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R-1グランプリ2023〜確かに在る夢 立ちはだかる壁〜


【作家ツムラのお笑い"知らんけど"論考】


昨晩、ピン芸人日本一を決める大会、
R-1グランプリ2023が幕を閉じ、
あるあるフリップの向こう側を突き抜けた
西の職人、田津原理音が王者の
称号を手にした。


彼はファイナリストの中では
まだ露出も少なく、
明らかなダークホース。

昨年末に投げかけられた
この大会に対する矢を弾くように、
たしかに夢はそこに在った。


彼の今後の活躍がそれを後押し
してくれる事を願いつつ、
今回は、私が大会に感じた、
Rの戦士たちに立ちはだかる、
大きな壁について書きたいと思う。


3分の壁


私が今回まず感じたのは、
R-1グランプリの規定ネタ尺、
"3分の壁"である。


たとえば、5番手出番の天才、
カベポスター永見くんのネタ。

バカリズム氏の講評にあったが、
無駄な肉を削ぎ落とした、
圧倒的ストロングスタイルの
一言ネタである故、
一発一発を慎重に見られての減点。

ただし、
おそらく彼はこのネタのそういった
隙も承知の上。
「ロープウェイ」の様なリンクも
複数やろうと思えばきっと可能だったが、
3分の中での取捨選択を迫られ、
覚悟の上で、それを突破できる
数を、そして幅を選んだ、という話では
ないだろうか。

他の演者にもそれは言える。
3分という短い時間の制約に、
何を取って、何を捨てるか
大きな選択をしないといけないのが、
R-1グランプリの壁である。


◆◆

(実際のところはここまで単純な話ではないが)
3分間の内、
手数を選ぶなら演技力を削ぎ、
一撃必殺を狙うなら静の時間を費やし、
個性を強めるなら複雑なテクニカルを
用いずシンプルに駆け抜けないと…

何かに目を瞑らないと収まらないのだ。


◆◆◆

好みの壁


今大会で、これまで以上に
浮き彫りになった、ピン芸の
本質であるともいえる部分。

それは、"好み"という壁である。


R-1、ひいてはピン芸は、
1人であれば、いわば「なんでもアリ」。

その自由度の高さ故、
決勝の8人だけでも、
ネタのジャンルはまちまちで、
一方で、審査員の5名こそ、
これ以上にスタイルがバラバラの為、
重要視する点は各々で、
点数に、非常に好みが出た結果となった。


当然である。
必然である。

だから難しい。

バカとインテリを程よくブレンドした
パワーとセンスを兼ね備えた
わかりやすくベタすぎないネタ!?

しかも3分で!?

不可能に近い。

絶対にバランスは
偏るはずだし、
それによってどうしても審査に
好みが出てしまう。

それがピン芸の奥深さでもあるのだが、
こと競技となると、
綱渡りの如くスリリングな
ネタの精度を強いられる
地獄の大会とも言える。


◆◆◆◆


チャンピオンの魅力


最後に、そんな壁を突き破った
チャンピオン、田津原理音のネタの
魅力について語らせてほしい。


再びバカリ審査員の講評に戻るが、
「このネタはVTRで見せるのが適解じゃないか」
というもの。

世間がもしこの感想に影響されて、
チャンピオンに今後少しでもそういった目を
向けられてしまっては、
身内としては、不憫だと思うので、
僭越ながら異論を唱えたい。


私は、
このネタは、VTRでやるもの、
という感覚は否定しない。

いや、むしろ、
VTRでしか普通はやれない。

VTRでしかできないことを
ライブでやっているから凄いネタなのだ。


YouTubeなどでよくある、
トレカ開封動画のパロディに乗せて、
あるあるを紹介していくこのネタ。

もしこれがVTRなら、
視聴者は、大部分カードに書かれた
あるある"だけ'を楽しむネタだ。

VTRなら、
開封のテンポもリアクションも
編集でそれっぽく簡単にできてしまう。

しかし、彼は
そんな動画のパロディを、
生で、
カメラのズームをスピーディーに
操作し、
カードを矢継ぎ早にめくり、
ステージ上でやってのけたのだ。

しかも、何故か
コントではなく、
終始、観客に話しかける"漫談形式"
で送る。

これにより、
本来手元にしか行かなくていいはずの
目線を、彼にとっての右側、
客席にも逐一送らないといけない、
という縛りがついた。

しかし、このネタを劇場で観た時に
思わず「コントにした方がいいんじゃない?」
という安直なアドバイスをしたことを
今更ながら恥じている。

つまり、漫談スタイルにすることに
よって、
観客が、開封に参加する、という
まさにライブ感のある効果が
得られるのである。

実際、レアカードが出ると、
客席から感嘆が漏れていた。

謎のカードに臨場感を持たせて
カード大喜利以外の部分でも
楽しませる工夫、
そもそも、カメラの操作や複雑な段取り、
そして、自作カードのクオリティー。


あのネタは、
弛まない努力と研究の成果で
生まれた、奇跡の傑作だと
言えるだろう。


◆◆

チャンピオンがこれまで
磨いてきた
"あるあるフリップ"という刀と
もうひとつの顔
"カメラ"
が運命的に出会い、
かつて見た事の無い武器に仕上がった。


ピン芸人はひとり。
いつだって立ち戻るのは"自分"。
汗かき、もがき苦しむのも"自分"。


夢は自分の中にあり、
壁に向かうには自分の中にあるものを
使用(つか)うしかない。


孤独がいかに厳しく、
いかに眩しいものかを思い知らされた、
そんな大会だった。

おめでとう。


◆◆◆

田津原とのノリで、
こっちが必死で作業してる時に限って
「津村さん、ネタの相談いけます??」
「今無理なん見てわからんか!?」

というのがあるんですが、

もうどんな急ぎの作業でも
断れへんし、
アイツも相談せんやろな。



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