャリ女子になろうとしていた。
…結果、バリキャリ女子にはなってたと思うけど、キラキラどころか、キラキラ部分は全てアイドル枠女子に奪われ、キラキラを怖い顔で睨みながら働く、ただの怖い負け犬女子になっただけだった。
ある意味この企業で勤めたことは私の財産になった。
以後外資系企業に勤務することとなったが、どちらかというと日系企業がある日買収されて外資企業になりました、みたいな会社に勤める機会が何度かあったので、この経験を活かし、愛想を振り撒くことを先決にバリバリ仕事をすることを目指した結果、まぁまぁ上手く社内で自分のポジションを上げることができたと思う。
(…ただし女性が多かったりお局様がいるような会社を除いては。お局様系会社については、また今度。)
役にはたったけど、ハッキリ言えば、あんな会社にわざわざ勤めなくても、普通の会社で十分知り得たことだと思う。しかし神様は、頑固な私を分からせるためにお灸を据えたとしか思えない経験だった。
何事も解釈次第だが、以降会社選びに慎重になったし、一緒に働く人たちの特性を見極めながら自分の振る舞い方を考えるようになったのは言うまでもない。