第2章 9.古い技術を調査して代替
知財に対する意識の高まりとともに、リスクを恐れ過ぎるあまり、対象となる「実施行為」(技術A)が古く単純な技術である場合であっても、侵害予防調査を行うことが求められるというケースが増えている。
単純な技術であればあるほど、母集団を絞り込むことが困難となり、調査コストも高くなってしまう。技術Aが自由実施技術である可能性が高い場合、対象となる「実施行為」と同一の技術Aを開示する20年以上前に公知となっている文献aを探すことで、侵害予防調査の代替とすることができる(公知技術、自由実施技術であることの証明)。
図2.17に示すように、技術Aを開示する20年以上前の文献aが見つかった場合、①権利化されていたとしても特許権A1は存続期間が満了しているし、②文献aの出願よりも後の技術Aに関する出願A2は、文献aが既に公知となっており、権利化することはできない。
図2.17 古い技術を調査して侵害予防調査を代替する
以下、仮想事例に基づいて検討を行う。インターネットショッピング(電子商取引)で、購入履歴に基づいて商品の推薦(提示)を行う技術を対象とする。
(1)予備検索と分類の検討
図2.18 予備検索と分類の検討
①予備検索を、要約・請求の範囲・名称=購入履歴×商品×提示として実行した結果、約180件がヒットした。
②データベースのランキング機能を利用して、分類の検討を行った。また、キーワードの検討も併せて行った。
図2.18に示すように、「インターネットショッピング(電子商取引)」、「購入履歴」、「商品の提示(推薦)」という3つの構成(観点)で絞り込む簡易的な検索式を作成し、生存分のみに限定すると、約280件がヒットした。
(2)構成要件毎に分類とテキストを検討
次に、構成毎に分類とテキスト(キーワード)を検討し、以下の図2.19に示すように、検索マトリクスを作成した。具体的には、予備検索から拡張した280件の母集団におけるランキング機能と近しい文献に付与されている分類を見ることで、類義語・同義語、Fタームを選定した。
図2.19 検索マトリクス
(3)検索式の作成
得られた情報を基に、検索式を作成した。各小集合は、「インターネットショッピング(電子商取引)」、「購入履歴」、「商品の提示(推薦)」という3つの観点を掛け合わせることで作成されている。ヒット件数は、生存中のものに限定して約900件であった(図2.20)。
図2.20 検索式の例
(4)イ号を探す例
仮想事例において、ヒアリングを行う中で、イ号が、「どの既購入商品と類似するのかという情報とともに商品を提示」するという、極めて一般的な技術であり、その他の構成(サービスの仕様)において特に特徴がない場合、上記のように数百件の集合のスクリーニングを行う代わりに、「イ号」を探すことで代替することも、コストパフォーマンスとの兼ね合いで十分想定される。
図2.21に示すように、20年よりも前に公開された文献に限定をして、検索式を入力してヒットした約90件の集合から、イ号と同じ内容を開示する文献が見つかった(なお、近傍検索で対象となる文献を狙って抽出することも可能である)。
つまり、「どの既購入商品と類似するのかという情報とともに商品を提示」というイ号は、公知技術、自由実施技術であることの証明がされたので、イ号に関する技術を単純に実施するだけであれば基本的には侵害のリスクがないことが示された。
図2.21 仮想事例におけるイ号を探す具体例
↓つづき
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