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逆玉
欲しいモノは何ですか?
Aお金 B愛 C名誉 D全部
ほとんどの方がAかBを選択すると思われる。
「Dに決まっているじゃん!」そう答える人間は、意外と少ない。全てを手に入れてしまうと、色々な重圧に耐え切れず…人は「死」を求めてしまう。
まさか幸せを手に入れたつもりが…
不幸の始まりだとは…知らずに…。
渡辺弘(わたなべひろし)39歳で、お菓子メーカーに勤める、勤続17年で今だに平社員。ルックスもパッとしなくて、性格も根暗。人付き合いもなく、彼女もいない。
唯一の趣味は、ネットアイドル「マキナ」の追っかけである。
この日も、渡辺は仕事が終わってもなんの予定もなく、真っ直ぐ帰宅して、パソコンを開き、マキナの動画を見ていた。
本日マキナはライブ方式で動画を流していた。
当然渡辺も参加した。
チャットでマキナに全員挨拶することから始まる。
「マキナちゃんこんばんはー」
「マキナちゃんわこつ。」
わこつとは、「番組の枠取りお疲れ様」という略で、
渡辺も一緒になって挨拶する。
マキナは満面の笑みで、視聴者に手を降る。
開始5分ですでに、200人以上集まった。
凄い人気だ。
軽い挨拶と近況報告に始まり、マキナは歌を唄い、ダンスを披露した。
スーパーチャットっと言って、おひねりを渡すことが出来る。例えば1000円、マキナにWEB上で、あげたら、運営側に200円、マキナに800円入るシステムだ。
相変わらず華麗な歌とダンスが終わったところで、
「88888」の拍手と、共に視聴者はスーパーチャットをやる。ちなみに、8=パチなので拍手の表現は、数字の8を使う。
渡辺もスーパーチャットをする。
ところが!!
1000円あげたつもりが、間違って、1桁多い…
10000円をあげてしまった…。
アラフォーで平社員の渡辺にとって…
痛すぎるミスである…。
スーパーチャットは返ってこない…。
しかし!
渡辺のスーパーチャットに気づいたマキナは、
「わぁーnabeさん!10000円もありがとう♡マキナ嬉しい♡」と言って、渡辺に投げキッスをした。
渡辺は初めて、マキナに自分の名前を呼ばれ、投げキッスをして貰って…体が熱くなり、顔がポッと赤くなり嬉しそうだった。
思わずチャットで「いつも応援しています。今日も歌最高に良かったです!」と送った。
そのチャットをマキナが拾ってくれた!
「嬉しい~ありがとう♡」そう言って、渡辺に手を振る。
続けてマキナが質問して来た。
「nabeさんって何のお仕事されている方なの?」
夢のようだ!マキナと会話している。
渡辺は動揺してパソコンのキーボードに文字を打つ手が震える。
「お菓子メーカーで勤務しております。」
「私ーお菓子大好きー!」
突然大きな声でマキナが叫んだ。
この叫び声は、ガチで好きそうだ!
奇遇にもマキナが大好きなお菓子は、渡辺の勤めているメーカーのだった。
冗談まじりで「お菓子いっぱい送って下さい」と言われた。
初めてこんなに長く、個人的なやり取りを出来た渡辺は、安月給で10000円という大きな出費も忘れ、嬉しくて興奮して眠れなかった!
深夜1時。
なんとマキナからDMが来た。
「先程は10000円もスパチャありがとう!」
わざわざDMでお礼を言うとは…なんて律儀な方なんだろう!渡辺はすぐに返事した。「こちらこそ、いつも楽しませて頂いております。これからも応援します。頑張って下さい。」
5分後。
マキナから返事が来た。
「今度オフ会7月3日、握手とサインnabeさん優先でしますね♡」
渡辺は舞い上がり「ありがとうございます♪嬉しいです。オフ会の日、よろしければ先程話していたお菓子差し上げますが…受け取って頂けますか?」
「良いに決まっているジャーン!嬉しい~♡」
「マキナさんの好きなお菓子の新作のマロン味も出るんですよ。」
「えー超うまそう!早く食べたいなぁー!」
「まだ発売していないので、極秘ですが、それも一緒に持って行きますね。」
「ねぇ、nabeさん。待てないから、悪いんだけど、事務所に送ってくれない?」
「全然良いですよ!」
「お手数おかけしてごめんなさいね。」
「いえいえ、むしろ自社の製品をここまで気に入って頂いて嬉しいです。」
そう言ってマキナは事務所の住所を書いて来た。
自分を信用して、事務所の住所を教えてくれたのが凄く嬉しかった。個人のDMやり取りが嬉しかった。
翌日に早速、段ボール2箱分送った。
ちなみに自社製品は半値以下で買える。
後日。
マキナからお礼のDMが来た。
「お菓子届いたよ~こんなにたくさんありがとう♡新作のマロン味も超美味しいねぇ!」
「気に入って頂いて、ありがとうございます。また欲しくなったら、いつでも言って下さいね!」
「nabeさん超イイ人!会いたいなぁ~。」
「はい!?」
冗談かと思った…。
「1度会って直接お礼が言いたい!nabeさんお休みいつ?」
「日曜日ですが…。」
「ご予定は?」
「特にありません。」
「会って頂けますか?」
「憧れのマキナさんからのお誘い…凄く嬉しいのですが…自分…オジサンだし…その…。」
渡辺はマキナに個人的に会えるチャンスなのに!?
自分に自信がないため…躊躇した…。
「そんなの気にしませんよ!どっちかと言うと、若い人より歳上の方が好きだし。」
嬉しい言葉だが、何度も言うが…渡辺は17年勤務して、今だに、平社員。安月給で、貯金もろくになく、見た目もパッとしないため、女性と数える位しか付き合ったこともなく、歳上の男性だからと言って包容力や、経験を持ち合わせていない。
きっとマキナの想像しているような、歳上男性像とは程遠く、幻滅されるのがオチだ…。
どっちみち好かれることは100%ないのだから、
開きなおって渡辺はマキナと会うことにした。
日曜日。
オフ会でもないのに、個人的に憧れのマキナと会う日だ。渡辺は、かなり緊張していた。
待ち合わせのカフェに1時間前に到着。
待っている間、マキナとの今までのDMのやり取りを読み返し、ニヤニヤしていた。
そして、自分だけ個人的に会える優越感にしたっていた。
待ち合わせ5分前にマキナが到着。
帽子を深々被り、マスクをしていた。
芸能人ではないが、ネット界ではそこそこの知名度のため、変装しないと気づかれるみたいだ。
渡辺はマキナの近くに寄り「はじめまして。nabeです。」
マキナは周りに声が気づかれないように、小声で喋った。「どうも。本日は来てくれてありがとうございます。お菓子たくさんありがとうございました。」
マキナは渡辺をまじまじ見る…。
第一印象がどう写ったのか?渡辺は気になって仕方なかった。
テーブル席につき、渡辺はコーヒーを、マキナはタピオカティーを注文した。
飲み物が届くまでの間、「これ、ささやかなお礼です。」と言って、マキナは小さな紙袋を渡辺に渡した。
「逆に気を使わせたみたいで…なんかすみません、開けて見て良いですか?」と言って渡辺は、かなり嬉しそうだった。
ニコニコしながら、マキナは「どうぞ」と言うと、
手作りのCDとマキナのトレカが入っていた!
しかも両方サイン付きで!
渡辺は舞い上がり、何度もお礼を言う。
マキナのレパートリーで一番好きな歌や、「あのトーク」が一番楽しかったなど、マキナに伝え、
マキナは嬉しそうだった。
30分後。
マキナは、深刻な顔をしている…。
渡辺の話がつまらなかったのか?いや!それならとっくに帰っているはず…。
恐る恐る聞いてみた。
「あの…どうかしましたか?」
マキナは「nabeさんって、とても誠実な方ですね。直接会って、一緒にいると落ち着くというか…もっと知りたいし…一緒にいたいので、これからもちょくちょく会ってくれませんか?」
「マジか!?」
渡辺は嬉し過ぎて、動揺し、言葉が詰まった。
お互いに、本名、リアルなケータイ番号など交換し、
1日1回以上のやり取り、週2のペースでデートもした。
そして5回目のデートで!
マキナから告白された!!!!
ドッキリカメラではないのか?と渡辺は周辺を探す。
こうして、憧れのマキナと付き合うことになった。
渡辺は今でも信じられなかった。
しかし!渡辺の幸運はまだ続く。
ある日、会社で専務に呼び出された。
渡辺が半年前に提案したお菓子が大ブームになり、
会社の株は上がり!売り上げも2億を突破!
渡辺は一気に部長に昇進した!
そして後日。
会社の会長から、縁談の話が来た。
相手は、取引先の社長令嬢だ。
写真を見せて貰ったが、かなりの美人だ。
会長は、縁談が上手く行けば、合併して今よりも何倍も会社が大きくなるという。
どういうわけか?先方の社長令嬢さんは渡辺のことを気に入っているみたいだ!!
とりあえず、会長のメンツのため会うだけ会うことにした。
マキナには、内緒にした…。
どうせ、断ると思っていたからだ。
3週間後。
社長令嬢の大豪邸でお見合いが始まった。
挨拶に始まり、会長が渡辺をアピール、
お見合い相手の社長令嬢も父の社長も、渡辺のことをかなり好印象で受け入れ、社長令嬢と2人きりで話すことになった。
喋り方は、とても丁寧で優しい声だった。
好きなテレビ番組など、ほとんど一致して盛り上がった。
そして映画に誘われた。
最初から断るつもりで来たが…マキナとは違う魅力がある女性だった…。
またマキナに内緒で映画デートした。
食事でも会話が弾み…
帰り際…。
社長令嬢に告白された!!!!
自然と即答してしまった…。
「結婚を前提に是非お付き合い宜しくお願い致します。」
美人で性格も良くて、超お金持ちの女性が、渡辺を好きになる確率は…宝くじよりも低いだろう…。
こうして、マキナと社長令嬢、好枝(よしえ)の二股交際がスタートした。
翌日。
マキナの家に呼び出された。
そして…
マキナは予想外のことを口にする…。
「弘さんってパソコン詳しいよね?」
「ええ…まぁ…。」
「会社辞めて貰って同棲しない?編集やカメラ撮影やって貰いたいの。」
「ええ!?」
「私、ネットアイドルでも年収2億あるよ!これからは、2人で協力し合ってやって行こうよ~。」
思わぬ展開に…マズイことになってきた…。
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