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【短編小説】十五の嫁

反抗期も一段落して、
部活の集大成、
そして、何と言っても…
受験を控えている大事な時期…

しかし______
彼女には、もっと大事な試練が___
待ち構えていた________。


私の名前は、希夏。
中学三年生。

それは、とあるSNSで、
男と出逢った。


「最初は、軽はずみな乗りで、彼と会った。」
記者のインタビューに、
彼女は、堂々とそう語り、
しばらくの沈黙の間の後に…
さらに、こんなことも呟いた。

「まさか…結婚するとは思ってなかったけど…後悔はない!」


「義務教育中ですよね?」
「ご両親や学校側は、反対しなかったの?」
「彼は、どんな男性?」
「年齢は?」
「仕事は?年収は?」
記者の怒涛の質問攻めに、
希夏は、一言…。
「どこか魅力的なヒト。」

そう言い残し、
立ち去ろうとする彼女を追っかけ、
記者は、必死に問い詰める。
「具体的に、どういう人?」

困り果てた表情をして、
(面倒くさいなぁ…。)と、小声で愚痴を溢しながらも、それに応える。
そして、その男のことを話す時は、
緩んだ口元と、幸せそうな目が、
物語っていた。
「彼が、空の画像をアップするとするでしょう?不思議と…私も、空が大好きになるの!」
「それは、雲がハート型だったり?」
「ううん。普通の日常の空。」

続けて、男のInstagramのアカウントから、
薔薇の画像を見せて、こう言った。
「このバラも同じ、今じゃあ、何でも花に興味、示しているけどね!」

「へぇ~、よっぽど彼のことが好きなのね。」

記者の相槌に、
意味深な答えが、返ってきた。
「そこが微妙!歳も、かなり離れているし…」

「えっ!?」
急いで、テープレコーダーの準備するも、
「じゃあね。」と、無邪気な笑顔で、
彼女は、手を振り、その場を後にした。


記者は、核心に迫る疑問を一つも聞き出せずに、肩を落としていた。
このままでは、編集部に帰れない…。
彼女の両親、担任や校長も、
断固取材拒否だし…
彼の連絡先も知らないとなると…
手当たり次第、彼女の友人に、探るしかない。


彼女が、在学中の校門で、
下校時間を見計い、女子生徒達に、
片っ端から、声をかけた。
「三年C組の希夏ちゃんと友達な方、誰かいる?」
皆、恐がって、うつむき、足早に、
立ち去って行く…。
ひそひそ話で、怪しむグループもいる。
誰ひとり耳を傾けない中…
二人組の女の子が、応じる。
「希夏の友達ですけど…。」
諦めて、帰ろうとしていた矢先だったので、
舞い上がり、こんな質問をぶつけた。
「君達、時間ある?ちょっと、彼女のことで、色々、お話聴かせて貰えないかしら?」
女子生徒らは、顔を見合わせて、
それに答えた。「良いですよ。」

「あの子が、結婚するって聞いて、まず、率直な感想は?」
「最初は、信じられなかったです。当然、反対しました。」
「でも…」と、付け足して、続きを述べた。
「一度、言い出したら、訊かない性格なので…。」
もう一人の子も援護する。
「それに、あの人だったら、結婚しても頷けます。」
記者は、前乗りになって、問いかける。
「あの人!?会ったの?」
「ええ。紹介されました。」
「どんな人だった?」
「無口で、礼儀正しくて…そして…何か、魅力的なんですよね。」
この子達の父親くらいの年齢である男に、
何の魅力があるのか…
記者は、益々、気になり、思わず口にした。
「彼の連絡先って、知っている?」
「さぁ…分かりません。」
「質問を変えるわね。学校側の意見とか、何か聞いている?」
「全校集会で、教頭先生が、否定的な発言をしていましたし、PTAでも大問題になったみたいですけど…詳しいことは…」
「そう…。じゃあ彼女の親御さん達は?」
「うーん…希夏本人の口から、そういうことは、あまり喋らないですし、聴きづらいこともあって…」
「そっか…ありがとう。」
結局、何一つ、収穫が得られなかった。
しかし、記者の上原絵観子は、
この後、以外な人物と遭遇する。

それは、彼女の妹だ。
もう一度、希夏と、どうしても取材を行いたくて、自宅付近で、張っている最中に、
妹の理緒と、出会し、
取材許可が降りた。

情報漏れ等に気配りして、
カラオケ店の一室で、取材をする。
実の妹の意見はこうだ。
「お姉ちゃんの人生なんだから、私は、どうでも良い感じ。」
「お父さんやお母さんは、どんな感じ?」
「猛反対だね…特に、パパは、連日、怒鳴りっぱなしで…聞く耳持たない感じ…。」
「そりゃそうだよね。」
「あと、一年我慢すれば、法律上結婚出来るのに、お姉ちゃんも頑固だから…。」
「そうよね!お姉さんから、色々聞いてない?」
「今、家に居ないから。知らない。」
「えっ!そうなの?」
「うん。パパに勘当されたから。」
「じゃあ今、何処に住んでいるの?」
「勿論、彼の家。」
上原は、バッグから、おもむろに手帳を取り出し、こんな質問をした。
「住所わかる?」
「さぁ…そこまでは…。」


取材を終え、ダメ元で、
本人のケータイに、電話するも…

プー…プー…プー…。

いまだに着信拒否されたままだ…。

メッセージを送るも、
無論、既読はつかず…


上原のなかで、仕事とは、別に、
その男に、どんな魅力があるのか…
会ってみたかった。

休日を返上して、
色々、聴き込みや、情報を漁るも…
何一つ、得られず…
編集長から、こんな台詞を告げられた。
「もう、あんなカップルの事なんか、どうでも良いから。新しく出来たスイーツ店の取材に行ってくれ。」

どうでも良くない!
彼女から、してみれば、
気になって、連日睡眠不足だ。
そして、入社してから、ずっと真面目に業務をこなし、文句言わず、命令にも従って来たが…
初めて、牙を向ける。
「もう少し、やらせて下さい。」



六畳一部屋、築四十年のボロアパートが、
男の家だ…。

外壁も、内装も、今にも崩れ落ちそうで、
至るところから、雨漏れもする…。

生活臭漂う、スーパーのタイムセールで、
購入した惣菜から察して…
低所得者に間違いない…。

それでも…
「あはは!」
彼女の楽しそうな笑い声が、
四六時中、響き渡る…。


休日のこの日、
期末テストが差し迫った希夏は、
一日中、段ボール箱を机に、
教科書と睨めっこしている。
隣には、邪魔しないようにと、
男は、Bluetoothイヤホンで、
YouTubeを見ている。
バタンと、ノートを閉じ、
片方のイヤホンを盗み、
彼女も、うつ伏せになり、
動画を見出した。
「勉強は?」
「ちょっと休憩。」

数分後、ウトウトし始めた彼女を、
チラチラ覗いては…
(可愛いなぁ…。)
男は、何度も心の中で、呪文のように唱えた。


やがて、寝落ちして、
毛布を、そっと…かけてあげた。
梅雨入りして、来月は初夏だというのに、
まだまだ肌寒い。


そっと____
頭を撫で_______
頬にキスをした______。


忍び足で、玄関に行き、
ゆっくりドアを開けた。
匂いを気遣って、いつも外で、
タバコを吸っている。
本当は、辞めなくちゃいけないのに…
彼女の一言で、吸い続けている。
「タバコ辞めなくて良いよ。」
本心からなのか?真意は、わからないが、
その行為に甘えている…。

一時間後_______。

目を擦りながら、
彼女は、起きて来た。
そして、こんな台詞を呟いた。
「お腹空いた~。」
「イタリアンで、良さげなお店、見つけたんだけど、良かったら、行かない?」
彼女は、無邪気な笑顔で、答えた。
「行く~。行く~。」
男の目には、たまらなく、
愛しく写っていた。


成長期の希夏は、
パスタ、ピザと、ペロッと平らげ、
デザートメニューにも、目を向けている。
だが、家計を気遣って、
「美味しかった~。ご馳走様でした。」
「デザートも頼んで!」
「ううん。お腹いっぱい。」



「その代わり、アイス買って。」と、
囁かれたので、帰宅途中のコンビニに、
足を運び、買ってあげた。

嬉しそうに、カフェオレ味の二本組のボトルアイスを、パキッと、割って、
「はい!」と、男に、差し出した。
「ありがとう。」
男は、情けなかった。
レストランで五百円以上するデザートに、懐を心配され、遠慮して…たかが百円のアイスに、
あんなに喜んでいる…。

食べさせてあげたい!

好きな物を目一杯、

欲しい物も、何でも買ってあげたい!

そもそも、二六も、
年齢が離れているんだ…。

これくらい、やって当然だ!!


この日、そう誓った男は…


変わった。



つづく。


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