サイクルツーリズムで地域課題を解決|「仁王輪道」プロデュースの軌跡
自転車は、自然の匂いや風を体全体に受け、季節の移り変わりを五感で感じながら移動できる乗り物。
目的地まで一直線に。
あるいは寄り道したり立ち止まったり。
自分のペースで気ままにどこにだって行くことができるーーーー。
そんな自転車の特性を生かした観光「サイクルツーリズム」にいま注目が集まっています。
グリーンツーリズムやエコツーリズムへの社会的な需要の高まりからも見られるように、 景勝地を巡るだけでなく、地域とのふれあいや土地の文化を感じる旅へと、トレンドが移行しているのです。
サイクルツーリズムにおける、自然とのふれあい、環境保護、健康促進、文化体験といった特徴は、SDGsとも親和性が高く、 持続可能で地域に根ざした観光の形として、さらなる推進が期待されています。
わたしたちツナガルも、2016年より、サイクルツーリズムの推進を通じて、地域の観光振興につなげる活動を続けています。
今回のnoteでは、ツナガルとサイクルツーリズムの関わり、そして観光と地域づくりを一体化した新たなツーリズム創出に向けた挑戦について、お伝えしていきます。
PROJECT SUMMURY:仁王輪道(国東半島サイクルルート)開発でしたこと
大分県国東半島において、自然を保全しながら観光資源として活用する「仁王輪道(国東半島サイクルルート)開発」を運営。
ハード面では、安全で快適な自転車走行を実現するための環境調査やレスキュー体制の整備を進行。
ソフト面では、複雑な地形が生んだ風土や、神仏習合をはじめとした土地独自の歴史を体感できる観光コース設計と、旅行者のおもてなしを担う地元人材の育成を実施。
サイクルルートの行程に、地元住民や地域に暮らすアート・カルチャーに関わる方々と交流できる休憩スポットを用意することで、新しい出会いと関係性を生み出す仕掛けづくりを施した。
■プロジェクト概要
名称:「仁王輪道」開発プロジェクト
クライアント:国東半島振興対策協議会
<チーム体制>
プロジェクトマネジメント:ツナガル株式会社
Special Thanks:国東半島地域の皆さま
BACKGROUND:観光と地域づくりを一体化。新たなツーリズム創出にむけたアプローチ
大分県の北東部に位置する国東半島は、瀬戸内海に突出した火山半島。
山地や丘陵地、変化に富んだ海岸線、美しい棚田などの複雑な地形をつくりだし、神秘的な情景を生み出しています。
国東半島のもうひとつの魅力は、どこか懐かしさを感じるノスタルジーです。
古代から交通の要衝として、かつて多くの人々が行き交い、文化的交流が活発に行われたため、 日本固有の神と外来進行を調和・融合させた、神仏習合文化が独自に発展。
地域では、1300年前から続く文化、貴重な国宝や文化財が残り、いたるところで寺院や神社、何百体もの石仏を見かけることができます。
一方で、国東半島は、過疎化という問題にも直面しています。
産業の衰退などを要因とした人口流出、少子化、高齢化により、 地域の人口は10万人程度(4市町合計)に減少。半島全体の課題となっています。
豊後⾼⽥市、国東市、杵築市、⽇出町の4つの市町からなる「国東半島振興対策協議会」とツナガルは、 この課題の打ち手として、サイクルツーリズム(自転車観光)による地域活性化を考えました。
国東半島は谷をまたいで観光スポットが点在しているうえに、駅などの主要ゲートウェイから半島内を周遊する交通手段が少ないという課題がありました。ここに自転車を移動手段として活用することで、観光地から次の観光地へのアクセスの改善が期待できます。
さらに、サイクルファンや観光客の圏内の滞在や周遊を促進し、地域経済成長への寄与も狙えます。
また自転車は二酸化炭素の排出がないため環境にやさしく、観光地の環境を保護しながら観光が楽しめる乗り物。
小回りが利き、車では行けないような細い道や山道も走行できるので、自然の美しさを直接感じられ環境保護への意識も高まるわけです。
こうして、自転車の特性と半島の持つ豊かな自然やまち並みなどの景観を活かした、サイクルルートの開発がはじまりました。
ツナガルは、本開発の立ち上げから総合的に支援。国東半島振興対策協議会とともに仁王輪道サイクルルート開発を行いました。
APPROACH:ルート開発|ユニークで深い体験を提供するサイクリングロードとは?
本プロジェクトでは、サイクルツーリズムをきっかけに、国東半島の地域住民・来訪者それぞれに新しい価値を提供することを目指しています。
ツナガルは有識者とともに観光ポイントの実地調査を重ねながら、魅力的で安全なサイクリングルートの開発を進行しました。
また、旅行者のおもてなしを担う地元人材の育成も並行して実施。
観光、まちづくりを盛り上げるために必要不可欠な人づくりにも取り組んでいます。
目指すべきゴールの実現のために、本プロジェクトではハード×ソフト双方からアプローチしました。
■環境調査
サイクリング環境の安全性を担保するための基礎調査として、交通量調査、交通速度調査、道幅調査などを実施。レスキュー体制の整備も行いました。
国土交通省と警察庁が策定した「安全で快適な自動車利用環境創出ガイドライン」をもとに、道路交通の有識者とサイクリングコースの候補となる道路を選定し、調査しました。
■地域編集としてのサイクルコース設計
サイクルコースを設計するうえでツナガルが大事にしたのは、「土地のストーリーとサイクリストの視点」です。
ツナガルは国東半島を実地調査し、古来から続く里山の風景や、季節の移り変わりを知らせる祭り、外来の信仰を受け入れ調和させてきた歴史などの、土地のストーリーに注目しました。
何度もフィールドに通い身体で土地を感じ、地域のアイデンティティに共感したうえで、来訪者が国東半島の文化を感じられるユニークな観光ポイントを設計していきました。
もうひとつ大切にしたのは、サイクリストの視点です。
以下のような視点を踏まえ、立ち寄りポイントの選定をしていきました。
■ガイドの育成、地域の受け入れ環境をつくる
サイクルガイドには地元住民に協力を仰ぎました。
非サイクリストでもガイドができるよう、レクチャーの機会を設けています。
また、旅人と住民の交流・休憩の場としてサイクルオアシスを設置。
自転車フレンドリーな地元住民が、農家民宿・ターミナル・小売店・喫茶店などの一部を開放し、休憩できるスペースを提供してくれています。
■レンタサイクルポートの設置
こうした機運が結実し、観光客が手ぶらで来訪しても気軽にサイクリングを楽しめるよう、地元行政がレンタサイクルポートを設置しています。
クロスバイク・シティバイク・電動アシストなど、種類・台数が充実していることも嬉しいですね。
日出町に生まれたサイクルガイドRingさんでは海外ブランドのハイエンドモデルのバイクの貸し出しも。グラベルルートを巡るガイドツアーも人気を博してします。
https://oitacycletour-ring.com/
■アーティストやクリエイターとのコラボレーション
モデルルート行程に、アートやカルチャーに関わる方々と交流できるスポット、クリエイティブな暮らしに触れられるスポットを用意することで、新しい出会いと関係性を生み出す仕掛けづくりを施しています。
また、地元フォトグラファーWarashibe Pictures谷氏のアテンドで、地元で活躍するクリエイターやアートスポットを紹介する『国東半島仁王輪道Ride&Hike クリエイティブなローカルに出会う旅』のツアーも実施しました。
■ツール制作(WEBサイト、マップ、路面標識)
本プロジェクトでは、WEBサイト、マップ、路面標識などの各種ツール制作も手掛けています。
RESULT:国土交通省のサイクルツーリズムモデルルートに認定
「仁王輪道」は、国土交通省のサイクルツーリズムモデルルートして認定されました。
なお現在、本ルートを活用したツアーは、以下の各団体から販売されています。(※2024年6月時点)
豊の国千年ロマン観光圏:https://www.millennium-roman.jp/
Ring - Oita cylcle tour:https://oitacycletour-ring.com/
IMPRESSION
2016年に九州拠点の立ち上げに合わせて、ツナガルでは体験づくりや地方創生が事業の主軸のひとつになりました。
そのうちのひとつとして取り組んだのが、「国東半島・仁王輪道のサイクルルート開発とプロモーション」です。
ときを同じくして2016年12月に自転車活用推進法が公布、2018年6月に自転車活用推進計画が閣議決定され、各地域や自治体の方々が、自転車を活用した観光の推進に取り組み始めたたことも、私たちの新規プロジェクトの追い風になりました。
本プロジェクトでは、自然の保全と活用を両立させながら、観光資源を経済価値へ変換する、新しい観光のかたちをつくることができました。
当時は比較的新しかったサイクルツーリズムですが、現在、自転車を中心としたまちづくりは、日本中のあらゆる地域で進められています。
私たちは、本プロジェクトのような、観光と一体化したまちづくりを通して、地域に暮らす人や地域をより良くしたいと頑張る人たちの想いを支援する会社でありたいと考えています。