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第2章 1.侵害予防調査とは、2.侵害のリスク

1.侵害予防調査とは

 侵害予防調査とは、「他社の知財を確認して、自社の製品やサービス等(以下、「製品等」と言う)が他社の知財を侵害していないかを確認する」ための調査であり、FTO(Freedom to operate)調査、侵害防止調査、クリアランス調査、抵触調査、侵害調査や権利調査とも呼ばれる。

 登録系公報(特許掲載公報)、出願中・審査中の公開系公報が対象となり、スクリーニング対象は、基本的には権利範囲(発明の技術的範囲)を定める特許請求の範囲となります。

 侵害予防調査では、技術の内容と、その流れを正確に理解した上で、対象製品等(「イ号」)が備える数多くの調査観点を的確に把握して、何を調査対象とし、何を調査対象としないかを決めることが前提となる。そして、優先度に基づいてコストに応じた適切な調査範囲を設定することで、膨大な件数の特許から漏れなく効率的にリスクとなる特許を抽出し、リスクを最小限にする行動をとる。

 侵害予防調査では、技術の内容と、その流れを正確に理解した上で、対象製品等(「イ号」)が備える数多くの調査観点を的確に把握して、何を調査対象とし、何を調査対象としないかを決めることが大切です。

2.侵害のリスク

 特許権を侵害した場合、差止請求(特許法100条1項)や損害賠償請求(民法709条)等の民事請求がなされるという法的なリスクが生じる。例えば、差止請求訴訟で認容判決が出た場合には、製品の販売停止や、サービスの提供中止等を履行しなければならない。また、損害賠償請求訴訟で認容判決が出た場合、金銭を支払わなければならず、事業に大きな影響を及ぼすことになる。

 ライセンス料については、日本国内の特許権ライセンス料率は業界によって異なるが、平均すると正味販売高に対して3.7%であると報告されている(※1)。

 特許法102条3項の損害額の認定または不当利得返還請求における不当利得額が判断された平成31年・令和元年の裁判例では、認定された実施料率は、1.5~7%であるという報告もある(※2)。
 また、時代の流れや各国の政策、市場を海外へと展開する企業が増え、米中の貿易戦争、M&Aの活発化、パテントトロール・特許不実施主体(NPE:Non-Practicing Entity)の存在(※3、※4)等、権利取得にとどまることなく権利活用が求められるプロパンテントの時代、特許権等の知的財産権に関するリスクが大きくなっている。
 さらに、コンプライアンスの問題も看過できるものではなく、製品・サービスの提供がストップしてしまうことは関連各所に与える影響が甚大なものとなる可能性が有り、訴訟が提起されることで株価が暴落したり、消費者や取引先からの信用が失墜(毀損)したりするというリスクもある。
 そして、近年では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を介した情報の爆発的な拡散も大きなリスクである。訴訟が提起された段階で、判決が出ておらず、誰も内容を正確に理解できていないにもかかわらず、大きなニュースになって炎上することもある (※5)。
 事業の安定的な継続のために、知財に関するリスクを可能な限り除去・低減することが必要となる。

↓つづき

※1:平成21年度 特許庁産業財産権制度問題調査研究報告書、「知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~」(2010年3月)


※2:高橋元弘、「平成31年/令和元年 特許権侵害訴訟の判例の概観」、パテント、Vol.73、No.9、p.107-121(2020年9月)


※3:平成26年度企業弁理士知財委員会 パテントプール/パテントトロール調査チーム、「企業内弁理士から見たパテントトロールの動向調査報告」、パテント、Vol.69、No.1、p.37-44(2016年1月)


※4:「トヨタ、ホンダを襲う「特許トロール」の正体」、週刊ダイヤモンド、2017年6月3日号


※5:稲穂健市、「こうして知財は炎上する-ビジネスに役立つ13の基礎知識」、NHK出版新書(2018年8月)


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