第2章 10.意匠権もチェック

 侵害予防調査は、特許や実用新案に限定されるものではなく、物品のデザインに特徴がある場合には、意匠権の調査も行う必要がある。

 意匠調査の基本プロセスも特許調査と同じであり、検索条件の設定、スクリーニング、結果の検討を行うことになる。具体的には、物品の特定と日本意匠分類の収集、分類の特定、閲覧・検討を行う(※1)。

 近年、「デザイン経営」宣言が公表され、ブランド戦略におけるデザインの重要性が再認識されており、製品等の技術的特徴に関する特許調査と並行して、物品の外観に関する意匠調査を行うことが好ましい。

 実施形状が決定してから、懸案となる意匠権が見つかった場合、致命的な事態を招きかねないため、実施形状が決定する前、デザインの候補を選抜する段階で調査を行うことが望まれる(これは、製品等に付す商標の調査においても同様である)。

 日本における意匠調査では、日本意匠分類やDターム、意匠に係る物品などの各要素から検索条件を設定する(※2、※3、※4)。

 日本意匠分類は、意匠審査における迅速・的確なサーチ、外部における先行意匠調査や意匠権調査を効率よく検索するために設けられており、物品の用途に主眼をおき、必要に応じて機能等の概念を用いて分類が構成されている。

 また、平成17年1月1日から施行した日本意匠分類には、日本意匠分類を形態等の特徴で更に細分化したDタームが用意されている。

 日本意匠分類は、「物品の用途及び機能」に着目して(製品分野ごとに)付与されるアルファベットと数字からなる分類コードであり、1つの意匠に対して1つの分類コードが付与される。更に「形態」に着目する必要がある場合にはDタームを使う。

 意匠の類否判断は、「物品の類否」「形態の類否」によって行われ、「物品」と「形態」の両方が同一又は類似であるときに意匠が同一又は類似であると判断される(※5)。

 つまり、母集合として、調査対象と同一又は類似の物品をカバーするように検索条件を設定する必要があり、分類を意匠の類否判断における物品類否の検討と同様に、物品の機能と用途に着目して行わなければならない。

 意匠調査の難しい点は、調査結果の検討であり、意匠の類否判断の基本的な考え方は、「意匠の類否を判断するに当たっては、意匠を全体として観察することを要するが、この場合、意匠に係る物品の性質、用途、使用態様、さらに公知意匠にはない新規な創作部分の存否等を参酌して、取引者・需要者の最も注意を惹きやすい部分を意匠の要部として把握し、登録意匠と相手方意匠が、意匠の要部において構成態様を共通にしているか否かを観察することが必要である」という判断基準が採用されている(※6)。

 調査担当者が主観的に似ているか否かを判断するのではなく、上記の判断基準・実務に習熟した上で、基本的構成態様と具体的構成態様に基づいて、調査対象と登録意匠の共通点、相違点を客観的に対比して検討をする必要がある(※7、※8、※9)。

 実際に登録されている意匠の類比や、意匠権侵害訴訟における意匠の類比判断の事例を確認するとわかるが、意匠の類否判断を適切に行うことは非常に難しく、経験や知識が必要となるので、最終的な判断は専門の弁理士による鑑定を行うことになる。

画像1

図2.22 J-PlatPatを用いた意匠検索画面の例

↓つづき

※1:藤本昇、「これでわかる意匠(デザイン)の戦略実務」、一般社団法人 発明推進協会(2019年5月)、第2章、第2節 侵害性調査手法、26~60頁

※2:恩田誠、森有希、「日本における意匠調査のプロセスと留意点」、知財管理、Vol.69、No.3、p.330-341(2019年3月)

※3:野崎篤志、「特許情報調査と検索テクニック入門 改訂版」、第8章コラム、一般社団法人 発明推進協会(2019年12月)

※4:INPIT令和元年度 検索エキスパート研修「意匠」、先行意匠調査実務の基本(2019年12月)

※5:INPIT令和元年度 検索エキスパート研修「意匠」、意匠の類否判断と先行意匠調査(2019年12月)

※6:平成9年(ネ)第404号、東京高裁平10年2月18日判決、自走式クレーン事件

※7:INPIT令和元年度 検索エキスパート研修「意匠」、(事例研究)意匠の類比判断(2019年12月)

※8:松井宏記、「意匠の類似~意匠法24条2項その後~」、関西特許情報センター振興会機関誌、No.22、p.11-28(2008年11月)

※9:中川裕幸、「意匠の類似-我が国における判断手法と判断主体」、日本知財学会誌、Vol.8、No.1、p.24-31(2011年10月)

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