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短編推理小説【逆泥棒】

気ままな独身暮らしをエンジョイするマサオは、
掃除が大嫌いだった。

良くテレビで目にするゴミ屋敷そのもの…。

正に「足の踏み場がないとは」この事だ。
飲み終わったペットボトル、空のコンビニの弁当箱、
カップラーメンが、部屋の半分を埋めている。
また灰皿には、山のように吸い殻が溜まっている。
たまに、ひっくり返してしまうが、そのまま放置してしまう。

とうとう、リビングで寝っ転がるスペースも無くなってしまった…。

でも片付けない!

ということで、寝室で全てを過ごす。

とはいえ…
寝室も!さほど変わりない。
ベッドの上に、漫画とエロ本が無造作に積まれ、
缶ビールや酎ハイの大量の空き缶が床に散らばっている。

近隣の人から、「異臭がする!」と言われ
大家から、掃除するように通告された。

マサオの口癖
「明日でいいや!」

マサオはホテルで勤めている。
ベッドメイキングと部屋の掃除が仕事だ。

短時間でビシっと!塵一つ無く綺麗に出来るのに!なぜか、自分の部屋は一切やろうとしない。

この日は、同僚と飲みに行き
帰宅したのは、深夜二時を回っていた。

「あれ!?」

部屋の中が綺麗に片付けられている…。

リビングのテーブルに、ピン札の一万円札が置いてある…。

状況が理解出来ないマサオは、深夜にも関わらずお袋に電話した。

彼女がいなくて、友達も少ないマサオにとって
思い当たる節は、「母親」しかいない!

半分寝ぼけながら、母親が出た。
「何よ…こんな時間に?」
「今日…俺の部屋に来た?」
「行かないわよ。どうして?」
「なんか…部屋が綺麗に片付けられていたんだけど?」
「知らないわよ…じゃあねぇ…。」

母親は嘘つく人間ではないし、
声のトーンで、違うってすぐにわかった。

「泥棒?」

パソコンデスクの引き出しの中にある封筒を急いで確認した。

十五万円しっかりある!

通帳も大丈夫。

現金が盗まれていないから…泥棒とは考えにくい…。

「じゃあ誰だ!?」

もう一つ考えられるとしたら…

「大家だ。」

通告を無視して、掃除しなかったから
合鍵で勝手に入って来て掃除したのか?

さすがに、この時間に確認出来ない。

マサオは、徹夜で朝一番に大家の家に向かった。

チャイムを鳴らすなり、犬の散歩に行く前だったのか?大家の愛犬ポメラニアンも連れて出て来た。

「こんな朝早くどうされました?」

「あのう…昨日…僕の部屋に入りました?」

「は?入ってませんけど…。」

「本当ですか?」

「どうされました?」

「なんか、部屋が綺麗に掃除されていて、良くわからないんですけど、一万円も置いてあって…。」

良く意味がわかってない大家は、マサオの部屋を見に来た。

大家は、感動した様子で「綺麗さっぱりになったねぇ~。」
そんな呑気なことを聞いてない!
マサオは、少しイライラした口調で…
「大家さん本当に入ってないのですね?」

朝の騒ぎに近隣の人達が群がって来た。
皆、土足でマサオの部屋に入る。

「マサオの部屋から異臭がする」と言った張本人…

道子さん…。

彼女は、五十代の主婦。
地域内で、評判は良くない。
つい先日も、若い夫婦に嫌がらせをして、無理矢理引っ越させた…。
宗教に入っている噂も耳にするし…

本人じゃないにしても…

道子さんのさしがねか?

彼女は、勝手に部屋充を見て回り、
汚いモノを見るような目付きで、こんなことを言った
「まだ、ところどころ臭うけど…とりあえず片付いて良かったわ。」

勝手に土足でアガって来て、言いたいことが沢山あるが…ぐっとこらえて…
「僕以外の誰かが、入ったみたいなんですよ…道子さん…昨日不審人物とか見ませんでしたか?」

道子は、一言も発せず、足早に去って行った!

「怪しい!!」

土足で入りこんだ、もう二人を忘れていた。
一人は、頭の悪そうな二十代の金髪の若者。
フリーターで家賃を滞納している。

大家が若者に家賃を催促する。
「橋本君、家賃今月末まで払ってくれないと、出てってもらうからね!」

「勘弁して下さいよ~」
そう言って、マサオの部屋をあとにした。

橋本君は、潔白だ!
お金に困っている彼が犯人なら、真っ先に現金を盗むハズ!

もう一人は、ちょっと怖いお兄さん…。
年齢はアラフォー、素性が全く誰も知らず
アッチ系の噂がある…。

一旦帰ったと思ったら…
銀のネックレスやら、パチ物の時計を持って来て
「おう。兄ちゃん、一個一万で買わないかい?」

(買うわけねぇーだろ!バーカ!)

気の弱いマサオは、ウジウジしながら断った。

この半グレも、潔白っぽい…。

やはり、現金が盗まれず…逆に部屋の掃除もして、現金もくれるなんて…誰が何のために?

全員帰った後、
警察に連絡した。

昨日、どこで何をしていたか?
その他にも、何度も詳しく聞かれた。

犯人は、掃除もしてお金もあげるつもりで置いて行ったのか?不明だが…善なことしかやってないが…
住居不法侵入罪として、捜査してもらえることになった。

直感で、怪しいと思った道子さんのことを言ったら
早速、事情聴取に行ってくれるみたいだ。

その日の夜、マサオは怖くなってきた…。

本当に何の目的で…逆泥棒みたいなことをするのか?

誰なんだ?

犯人は、近くにいるのか?

また…入って来るのか?…。

色々な不安が交差して、犯人が見つかるまで
わがまま言って、職場の従業員室で寝泊まりすることにした。

二日後。
道子に呼び出される。

「ちょっとアンタ!私を疑っているの?警察の方が来たわよ。」

「前から僕のこと…目の敵にしてますよね?」

「それは、ゴミ屋敷みたいな部屋に住んでるからでしょ!でも、今は違うわ。」

「はっきり言います!道子さん、もしくは道子さんが誰かに頼んで、僕の部屋に入り勝手に掃除させたんじゃないのですか?」

「誰がそんな、利益にもならない無駄なことをするわけ?…。」

ごもっともだが…引き下がらない!

「質問を変えます。事件前日、どこで何してましたか?」

道子さんは、バッグからケイタイを取り出し
「あらやだ!これから車の保険屋さんと会う約束思い出したわ。」

マサオは見逃さなかった。

明らかに、目をそらしたし…

動揺していた!

分かりやすい嘘をつき、足早に逃げるように去って行く道子を追っかけて、問い詰める。
「なぜ逃げるのですか?言えないのですか?」

「うるさいわねぇ…忙しいのよ。」

「一言、あの日どこにいたか言えるでしょ?」

道子は、走り出した!

普段から、毎日ジョギングしている道子は速かった。
一方、タバコの吸いすぎで、マサオは五十メートル位で息を切らしてダウンしてしまう…。
情けない話だ。

道子は、真っ赤なスポーツカーに乗り込み
猛スピードで発進。

見失ってしまった…。

明らかに…明らかに…彼女が犯人だ!

逃げても無駄だ!
住所もわかっているし。

今の経緯を警察に話した。

すると…意外な言葉が…。
「道子さん?違いますよ。」

「そんなバカな!事件前日どこにいたか問い詰めたら、逃げたんですよ!」

「道子さんは、ご自宅におられましたよ。アリバイも確認済みで、無実ですね。」

「じゃあ何で逃げたんですか?」

「さぁ…それは分かりませんが…道子さん宅の防犯カメラに確かな証拠として残ってますが…確認しますか?」

「いえ、警察の方が言うなら…信じますよ。」

犯人は、一向に見つからず…
「指紋照合」を希望するが、
刑事事件に発展しないと、出来ないらしい…。

着替えを取りに、久しぶりに自分家に向かう途中で、
好きな女の子から、メールが来た。

「返事遅くなってゴメンね~最近疲れて、スイーツ食べたいなぁ~。」

事件前に、好きな女の子が遊園地に行き、そのお土産でうさぎのキーホルダーをもらっていた。
そのお礼に、マサオから食事の誘いをして、
今、返事が来た経緯だ。

「スイーツね!オッケー。いつ都合いい?」

すぐに返信するも…
本日、マサオのメール音が鳴ることはなかった…。

久美子とは、合コンで知り合い
どうやら、マサオの一方的な片想いで終わりそうである。

それでも大好きな久美子から、貰ったうさぎのキーホルダーは、一番の宝物だ。
寝泊まりしてる職場に持って行こうとしたら…

「無い。」

部屋充、隅々まで探すが…どこにも無い…。

落としたか?
いや、違う!大事な物だから…パソコンデスクの引き出しに現金と一緒に置いてあったはず!

マサオは、背筋から嫌な寒気を感じた…。

「犯人は…うさぎのキーホルダーを盗んだ!」

ということは…
犯人は、久美子周辺か?

でも…おかしい…。
現金を盗まずにキーホルダーを盗むなんて…。

あの、うさぎのキーホルダーは宝物だが、
数百円で、何個も売っている。
特別なレア物でも、なんでもない!

とにかく、合コンメンバーを思い出せ。

主催者の同僚

見た目は、パッとしないが…性格がすごく良く
話題も豊富。ムードメーカー的存在で、職場でも明るく人気がある。
あの合コンで、女性陣一番人気の「遥佳」と付き合った。
事件当日、一緒に飲んでいたので百パーセント違う。

勝又

同僚の友達。体育会系硬派、口下手で、生まれて一度も、女性と付き合ったことがない。
誰とも、番号をゲット出来ず…
落ち込んでいた。

隆史

同僚と勝又の友達。イケメンだが、金を持ってない。
久美子とも、番号交換していた…。
合コンの後、どうなったか知らない…。

沢田

隆史と友達。IT社長、青年実業家というやつか…。
几帳面で、潔癖症。
合コンの途中で「千鶴」とどっか行ってしまった。
一旦は、付き合ったみたいだが…すぐに破局したらしい。

果たして、この中に犯人がいるのか?…。

道子の疑いも晴れたわけではない!

それとも…全く知らない奴なのか?…。

疑いだせば、キリがないが…

犯人は、意外な人物だった!

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