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「地面師たち」まだの方も見た方も

Netflix入ってないタイミングだったんで遅くなりましたが、「地面師たち」を見ました。


配信やWOWOW、スカパーなど、様々なサービスを月によって出たり入ったりしてるんで、タイミングが合わないとなかなか見られない。


最初YouTubeでCMが流れて、スキップできずに最後まで見てしまったときから、きっとこれはなんかすごいやつだとは思っていたんですけど、案の定社会現象クラスの話題作となりました。


話題は話題だけどネトフリでしか見られないし、まだ加入に迷っている方もいるかもしれません。
今回は

  1. 見たいけど加入に迷っている方

  2. 見た人&もっと内容を知っておきたい迷ってる人

  3. 最終話と原作のネタバレを含む感想(有料)

大きくこの3つに分けて話してみます。
7000字くらいは無料です。


見る気がある人はこんなの読んでないで見てきてください。
迷っている人はちょっと読んでみて、興味が出てきたら読むのやめて見てきてください。
全部見た方は最後まで是非お付き合いください。


※広告リンクを含みます


1.地面師たちは絶対に見た方がいいか

見た方がいいかと聞かれたら、絶対に見た方がいいです。

世の中、地面師たちの引用だらけだから。
面白くても面白くなくても、口にあってもあわなくても、これだけ生活のあちこちにちりばめられてしまった作品は、触れておいて損がない。

Twitterやってたら最近やたらと見たでしょう、トヨエツの画像。

無理して見ることはないし知らなきゃいけないということではないけど、知ってた方が人生が楽しくなるので、そういう意味では絶対に見た方がいいという言い方をします。


内容面で言うと、Netflixに加入しているのなら見ない理由がないです。

じゃあこれのために加入してでも絶対に見なさい!と言えるかというとそれは相手によるけど、まあネトフリに地面師以外にもうひとつでも見たいものがあるなら、加入を躊躇う必要はないと思いますね。


「地面師たち」とは

さて、そもそもどんな作品なのかというと、詐欺師グループが詐欺をする話です。

詐欺にかかりやすそうな人を選んでひっかけるような小さい話ではありません。
到底詐欺師に騙されないような何重にもチェックが働いているはずの大企業から100億もの大金を騙し取るという、クソデッケー詐欺の話です。
夢があるな。
(フィクションなら)


「地面師」というのは「不動産専門の詐欺師」の呼び方。
土地の所有者に成りすましてその土地を売却し、代金を騙し取る。
戦後の混乱に乗じて多発したとされ、近年は東京五輪による地価上昇で再び被害が増えているとされる。

2017年には大手企業の積水ハウスが地面師の成りすましによる詐欺で約55億円の被害に遭った。


この積水ハウスの事件をモデルに書かれたのが新庄耕の小説「地面師たち」


それを大根仁監督が映像化したのが、今回語るNetflixドラマ「地面師たち」である。
全7話。


詐欺師のバクマン

まー面白いです。

いわゆる「クライムサスペンス」になると思うんだけど、それにしてはものすごくあまりにも親しみやすい。

ドラマの冒頭では毎話、「見た目は子供、頭脳は大人」ばりに「地面師とは…」って説明ナレーションが入るし、

(ちなみにナレーションは山田孝之)

1話目をまるまる使ってしっかりチュートリアルを行ってくれる。

地面師とは?
手口は?
誰を騙すの?
何故騙されるの?
バレたらどうなるの?

そういう地面師詐欺の一連の流れを、恵比寿の10億円の土地を新進企業に売却する件を通じて、とても丁寧に見せてくれる。

題材が詐欺師なだけで、リアルなお仕事ドラマのような一話だった。



リアルを実直に書こうとする感じは、実写映画「バクマン」の前半を思い出す。
詐欺師のバクマンだ、と思いました。


2話以降は本題の100億円詐欺の話に入っていくんだけど、とにかく難しいこと言わない。
話がすーっと入ってきて、あとはテンポよく引き込んでくれる。

サスペンス、特にアウトローの作品って、界隈の独自ルールを用いてたり、仲間内の言葉を使ったり、パッと見聞きしてすぐに飲み込めなかったり、少しの油断でついていけないような小難しさがあったりするんだけど、地面師たちはそれが全くない。

セックス、暴力、薬物はあるので子供の見るものではないけど、話についていけるかいけないかだけで言えば小学生でもついていけそう。

むしろ、露骨に挿入される死体、暴力、セックスが浮いて見えてる。
「地上波じゃないんだからこのくらいやっとかないと差別化できないよ~」って無理にねじ込んでる感じ。
これもある種、過激でエキサイティングな作品だと知らしめる「分かりやすさ」でもあるんでしょう。

(実際地上波でやろうと思ったらレイティングの問題じゃなくて積水ハウス関係の方が問題になるんでしょうけど)


そして、登場キャラクターの魅力にも引き込まれる。

地面師「たち」と言うだけあって、地面師詐欺は様々な役割の人間でチームを組んで行われます。
このへんのお仕事分担についても、1話で実演しながら教えてくれます。



チンピラ風の北村一輝が土地の情報を探してきて、リーダーの豊川悦司が指揮を執る。
小池栄子が土地の所有者役に相応しい人材のスカウト、面接、演技指導を行う。
主人公の綾野剛は穏やかで信用に足りそうな交渉役。
先方がいらんこと言ったり話が難航しそうになったらピエール瀧が「もうええでしょう」って割って入ったり圧かけたりする。
それをまた綾野剛が和らげてっていうコンビネーション。

キャスティングも派手だし、わりとピエール瀧ってこういう役、小池栄子ってこういう役ってみんなが思うようなキャラクターなんでそこも分かりやすくて、これだけで目に浮かぶものがあるんじゃないかと思います。
地面師詐欺自体は地味だけど、このキャスティングの華やかさと役へのハマり具合にまた引き込まれてしまう。



分かりやすさでがっちり掴まれて、スピード感でどんどん連れていかれる。
気づいたら夢中になっている。
そんな感じでした。

「考えさせられる」というよりは、気持ちいいくらいにエンタメに舵切ってる。


ハリソン山中の圧倒的存在感

それなのに凡作にならずにここまで話題になっている理由はいくつか考えられるけど、最大の理由はハリソン山中(豊川悦司)の存在感だと思います。

上等なスーツに身を包み、謎の部屋で高級ウィスキーを嗜み、丁寧な言葉でゆっくりと話す。

この異質な存在感ひとつで、ドラマ「地面師たち」の雰囲気は類を見ないものになっており、立ち位置を何段階か押し上げたんじゃないかと思う。
これは結構凄いです。

あのめちゃくちゃ流れてくるトヨエツの画像何?
最もプリミティブで…みたいなの何?
みたいなところからでも見てもらえたら、ハリソン…なるほど…となりますので。


あ、あと劇伴が石野卓球なのもポイント。
ドラマでありがちな場面に合わせてわざとらしく音楽かかるあの感じとは対極で、徹底して空間や雰囲気の演出に徹していて最高にクール。


そんな感じで、「実際の詐欺事件をモデルにしたクライムサスペンス」と聞くと社会派で硬質な雰囲気になるし、綾野剛やピエール瀧やリリーフランキーが出てくる詐欺師の話と聞くと白石和彌的なあれか?と思いがちですが、どちらでもありません。
地面師たちは誰でも気軽に飛び込めるエンターテイメント。
見たくない人以外は是非見てみてください。


(あなたがこのリンクからネットフリックスに加入しても、わたしには何の得も発生しないので安心してください)


2.「地面師たち」はチョロQで感動パンツ

さて、見て損のない超面白エンターテイメントドラマと言い切ってもいいとは思うんですが、じゃあ非の打ちどころもない名作なのかというとそういうことでもない。

※ここからは中盤までのネタバレを含みます


結構言ってる人いると思うけど、ピークは4話。
5話以降どんどんテンション下がってく。
ツッコミどころは前半からずっとあるけど、それでも面白さが上回っていた。


リアリティレベルの問題

わたしがわりかしそういうところがあるんですが、「作品内のリアリティレベルにうるさい人」には向いてないかもしれません。

わたしは前半はめちゃくちゃツッコミいれつつも楽しく見ていたし、ラストに向けてはなんでこうなっちゃうかなぁと思いながらもトータルでは傑作だと思ってますが、トータルがマイナスになっちゃう人もいると思う。
それも分かるので、若干キレ悪くなるのはそういうところですね。


リアリティっていうのは何も我々の現実と同じであれということでは当然ありません。
作品世界内のリアリティの問題です。
攻殻機動隊には攻殻機動隊の、アンパンマンにはアンパンマンの世界があるわけじゃないですか。
その世界のリアルがある。
そこを軽視されると萎えちゃうところはある。

(中にはそういうリアリティを意図的にずらしたり逆手に取ったような作品もあったりしますが、そういう作品って「その部分」をめちゃくちゃに重視しているのでいいですよね。パッと思い浮かぶのは「今、そこにいる僕」とか)


「地面師たち」もさっき言ったように、最初は凄くリアルに不動産詐欺の様子を描いていたわけですよね。
実際の不動産売買も詐欺師も知らないのでどこまで現実において「リアル」なのかは分からないけど、リアル「路線」であること、作品世界のリアリティラインはあそこで示していたはず。

それがどうも見てると、普通そうする?その必要ある?そういうツッコミを入れたくなる場面が少なくない。

例に挙げると、土地の所有者が入れ込んでるホスト・楓を利用しようと、拓海(綾野剛)は特殊メイクをしてホストクラブに潜入。
思惑通り楓を嵌めることに成功したら、手下のアントニーが児ポで強請って言うこと聞かせればいい。
でもわざわざその場面に拓海は素顔を晒して現れるんですよね。

目的の達成のためには拓海が正体明かす必要は全くないです。
拓海のメインは企業との交渉役であり、いらんリスクを負うなと言いたい。
そういう場面がちょこちょこある。


それって何かに似てるな、何かを思い出すなと思ったら

実写映画「バクマン」だ…


(数分ぶり2度目)


見たのが結構前なので具体的には忘れちゃいましたけど、これも作品前半で示した週刊少年ジャンプ編集部や漫画家のリアリティと、その後のレベルが違っててなんじゃこりゃってなったやつ。
週刊連載してるのにアシスタントのひとりもいなくて過労で倒れて????????とかなんかそういうかんじ。
これは大根監督のクセか。

(映画バクマンはエンドロールが一番よかったですね)


おそらく、地面師詐欺も少年ジャンプ編集部も、監督からしてみたらすべてを本物として描いてるわけじゃないっていうのが原因な気がする。
多分いっぱい嘘が入ってる。
ジャンプで言ったらあんなふうにアンケート結果を貼りだしたりはしないっていうし、取材して本物を知った上で画的にいいように、分かりやすいようにした「嘘」がたくさん混ざってる。

だから全部が全部忠実にリアルを表現しようとしているわけじゃないよ、原作にはいるけどアシスタントはカットしたよも通るように思ってしまうのかも。
地面師たち第1話の詐欺シーンだって、「リアル」だと思ったからってこっちはそれが「現実」だと思っているわけじゃないんですけどね。
なんかそこの微妙なズレが共通してるなぁ。


ほかにも、刑事の張り込みやメモの残し方への違和感、カフェで横の席に聞こえる声で「ハリソン」など名前を出しながら会話をする地面師たち、関わった地上げ屋を殺すならもっと事故に見せかけたり失踪を装ったりした方がいいんじゃないのかとか、とにかく巧妙な犯罪者の姿を見に来たはずなのにいちいちお粗末。

ハリソンという人がとにかく快楽優先、スリルを味わうことを本質としていて、しかも最終的にはみんな消しちゃえば小細工なんかいらないよってことで説明つかなくはない。

でも「スリルを口実にすれば犯罪は甘くていい」んだったら、もはやなんでもいいでしょ。
そうなったらただの「快楽殺人者ハリソン」でしょ、B級ホラームービー。


思うのは、絶対に面白いもの、見せたいもののためには犠牲を厭わないのかな、と。

あそこで拓海が楓の前に現れた方が、当然画としてはいい。
あの一連は拓海をダークヒーロー的にかっこよく輝かせた。
人に取り入るうまさも、謎の極上セックスも、「地面師たち」においてというか「ピカレスクロマンの主人公拓海」をめちゃくちゃに盛り上げている。

醤油がこぼれるのも雑な殺人も駄々洩れの会話も、リリーフランキーを最終的な見せ場に導きさえすればいいのだろう。
その先にはなかなかお目にかかれないレベルの輝きが待ち受けているのだから、少々強引にでも連れて行けさえすれば黙らせられる、そういう強い意志なのかもしれない。

趣味で創作をちまちまするものとしては、こう持っていきたいけどこの人はこんなセリフは言わないとか、そういう葛藤って常にある。
そしてわたしはそれを曲げられない。
だからそこを飛び越えてでもいくっていうのは、「強い」です。素直に。
もっとうまくやってほしいと思う気持ちはあるけど、それでも勝ちは勝ち。
そんな気持ち。

後ろにいっぱい引っ張った方が遠くまで走るしね、チョロQなら。
そんな感じで、結果的に得るものの方が大きいので、適度にツッコミ入れながら楽しんでました。
(中盤までは。ラストはまた後程。)


キャストについて語りたい

キャスティングとキャラクターについては本当に最高でしたね。
ひとりひとりについて詳細に書きたいくらいだけど、それやってると大変なことになるからやめとくが、これだけは言いたいのはホストの楓(吉村界人)のあの良さはなんなんだということですね。

あの魅力なんなんでしょう。
分かりやすく怒りとか泣きとか感情がガーッと出る演技して「凄かった~!」とかそういうんじゃないんですよね。
楓があまりにも楓だった。
ナンバーワンホストという、いわばお山の大将で、その煌びやかさとちっぽけさを同じ器にもっている、ついでに熊谷出身、そういう顔をしている。
楓が楓としてあまりにも自然に存在している。
それが素晴らしかった。


ピエール瀧は若干うさんくさすぎたけど、やり口を分かりやすく説明する役割としてはちょうどよかったのでしょう。
ああ見えて最もポップな役かもね、「もうええでしょう」に代表される通り。

大阪弁ネイティブの北村一輝の前で大阪弁話すのはプレッシャーだったと言っていたけど、ピエール瀧の前でヤク中の演技させられた北村一輝もかわいそう。
瀧のセリフでは「変なクスリに手え出さんかったらええけどなあ」っていうのが一番面白かったですね。

対する北村一輝は「ルイヴィトン」のひとことで「あ、こいつおしまいだ!」って分からせるその力、強すぎる。
オラついてる北村一輝めっちゃ癖だけど、これは行き過ぎてた。
ちゃんと行き過ぎてて、これは無理と思わせてくる。すき。

小池栄子は派手な装いはもちろんのこと、和装とかちょっとみすぼらしい地味な感じとか、何着せても似合うよねえ。
麗子という役が演技力高くて役になりきるタイプの役で、そこに説得力を持たせるのは凄まじい演技力だと思います。


このへんの地面師メンバーとか、マキタスポーツとかリリーフランキーとか、結構この人と言えばこれ!っていうような役そのままな感じですよね。
キャスティングがここまでジャストフィットなことあるかというくらいハマってる。

もちろん、役者にとってはぴったり合ってることだけがいいってことではないでしょう。
丸裸で挑むような役もあれば、何十キロもあるような鎧に身を包まないといけないこともあるでしょう。
それにより引き出される見覚えのない顔って言うのも価値があるものだと思いますが、今回に関しては多くのキャストが「サイズぴったりで動きやすくて似合っている服を着てる」ようなジャストフィット感が作品の価値を高めてるように見えました。

肘の可動域広いな~みたいな、ユニクロの感動パンツのCMみたいな、窮屈さがなくてキャラクターが生き生きとしている。
そして個々の背景を時間割いて描かなくてもキャラクター性が伝わりやすく、作品の魅力であるスピード感にも一役買ってると思いました。

(どうもメインキャストに関しては監督の希望がそのまま反映されてるっぽいですね。
そう思うと、何かの力でねじ込まれたキャスティングとか、キャストありきの作品とかあるけど、そういうのって作品の魅力に無関係ではないよな~と改めて思わされる)


ハリソンは本当にトヨエツでしかありえなかったと思うし、青柳も山本耕史でしかない。
最近の山本耕史の、役職とプライドが高そうなエリート像とそれが失墜するところまで含めてすべて引き受けてくれるあの信頼感たくましすぎる。

そして何より綾野剛。
パブリックイメージ通りのキャストが多いとはいったものの、綾野剛のパブリックイメージって何?ってくらいいつも違うよねえ。
だから残るのは「足が速い」になっちゃう。
スニーカーがぴったり合ってたことでしょう。

拓海って作中で一番感情を追いかけられているはずで、悲惨な過去も分かっていて一番行動原理も分かりやすいはずなのに、心中が全然分からないんですよね。
実はハリソンよりずっとミステリアスで、何事も淡々とこなしていて、かといって飄々としているわけでもなく何かを背負い続けてはいて、その塩梅は見事すぎて何とも形容しがたい。

原作にない追加キャラについてはあとで言いますね。


地面師たち、これあと2万字くらい書けるな…
本当は”「地面師たち」は地上波ドラマの希望、理想”という話を今回全体の主題としようと思ってたんだけど、あんまりまとまらなかったのでパス。
本文はここまでとします。

この先は終盤の失速、原作との相違などの話をします。
単体購入も可能ですが、同じ金額で過去記事も読めるメンバーシップがお得です。


3.タクシー、エライザ、黒パンツ


※ここからは結末と原作のネタバレを含みます。


さて、わたしが最大にテンション下がったのは
「竹下謀反により川井菜摘帰京!地面師たちは制限時間内に目的を達成できるのか!?ハラハラドキドキバラエティ」
が100億円詐欺成功するか否かの最大のピークになったからですね…

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