ローリング・ストーンズの傑作アルバム『スティッキー・フィンガーズ』を最高音質で聴く方法
ローリング・ストーンズのアルバム『スティッキー・フィンガーズ』は、彼らが1970年代に新たに設立したローリング・ストーンズ・レーベルから初めてリリースされたオリジナル・アルバムで、78年発売の『女たち』と並ぶ70年代ストーンズを代表する作品です。
本日の記事では、この『スティッキー・フィンガーズ』を最高の音質で聴くためのノウハウをお伝えしていきます。
結論からお伝えします。
ローリング・ストーンズの傑作アルバム『スティッキー・フィンガーズ』を最高の音質で聴くためには、このアルバムの最新盤(2020年12月4日発売)であるSHM-CDを入手してください。
その理由は、このSHM-CDが、英国オリジナル・アナログ・テープを基にした2011年DSDマスターよりHRカッティングされた音源を元に制作されているからです。
それでは、なぜ英国オリジナル・アナログ・テープを基にした2011年DSDマスターよりHRカッティングされた音源が最高音質となるのか?
そのことを説明する前提として、ここで、ローリング・ストーンズのアルバム『スティッキー・フィンガーズ』のリマスタリングの歴史を振り返っておきましょう。
『スティッキー・フィンガーズ』のリマスタリングの変遷
アルバム『スティッキー・フィンガーズ』のリマスタリングの変遷については、以下のとおりとなります。(全て国内盤)
①非リマスター盤/CD番号:23DP-5569/1989/9/21発売
②1994年リマスター盤/CD番号:VJCP-25111/1994/8/31発売
③2009年リマスター盤/CD番号:UICY-60159/2009/6/24発売
④2011年DSDリマスター盤/CD番号:UIGY-9066/2011/5/25発売
ここからは、それぞれの盤について、簡単に解説を加えていきます。
まずはじめに、①は初CD化された盤で音圧が異常に低く、今現在の耳ですと聴くに耐えないものとなっています。(CD化初期の段階では現在のようにリマスタリングの技術もノウハウも確立されておらず、アナログ時代のマスターをそのままの状態で単純にCDにコピーするという今では考えられないほどの低クオリティーの仕事ぶりがまかり通っていました。)
続いて②ですが、こちらは、これまでもローリング・ストーンズの数々のリマスタリングを手掛けてきた名エンジニアのボブ・ラドウィッグによる1994年リマスター盤です。
音色は、程よいエコー感と音の空間を感じさせる素晴らしいマスタリングに仕上がっています。(今聴くと若干音圧が低く感じられますが、これはテクノロジーの進化のためで仕方のないことです。)
③は、スティーヴン・マーカソンとステュワート・ウィットマン(マーカソン・マスタリング)による2009年リマスターで、各種音楽配信(Apple Music や Spotifyなど)の音源となっているものになります。
このリマスターは、ラウドネス・ウォーと呼ばれた2000年代の極端に音圧を上げることで迫力のある音を目指した手法により行われたもので、その迫力の代わりに豊かな音像空間を犠牲にしたリマスタリングは、トレンドとしては、現時点では既に下火になっています。
その弊害については、私自身も以下の記事にて言及していますので、興味のある方は参考にしていただければと思います。
参考記事:ローリング・ストーンズの2009年リマスターが失敗した理由
最後に④ですが、こちらは、英国オリジナル・アナログのマスターテープを基にした2011年最新DSDリマスターです。
SACDとSHM-CDのハイブリッド盤として発売されたこの最新リマスター盤は、過度な音圧を強調した③とは対照的な、アナログ・レコードを彷彿とさせるようなナチュラルでフラットな音像を特徴としています。
さて、ここまで『スティッキー・フィンガーズ』のリマスタリングの変遷を振り返ってみましたが、実は上記の①〜③と④には決定的な違いが存在します。
それは、①〜③の、アルバム5曲目の楽曲「ユー・ガッタ・ムーヴ(You Gotta Move)」の2:19部分に、マスターテープの経年劣化に伴う音揺れが存在していることです。
もしもこの音揺れが、レコーディング時に録音されたままのものであるとしたら、①〜④の全ての盤の同一箇所に存在しているはずです。
ところが、英国オリジナル・アナログのマスターテープを基にした2011年最新DSDリマスターである④にだけ、該当箇所に音揺れが見られません。
この事実は一体、何を意味するのでしょうか?
ここからは私の推測になりますが、おそらく、アナログ・レコードのオリジナル盤が発売された1971年時点のマスターテープの該当箇所には音揺れは存在しなかったと思われます。
それが、レコーディングから20年弱経過した時点で初CD化された際に使用されたマスターテープの経年劣化により、前述の「ユー・ガッタ・ムーヴ(You Gotta Move)」の2:19部分に音揺れが生じ、その音揺れが生じたマスターテープを基にCDが製作されてしまったというのがおそらく真相でしょう。
つまり、2011年のDSDリマスターの際に、従来のCDとは異なる別のマスターテープ(それが英国オリジナル・アナログのマスターテープでした)を探し出すことに成功したことで、これまでのマスターに生じていた音質劣化、いわゆる音揺れの入ったマスタリングにならずに済んだのです。
アナログ・レコードを彷彿とさせるナチュラルでフラットなサウンド
この「ユー・ガッタ・ムーヴ(You Gotta Move)」の音揺れが無いという事実だけで、前述の④が最高音質だと断言するのに十分過ぎる理由ではあるのですが、④の音質そのものも、英国オリジナル・アナログのマスターテープを基にしているだけあって、十分に素晴らしいものとなっています。
それは、2000年代前半に流行した、音圧を過度に上げることにより音像空間を犠牲にすることと引き換えに迫力ある音を目指した、いわゆる〝ラウドネス・ウォー〟と呼ばれる行き過ぎた音圧戦争を反省し、よりナチュラルでフラットな、アナログ・レコードの音像を目指したマスタリングです。
前述の音揺れが存在しないことももちろんですが、この敢えて過度に音圧を上げることを回避したマスタリングこそ、④の真骨頂と言えるのではないでしょうか。
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