リチウム鉱業(途中)
要旨
資源市場価格高騰>それによる売上向上(リチウムで言えば市場価格が3倍になっても企業の販売価格は2割増程度)
リチウムとは
リチウムの採掘から製品加工の流れが下の図(参照)。紺色のBrineとOreが元となって、Lithium Carbonate/Hydroxide(LC/H)に製錬されるというイメージ。
採掘の方法は、塩湖(Brine)を濃縮させるか鉱床から採掘する(Ore)かの二通りがある。コストの観点からBrineでの採取が主流である。ただし、GangfengのSonoraプロジェクトやTeslaのGigaffactory1の近くにあるSpraemint Resourcesの手がけるClayton Valleyのプロジェクトなど粘土(Clay)から採取することもある。
LCはLFPなど現在のトレンドである安価なバッテリーに使われる一方で、LHは従来型のニッケルなど高価な材料を使うNCEなどの二次電池の正極に使われる。現在では、前述の通りLFPの需要がTeslaのみならず多くの企業で高まっているため、基本的にはLCの生産の方が多く、成長も大きい。
基本的にはLCE(Lithium Carbonate Equivalent)という単位で標準化されるため、下の表を参考にした。
また、8tのリチウム精鉱(Lithium Concentrate)から1tのLCEができる。(参照)
採掘の方法をもう少し比較すると、Brineの方がOreより高く売れ、マージンではBrineが2019時点で$5386/t LCEとOreの2倍程度にになっている(参照)。引用元ではコストの話をしているが、これはBrineやOre(Hard rock)のLCEあたりのコストというよりも生産能力を上げれば上げるほどコストがかかるということだと思う。つまり、いわゆる規模の経済性とは逆の現象が起きている。
市場概観
炭酸リチウム(LIBの粗原料)の価格高騰(単位は中国人民元/トン)
原因はEV需要増加による需給逼迫。EV需要に関しては継続するトレンドであり、リチウムの生産増加か代替品の登場が不可欠になる。
EV需要による需給逼迫とTeslaによるLFP(鉄を正極の主原料にするLIB)へのスイッチが原因として挙げられている(記事)。
Teslaがに材料費を抑えるために普通乗用車の全てのバッテリーをLFPにする(長距離用の自動車には高材料費のNCAを継続して使う)という発表がされた。発表は2021年10月下旬だがそれより前に二種のバッテリーについてアンケートを取るなどしていた。このニュースはLFP製造に必要な中国が持っていた特許の期限が切れるのに伴い(記事、現在のLFPの製造は9割がBYD、CATL、Great Powerと中国)、LFP製造に乗り出すということである。
後者に関しては説得力がない。LIBを使っている限りリチウムの消費はLFPにスイッチしても変わらないためである。リチウムの消費効率はあるかもしれないがここまでの値動きにはならないだろう。
実際リチウム以外のLIBの正極原料であるニッケル、コバルトも高騰している。リチウムは65%、ニッケルは7%、コバルトは57%がバッテリー(コバルトはEV用のバッテリーに限る)に利用されていることとLIBの用途の多くが自動車用になっていることからも自動車のLIB需要増加はこれらのLIB主原料高騰に寄与していると考えていいだろう。ニッケルは72%がステンレスの鉄に使われている。ステンレス市場も2020年代後半まで4%以上のCAGRで成長するという見方が多いため、ニッケルに関してはあまり関係ないかもしれない。
下は用途別のLIBだが実際の2021年までのEVの販売台数推移(後述)と比較すると記事が2019年のものであるために、EVの市場成長を甘く見積もっているように見える。おそらく実際はより多くのLIBがEVに利用されている。
(参照)
Bloombergによる調査ではバッテリー需要のほとんどEVの利用になるが、容量あたりの価格で(2010、2021、2024、2030年)=(1191、137、92、$58/キロワット)と下がっていく予想。ちなみにガソリン車と同じだけのコスパを求めるならば$40/KWまで下げる必要がある。
(参照、用途別バッテリー容量需要)
EVの売り上げ台数は2021年に急増しており、2020年の倍以上になっている。2021年は世界で675万台、Teslaで93万台。
(参照、世界での月別EV販売台数)
(参照、Teslaの四半期別販売台数、単位は千台)
デロイトは2020年に250万台だったEV販売台数が、2025年に1120万台、2030年に3110万台と成長すると予想。
(参照、2020年発行、世界の種類別自家用自動車販売台数予想、ICEはガソリン車のこと)
今後の予想としてS&P Global Market Intelligenceによれば(2020、2021、2022年)で世界リチウム供給量(単位はLCE thousands mt、Lithium Carbonate Equivalent thousands metric tons)で(408、497、636)であり需要との差(同単位で供給量-需要量)は(66、-0.8、-0.5)となっている。需給逼迫は緩和されるとの見方であるため、(さらに上昇余地があるかもしれないが)2022年末には現在よりも価格は下がっていると予想できる。ただし、依然として需給は逼迫している状況が続くことから2021年の水準より下がることはないだろう。
このバッテリー需要拡大とリチウム価格高騰をサプライヤーサイドから見るのを目的とする。
リチウム鉱業概観
鉱業についてはAlbemarle(ALB)、Ganfeng(1772)、Sociedad Quimica Mineral(SQM)について見てみた。下は2019年から現在までの3社とその他大手の株価推移。
結論としてリチウム鉱業の売上にはLithium Carbonateで示したような価格高騰は2021年末までの間には乗っていない。少なくとも売上が数倍になったというような企業はなく、値上がりによる売上向上は1割前後に収まるものである。
2019年の第一四半期を基準にその後の売上高を表したグラフ。AlbermarleとSQMに関してはLithiumのセグメントのみの売上高を考慮している。上のLithium Carbonateのグラフと比較すると市場価格の変動は大きく緩和されているように見える。
Albemarleの2021年4Q決算ではリチウムの価格についてYoY+18%という記載がある。Lithium Carbonateのグラフで見れば3倍以上になっているのでやはり市場価格を直接的に価格変動を受ける契約をしていないのだろう。
各社の2020年売上規模はUSD milを単位に(Ganfeng、Albemarle、SQM)で(868、1142、383)となっている。
リチウム鉱業を見るにあたり、生産能力と環境への配慮という二つの論点がある。
生産量動向
生産の段階でも、採掘とその加工という2段階があり多くの場合それらは隣接した地域にある。また、プロジェクトとして大規模になるのでジョイントベンチャーの形をとって複数の会社による権益の分配が行われるのが一般的。
すでに稼働している大型のリチウム鉱床(Brineの場合は塩湖など)とその加工を行うPlantの表。Capacityは基本的にはリソースのものであり単位はmetric tons LCE per annum。カッコ内の数値はPlantのものである。
リソースではAlbemarleが圧倒的だが、SQMも大きい。鉱業の権益や開発にはその土地の政府の許可が必要になる。SQMはこのSalar de Atacamaという場所でCorfo(チリ政府の開発などを担当する部署)が持っていた権益もリースという形で受けているため、大きくなっている。
Plantに関しては中国に作られることが多いようである。AlbemarleのGreenbushesでは精鉱をMeishanやXinyu(中国)の自社工場に送って加工するというやり方をとっている。(下はAlbemarleの設備。中国に加工施設が集中していることがわかる。)
現在進行中の大規模プロジェクトは下表。
印象としてアメリカ大陸に集中しているように思えた。
二次電池は輸送において発火の危険性が高いため地産地消が望ましい。米国では現在リチウム生産(加工)が中国で行われていることへの危機感が高まりThacker Passをはじめとするプロジェクトが動いている(参照)。
Ganfengは2025年までに200000tのリチウム生産能力を目指し、将来的には600000t以上まで増やすつもり。Albemarleは2021年に125000tのLCEの生産能力を持っているが、2022年までに175000t(+40%)、そこから中期的に倍以上の生産能力まで伸ばす予定。SQM は2021年で120000tのLC、21500のLH生産能力を持ち、2023年までに180000(+50%)、30000(+40%)まで増やす予定。Liventは2025年までに60000tまでLC生産能力(2019年の3倍)を増やす。
これは先程のAlbemarleのプレゼン資料にあったものだが、この需要にあった供給ができるかということが問題だと思う。
サプライヤーからすればCAGRのような幾何平均を使うよりも2025年までに今ある設備の8割くらいを毎年増やすという考え方をすべきだと思うが、これには現状の設備増強には追いついていないと思われる。
現状ではLithium Americasをはじめ、新興企業がプロジェクト開発を始めて設備増強に勤しんでいる。特に米国・カナダでのプロジェクト開発が目立つため、そこがどれだけ生産能力を量増しできるか。
なんか飽きてきたのでここまで。気が向いたらまた書く。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?