【考察】他人に迷惑をかけないことの呪い

「他人に迷惑をかけないようにしなさい」

私が子どものときからよく言われた言葉だ。
一見何の問題もない言葉だが、大人になってからこの言葉がいかに私の行動を縛り付けてきたのかがわかってきた。

この言葉は他人を思いやるためによく使用される。これ自体は素晴らしいことだが、口を酸っぱくして言われ続けることで副作用が出てくるのを忘れてはいけない。

・迷惑をかけないために失敗を恐れるようになる
・迷惑をかけないために完璧を求めるようになる
・迷惑をかけないためにどんなに困っていても他人に頼らなくなる

他にもあるが、主な副作用はこれらだ。
社会で働くと、大抵の仕事には報連相(報告・連絡・相談)が必要なのがわかる。つまり、他人とコミュニケーションを取りながら分担して仕事をこなしていかなければならない。

失敗しない人間はいないし、完璧より7割の完成度でも素早く終わらせてフィードバックを受けた方がいいと言われる。困っていたら自分から聞きに行けば早く解決できる。
社会で必要なこれらのコミュニケーション能力が発揮される場面で「他人に迷惑をかけないようにしなさい」の一言が体を凍り付かせてしまう。

それならば、「他人に迷惑をかけないようにしなさい」と言わない方がいいのかというと、そうではない。要は適量であればいいのだ。次の関係性を見てみよう。

【投与量と効果の関係、投与量と毒性の関係】
無作用量→最小有効量→治療量→中毒量→最少致死量→致死量

薬について勉強をした方であれば見たことがあるかもしれない。少なすぎると効果はなく、多過ぎたら死んでしまう。適切な量の毒を飲むことで薬となる。大袈裟に言えばそう言える。

この関係性は薬だけでなく、言葉にも使えるのではないかと子供の頃からずっと考えてきた。

他人に迷惑をかけない状態が、今回のように副作用が出てきてしまうのなら致死量レベルだろう。言い換えると、他人に迷惑をかけずに生きようとしているにも関わらず、自分の許容量を越えてしまうまで1人で頑張ってしまうがゆえに、結果迷惑をかけてしまうという状態となる。

これでは何も言わなかったために他人に迷惑をかけて過ごすようになった状態(無作用量)よりタチが悪い。
なぜなら、他人に迷惑をかけてしまうのに加えて、「なぜ他人に迷惑をかけてしまうのか」と内と外の逃げ場のない攻撃に晒されるからだ。
これらの原因はもちろん学校や社会での人間関係とも考えられるが、大きな要因は小さい頃から一緒に過ごしてきた親だろう。

このように自己肯定感を下げる要因になってしまうまで言葉を重ねてしまう親のことを世間一般では『毒親』と呼ぶ。
子どもはなんでも言うことを聞く都合のいい存在(または、私が人生の先輩として子どもになんでも教えてあげなければならない)というように、コントロールするような子育てをしてしまう。
これでは、意思を持たない人形を育てているのと一緒だ。

先の東京都知事選では、尖った選挙公約を持つ候補者が多かった。公約の内容が都民のことを考えているかいないかは抜きにして、共通する部分を挙げるとすれば「このままではいけない」という自分自身が持つ危機感だろう。
社会の「このままではいけない」を無理やり破壊しようとするからこそ過激に見えてしまう。このような存在は日本では当選こそしないが、海外では大統領になった例だってある。
たとえ、当選後選挙公約を守らなかったとしても、当選したのならばその危機感は有権者に支持されたことになる。他人に迷惑をかけてまでも自分の公約を通そうという意思を持つ人間がビジネスでは成功しやすい。他人の甘言に惑わされないリーダーとしての頼もしさを誰しも求めているからだ。

ここで重要なことを話しておくとすれば「他人に迷惑をかけない」ことは100%不可能だ。
大事なことなのでもう一度言っておこう。

100%不可能だ。

ここまで言い切れること自体珍しいと思う。
生きている以上、教師や家族、先輩、後輩、友達、近所の人、全く顔も見たこともない人、動物、植物などなど様々な関わりの上で生かされている。
選挙で例えれば、保守と革新で考え方が180度違うけれど、どちらかが完全に消えることはない。それは世界の中立を保つためだ。
世界の中立を守るために自分と異なる考えを持つ人がこの世界に存在するのならば、必ずと言っていいほどその人から迷惑がられて生きていくことになる。

だからといって他人に迷惑をかけすぎると警察に捕まってしまうし、迷惑をかけすぎないようにすると自分が潰れてしまう。
そんな絶妙なバランスを世界はあなたに課している。それは、世界を守るために必要なルールというもので、あなた自身を守るものではない。

生きづらいと感じているのは、自分だけの世界が尖りに尖って、バランスの針が振り切っているせいかもしれない。

そんなあなたにひとつ朗報だ。世界は360°で丸い。いくら尖りに尖って振り切ったとしても、いつかは元の場所に戻ってくる。そうすると一定の人数があなたの尖りを認めてくれるようになる。まだ実感していない人はもっともっと尖らせていこう。中途半端な尖りは自分を苦しめる棘となってしまう。

他人に迷惑をかけない→丸い→地球→環境を破壊される→破滅

こじつけだろうか? いや違う。世界は不思議にそうやって辻褄が合うようにできている。そう信じたいだけかもしれないが。
あなたは尖っていい。
世界には何十億と人間がいる。バランスなんて世界に任せて振り切ることに専念しよう。

もし相性最悪な人間を見つけたならこう思うことにしたらいい。
「自分とは真逆に振り切った『反他人に迷惑かけない連合』の仲間であり、自分とは真逆に針を振り切った犬猿の仲である」と。

厨二病っぽくてかっこいいじゃないか。

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