音質を徹底比較!クイーンのヒット曲を、ベスト盤『グレイテスト・ヒッツ』と、映画『ボヘミアン・ラプソディ』サントラ盤とで聴き比べた結果とは?
クイーンの伝記映画『ボヘミアン・ラプソディ』が異例のヒットを記録しています。
映画のヒットを受けて、クイーンの楽曲そのものにも注目が集まっており、映画のサウンドトラック盤とともに、2枚のベスト・アルバムを始めとするクイーンの旧譜が軒並み音楽チャートを席巻しています。
そこで、今回の記事では、映画をきっかけに、過去のクイーンのヒット曲を聴いてみたいと思われる初心者の方向けに、そのうちの2枚のヒット・アルバム
・『グレイテスト・ヒッツ』(1981年発売)
・『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』(2018年発売)
に共通して収録されている彼らのヒット曲を聴き比べることで、その音質の違いについて徹底比較してみたいと思います。
クイーン最大のヒット・アルバム『グレイテスト・ヒッツ』
それでは、まず、今回の比較の対象となる2枚のアルバムについて、その概要を簡単に紹介しておきましょう。
『グレイテスト・ヒッツ』は、1981年に発売されたクイーンにとって初めてのベスト・アルバムです。
収録曲17曲(日本盤のみ、ボーナストラックとして「Teo Torriatte(Let Us Cling Together)」が収録されています。)全てが英米でシングル・カットされており、そのうちイギリスでのTOP10ヒットが11曲、アメリカでのTOP10ヒットが5曲を占めるなど、文字通り、彼らの全盛期を切り取った最強のベスト・アルバムとなっています。
事実、この『グレイテスト・ヒッツ』は、イギリスにおいてこの60年間で最も売れたアルバムというだけではなく、全世界での売り上げも2,750万枚を記録するなど、彼らのアルバムの中で最大のヒット作となっています。
ヒット曲に加え、ライブ音源を含む未発表音源を加えた映画のサウンドトラック盤『ボヘミアン・ラプソディ』
一方、映画のサウンドトラックとして発売された『ボヘミアン・ラプソディ』は、単なるベスト・アルバムではありません。
上記の『グレイテスト・ヒッツ』にも収録されているスタジオ・レコーディングのヒット曲に加え、映画の中でも流れるライブ音源、未発表音源(そのうちの一つは、クイーン結成前のバンド、スマイル(今回のサントラ盤収録のために一時的に再結成された)によって演奏された「Doing All Right」)も収録されている、初心者だけでなくクイーンマニアにも嬉しい1枚となっています。
同じ楽曲で、音質は変わるのか?
これから、上記にて紹介した2枚のアルバムに共通して収録されているスタジオ・バージョンの5曲
「Somebody to Love」、「Killer Queen」、「Bohemian Rhapsody」、「Crazy Little Thing Called Love」、「Another One Bite The Dust」
について、その音質に着目しながら、聴き比べた結果をお伝えしますが、ここまで読んできたクイーン初心者の方は、一つの疑問を抱くに違いありません。
それは、同じバージョンの楽曲であればアルバムごとに音質は変わらないのではないか?というものです。
結論から言いましょう。
同じ楽曲でも、そのアルバム制作時のマスタリングの環境によって、音質は大きく変わってきます。
現在、流通している『グレイテスト・ヒッツ』は、ローリング・ストーンズの作品等でも有名な名エンジニア、ボブ・ラドウィックによる2011年リマスター音源です。
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一方、サントラ盤の『ボヘミアン・ラプソディ』のマスタリング・エンジニアも、同じくアダム・アヤンとボブ・ラドウィックとなっていますが、おそらく、上記のスタジオ・テイクの5曲については、『グレイテスト・ヒッツ』の音源をそのまま流用しつつ、新たに収録された音源との整合性を図るため、音圧レベルを合わせるための〝慣らし〟を行っているものと思われます。
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そして、今回のサントラ発売に際して、前記のスタジオ・バージョン5曲の音質はそのエンジニアリングの過程で実際に変化しています。
まずは、『グレイテスト・ヒッツ』に収録された楽曲の音質ですが、各楽器の音色に厚み(=ふくよかさ)と艶が感じられます。
特に「Another One Bite the Dust」で聴くことのできるジョン・ディーコンのベースについては、『グレイテスト・ヒッツ』に収録された楽曲が、粘り気と厚みのある音色であるのに対し、『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』のそれは、何の変哲も無い、極めて普通の音色となっています。
『Killer Queen』では、両者のエコー感の違いが顕著です。
フレディ・マーキュリーのボーカルとピアノの残響音、ロジャー・テイラーのドラムスのスネアのアタック音やハイハットの微細な響き。全てが『グレイテスト・ヒッツ』の方に軍配が上がります。
ブライアン・メイの弾くギターの音色はどうでしょう?
ブライアンの弾くギターのは、どちらかというと、残響音の少ない、引っ掻いたような乾いた音色が特徴であるので、他の楽器と比べると、2枚のアルバム間での違いは明確ではありませんが、唯一の例外は、「Crazy Little Thing Called Love」です。
この曲は、50年代のロカビリー・ミュージックを下敷きにしており、そのため、ギターの音色も、例外的に、メロウで残響音が強いものとなっています。
『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』に収録されている楽曲のギターが平板で残響音が感じられないものであるのと対照的に、『グレイテスト・ヒッツ』のそれは、メロウで艶やか、かつ豊かな残響音に彩られています。
こうしてみると、ベスト・アルバム『グレイテスト・ヒッツ』には確かに存在していて、サントラ盤『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』で失われてしまったものとは、音と音の隙間(音像空間)にこだまする残響音の豊かさだということがわかります。
それでは、この音像空間と豊かな残響音の喪失は、一体何によってもたらされたのでしょうか?
その謎を解く鍵は、マスタリングについて、ミュージシャンの山下達郎さんが語っている以下のインタビュー記事です。
【HMVインタビュー】 山下達郎 『OPUS ~ALL TIME BEST 1975-2012~』
HMV&BOOKS online(2012年9月14日(金))
このインタビューにおいて、達郎さんは、アナログとデジタルではその音の特性が180度異なり、アナログ・レコーディングでは、その特性から自然に生み出すことの出来ていたグルーヴ感がデジタルでは出せないこと、デジタルでアナログと同じようにグルーヴ感を出すためには、ダイナミック・レンジを犠牲にしてデジタル・コンプレッサーにより人工的に音圧を上げ、見かけ上のグルーヴ感を出さざる負えないということを語っています。
以下、同インタビューより抜粋して紹介しましょう。
これが、サントラ盤『ボヘミアン・ラプソディ』にて、『グレイテスト・ヒッツ』に確かに存在していた〝残響音〟が消え失せてしまった最大の原因です。
今回、『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』を制作する際に、新たに収録されたライブ音源、未発表音源と、プレイリストで連続して再生されても違和感がないように、エンジニアがデジタル・コンプレッサーをかけまくった結果、音が空間に張り付き、現代のヒップホップ・ミュージックのような残響音の無い音像になってしまったと考えられます。
一方で『グレイテスト・ヒッツ』のマスタリングは、前述したように、エンジニアのボブ・ラドウィッグが、わざわざアナログマスターから96kHz/24bit用にマスタリングしたものでした。
この、デジタルとアナログの違いこそ、豊かな残響音の有無に繋がったと言っても過言ではありません。
なぜなら、達郎さんの言うように、デジタル・コンプレッサーこそ、音の隙間を無くし、アナログ・マスターの持っていた音像空間を潰してしまう原因に他ならないからです。
しかしながら、落胆する必要はありません。
幸い、Apple Musicなどのサブスクリプション配信では、自分の好みの音源を使って自由にプレイリストを作ることができます。
その際、上記の2枚のアルバムで重複しているスタジオ・バージョンの5曲については、『グレイテスト・ヒッツ』から、残りの曲は、『ボヘミアン・ラプソディ(オリジナル・サウンドトラック)』から選曲し、その2種類の楽曲をミックスしてプレイリストを作成すれば良いのです。
付け加えておくと、『グレイテスト・ヒッツ』以外のオリジナル・アルバムも、ボブ・ラドウィッグによる2011年リマスター音源が使われており、同じく最高の音質にて聴くことができます。
最後に、この2011年リマスターを行ったエンジニア、ボブ・ラドウィッグのインタビュー記事を紹介しながら、この記事を締めくくることにしましょう。
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