【本の紹介・探究学習】AIの時代にこそ重要な探究学習③ 学校で行う探究学習の形態
学校を挙げて探究学習を実施するにあたり、その場しのぎではなく、児童・生徒に「探究」スキルを着実に身に着けさせようとようと考えているならば、小学校、中学校、高等学校それぞれ6年間ないし3年間、小中一貫なら9年間、中高一貫なら6年間、段階を踏んで少しずつ「探究」のスキルを積み上げていけるようなプログラムを学校全体でしっかり組み立ててから取り組むことが理想的です。重要なのは、毎年どの先生がどの学年にあたっても、同一の学年では、課題となるスキルを身に着けて次の学年に進学していけるようにすること。
例えば同じ中学2年生の探究学習であっても、年度ごとに授業担当者が違うことで、その学年で実施するプログラムが変わってしまう、となると、ある学年は「探究」に関してのプログラムに熱心に取り組んだが、別の学年は取り組んでいない、ということが起きるし、進級したのにまた同じような課題が課せられる、など前年度からの進展がないまま卒業していく学年が発生しかねません。
私がこれまでに勤務したり見聞きしたことがある学校で、「探究学習」が比較的うまくいっている例を挙げていきましょう。
① 探究学習に関わる各先生が自分の探究ゼミを企画し、生徒が関心あるゼミに通年で参加する形態
・実際に体験することを重視
・担当者が通年で一定数の生徒と関わり、丁寧に指導・アドバイスできる。
・自分で「問い」を見つけることが困難な生徒も、先生方が用意した各分野のゼミを選択する形を取ることで、自主的にテーマを選ぶ経験ができる。興味のないテーマで「探究させられる」という感覚にはならないだろう。
・最終的に発表する形式は、パネルディスカッションやGoogleslide(PowerPoint)でスライドを作成するなど。
・年度末に全校生徒や保護者、校外を対象に公開する場を設ける。
② 中高一貫校で、全学年において週に1コマ「探究学習」に特化した科目を用意し(国語や社会、学級活動などとは別に時間割に設定)、授業は毎週必ず学校図書館で行い、探究に関するスキルを少しずつ積み上げていく形態
・専任の司書教諭(主担当の指導者)に加え、非常勤講師を数人採用し、一クラスの授業を複数人の指導者で担当する。
・授業担当者間で指導項目を十分に共有したうえで、一クラスの生徒を数人ずつに分けて各担当者が指導し、丁寧に進捗状況を確認、アドバイスする。
・中1~2で探究学習の基礎を身に着けたうえで中3で卒業論文(1作目)を作成し、高1~高2でさらに探究学習のスキルをアップさせたうえで、高2の後半から卒業論文のテーマを模索し、高3で卒業論文(2作目)を作成する。※中高一貫校だが、高校からの入学者もいるため、高校で初めて卒業論文を執筆する生徒もいる。
・高校3年生が作成した卒業論文のなかで特に優秀な作品や、本人が応募を希望する作品は、毎年「図書館を使った調べる学習コンクール」(公益財団法人図書館振興財団)にエントリーしている。(応募の締め切りは例年10月初旬、審査結果発表が年明け1月中旬頃)校外のコンクールへの応募や受賞は、生徒の論文執筆活動や今後の探究学習の励みになる。
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③全学年、通年ではないが、卒業研究や卒業論文という形で、小学6年生や中学3年生で探究学習を実施している例
・探究学習の指導は、学校に関わる全ての教職員で行い、探究学習の相談者(メンター)として、生徒ごとに担当者を割り振る。その際事前に、各生徒が選んでいる研究テーマと教職員の関心のある分野・得意な分野とのマッチングを行い、探究学習へのアドバイスがスムーズに行えるように工夫する。
・「探究学習」を実施している学年団の先生で手分けする。上記と同様に、テーマごとに、できるだけ指導する先生の希望に沿って、生徒を割り振る。
以上、一学年の人数にもよるが、「探究学習」は一人の授業担当者が全員分の成果物を指導・添削してリフレクションすることは時間的にも不可能であり、生徒が「探究」の過程で提出したものや、最終的な成果物を、授業担当者がほとんど添削・指導できずに成績だけつけて返却したならば、「探究学習」は指導者・生徒双方にとって形骸化したものとなり、完全な徒労に終わってしまいます。
次回は、生徒が自由に探究テーマを設定する場合を想定して、生徒がテーマを決める過程を実際に体験していきましょう。