デザインの意図 - ソフトバックパック アップデートモデル -
2018年末に『ソフトバックパック』を発売してから5年が経つ。
上質なレザーを使った高級感を覚える見た目でありながら、
・防水
・軽い
・保護性が高い
など、デバイスの持ち運びに適した機能を併せ持つ製品として多くの方に愛用されている。
いま販売してるモデルは、数年前に製品仕様を進化させた“アップデートモデル”となっているのだが、新仕様のこだわりについてnoteで詳しく伝えることが出来ていなかったので、春の訪れを感じる門出の時期に改めて書き直すこととした。
これまで言語化できていなかった思いや経緯についても言葉にしている。
ブランドの出発点であり、私たち“らしさ”を詰め込んだ製品のこだわりを少しでも多くの方に知ってもらえたら嬉しく思う。
なぜ『ソフトバックパック』をつくったのか
「心から欲しいと思えるPCバッグをつくりたい」
そんな思いで手を動かし始めたのがきっかけとなっている。
本製品は、2015年に本業の傍らで製作した物が最初の試作品となっているのだが、当時は私たちにとっての理想的なPCバッグが世の中には皆無だった。
PCバッグは製品の特性上、利便性を追求したデザインにされがちだが、すべての機能を使いこなす人は殆どいない。
不要な機能によって審美性が損なわれている製品が多い状況は健全だと思えず、ましてや自分のスタイルを崩さざるを得ないバッグを身につける機会は可能な限り避けたかった。
大袈裟だと思う人もいるかもしれないが、ファッションの力によって毎日を気分良く、または自信を持って生活している人は少なくない。
多くの人が時と場合によって身に付ける物を工夫するように、ファッションに影響を受けない人など存在しない。
意識するしないに関わらず、身に付ける物が使い手に与える影響は計り知れないのだ。
身に付ける物次第では、いつもと違う場所へ足を伸ばしてみたり、新しい出会いの場へ行ってみようと思えたりする。
その小さなきっかけの1つが、時にその後の生活を大きく変化させる出来事へ繋がる。
私自身、小さなきっかけや出会いの積み重ねによって今の自分がいると考えている。それらがなければ、objcts.ioを始めることもなかった。
私たちが作ろうとしていたのは、そんな出来事を少しでも生み出せるものだ。
あらゆるスタイルに合わせることができ、どんなシチュエーションでも持って行ける美しいバッグが使い手を導いてくれる。
かつてのLOUIS VUITTONが、トランクを再発明することで人々を旅に駆り立て、異文化交流を促すことで文化を醸成させたように。
どんな製品を目指したのか
見た目が良いだけの製品をつくるわけではなく、デバイスを持ち運ぶための機能を併せ持つ必要があるため、「審美性と機能性の両立」は必須だった。
様々な製品を開発してきた今だからこそ言葉にできるのだが、相反する要素を両立させようとすると、ある一定水準の完成度に達したとき、両立したことでしか得られない価値が付与され、製品の完成度を格段に高めてくれる。
本来であれば相反する文化が交わったときに新たなジャンルが生まれるのと似たような調和が生まれるのだ。
これは両立を図る人にしか与えられない、ある種のご褒美のようなモノだと考えている。
『ソフトバックパック』には「身体に溶け込むほどの使い心地の良さ」がもたらされた。
週7日、平日休日問わずどんな服装でもどんな場所にも『ソフトバックパック』が手放せないという人がいるのだが、これは審美性と機能性の両立がなければ実現しにくいことだと考えている。
また、アップデートモデルをつくる際には女性が持ちたくなるデザインを取り入れたいと強く思っていた。
世に出回っているバックパックは男性的なデザインやサイズが多く、女性がバックパックを買おうと思うと一層苦労する。
両立によってもたらされる新しい価値を携えたバッグを、男女問わず多くの人に届けることを目指していたのだと、いま改めて思う。
何にこだわったのか
-機能性 -
主なこだわりポイントを「機能性」と「審美性」に分けて説明していく。
軽さ
革をバッグ全体に使用しているが、一般的なレザーバックパックと比較してとても軽く仕上げていて、Sサイズに至っては980gと1kg以下の軽さだ。
内装に使用している生地を軽量生地にしているというのもあるが、革の厚みをパーツごとに適切な厚みに調整していることが最も重要なポイントだ。
耐久性を担保しながら軽く仕上げるには、革製品に対する理解度が高くなければ実現できないのだが、私が元々職人だったということもあって、パーツによっては0.2mm単位で厚みを指定するほどこだわっている。
防水性
多くの方が革は水に弱いことを懸念点として挙げると思うが、ソフトバックパックには防水性が特に高いレザーを全体に使用している。
革の製作過程で防水液を繊維まで浸透させているため、革表面に傷が付いてしまっても傷から水が浸透することはない。
加えて、アウトドアウェアにも使用される止水ファスナーを使うことで収納口から雨が侵入するのを防げるようになっており、雨の日でも安心して持ち歩けることを実現させた。
メンテナンスのしやすさ
革自体に多くの油分が含まれているため、基本的には保湿クリームなどを使わなくても綺麗な状態を維持することができる。防水性の高さも相まってメンテナンスには苦労しないイージーエレガンスな仕立てにしている(雨でずぶ濡れになったときくらいは雨水を軽く拭き取って陰干しがおすすめ)。
収納性と保護性
緩衝材をあらゆるパーツに内蔵しているため、デバイスを保護ケースに入れることなく、そのままの状態で収納しても安心な構造となっている。
また、PCポケット下部には2本のステッチを入れてポケットの中でPCが浮いたまま収納されるよう工夫することで、PC収納時やバッグを地面に置く際に衝撃がデバイスへダイレクトに伝わらないよう配慮した。
ちょっとしたことではあるが、普段デバイスを持ち歩く人が感じる小さな不安を解消する設計にしている。
もちろん、デバイス周辺機器のサイズを意識した小さめのポケットも完備。
背面のこだわり
背面に使用する生地が使い方によって破れてしまう事例が確認されたため、それらの問題が起きないように革と生地の組み合わせをアップデートした。
その際にスーツケース固定ベルトも追加することで、より耐久的かつ機能的なパーツへと進化させている。
ショルダーベルトのこだわり
ギボシという金具を活用して長さが5段階に調整できる仕様。
元々は5段階調節ではなくフリーで長さ調節できる仕様としていたが、PCの2台持ちや出張など荷物が多くなる利用シーンで、持ち歩いているうちにショルダーの長さが変わってしまうという声があったため、より安心して持ち歩けるようアップデートした。
何にこだわったのか
-審美性 -
ブランドの個性
誰からも嫌われないけど、誰からも深く愛されない製品にだけはしたくなかった。
個人的には、ファッション製品には愛すべきノイズが必要だと考えている。
工業製品のような徹底的に要素を削ぎ落としたファッション製品が永く愛されるのは稀だ。一見無駄に思える部分にこそ、愛着を持ってもらえる。
ノイズを楽しんでこそファッションなのだという考えの元、“スポンジワーク“と呼ぶデザインを入れている。
重要なのは、意図的にノイズを取り入れはするものの過度に装飾的にならないよう、研ぎ澄ませた印象を与えるミニマルデザインもバランス良く取り入れることだ。
バッグを正面から見たとき、ステッチを極力表に見せない基本構造を取り入れたり、スポーティな印象を与えてしまう止水ファスナーが見えにくくなるように革で覆ったり、一見ポケットがあるようには見えない構造を取り入れてたりするのがそれだ。
そういったミニマルな仕様にしておきながらノイズを取り入れるからこそ個性が引き立つのだと考えている。
革という魅力的な素材
先進的な素材が生み出される現代においても革は稀有な存在であり、正しく活用すべき素材だと私は考えている。
多くの人が、たった一目で高級感、上質さ、丈夫さなどの魅力的な要素を瞬時に感じ取ることができる。
あらゆるデザインに適応するほど加工しやすいのに耐久的で、加工の仕方次第では防水機能を代表とする様々な機能を素材に搭載することが可能だ。
このような素材は非常に少ない。
革が生み出す社会的な課題ともしっかり向き合い、賢く活用して永く愛される製品をつくることが、革製品のプロとしての役目だと考えている。
XSサイズ特有のデザイン
女性の骨格に合うサイズやデザインのバックパックが少ないという声を貰ったことでなんとか解決したいと考えていた。
女性がバックパックを背負ったときに違和感を覚えるのは、身体と製品全体とのバランスだけじゃなく、身体と身体の前に来るショルダーの幅とのバランスが取れていないことが原因となっている。
そのため、製品サイズを小さくするのはもちろん、ショルダーを細くしてよりミニマルな見た目になるようデザイン調整を試みた。
コンパクトなサイズでありながら、MacBook 14 inchやA4資料を収納できる機能も持ち合わせている製品として仕上がったおかげで、ソフトバックパックを愛用してくれる女性は増えていった。
これからも永く寄り添う存在として
多くのこだわりを詰め込んだソフトバックパックの開発途中は、心が折れそうな経験を何度も重ねた。
想定していなかったフィードバックをきっかけに大きな方針転換をしたり、辛辣なコメントをもらったり。
それでも、試作と改善を繰り返して一歩一歩着実に完成させたソフトバックパックは、今では多くの人の生活に溶け込み、もしかしたら素晴らしい出会いのきっかけを作っているかもしれない。
この先も多くの人にとって欠かせない存在となれたなら、この上ない喜びを感じる。
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